ラム4 板挟みのシャロン
授業が終わり放課後となった。旧図書館は古い書物しかないので利用者はほとんどいない。静かに読書をしたい者や昼寝をしたいもの、かなり自由に過ごしているが人と会う事は滅多にない。表立ってエテルと会うとやっぱりあの二人、と噂されてしまうので場所を選んだようだ。あと人に聞かれたくない話だからというのもある。
エテルとシャロンは初対面になるので軽く自己紹介を済ませた。そして町で見聞きしてきたことをシャロンにも共有する。
「学校で、いや国中で起こったら大変なことになる。しかもこの原因がわかったら魔法協会は絶対に情報共有なんてしない、調べられるだけ調べてみたい」
「そうですね。それにもし本当魔法を打ち消すものだとしたら。そんな魔法が出来上がってしまって実験をしている者がいたとしたら。魔法使いの存在意義そのものが危うくなってしまいます」
「確かにそうだけど。三人でできることってある? しかも町じゃなくて学校内で」
「その事だけど、シャロン。このことをお父上を他の教師に聞くのは絶対にやめてくれ」
「え、なんで? そこが一番確認しやすいんじゃない?」
理事長も国の重役など横繋がりは広い。もともと魔法騎士団にいて、知人の伝手から理事長を引きつ受けたのだ。権力や知見の広い者に協力を仰げるはずなのだが。
「今回のことで教師の中に協会の息のかかった奴がいるっていうのもわかった。どこから情報が漏れるかわからないし、そんな探りを入れているのがわかってみろ。相手はどう思う?」
「あ……」
殺してくれと言っているようなものだ。協会には暗躍する者が多いのはシャロンが一番よくわかっている。表沙汰にはならないが、命の奪い合いなど珍しくない。
「それだけ危ない橋を渡るってことだ。続けるかどうか、みんな今ここで決めてほしい。僕は続ける」
「私も続けます。こんな重要なことを見て見ぬふりができるほど私は器用じゃないですから」
即答した二人と違いシャロンは一瞬悩んだ。もしこれが本当なら確かに魔法使いの存在意義が揺らぐ出来事だ。よからぬ者の手に渡ってしまったら、魔法使いは何の価値もなくなってしまう。魔法使いの力でこの国は発展してきたと言っていい、それが根本から覆る。魔法使いの価値がなくなり魔法使に良い感情抱いてないものたちから迫害を受けるだろう。それか道具として利用されるだけとなるか。
参加した方が良いのだが、自分の立場上どこまで関われるか難しいところなのだ。
「釘を刺すよ、シャロン。もしこの件を君の父に少しでも話したら、僕は君と縁を切るつもりでいるからそのつもりでいてくれ」
「そ、そこまで!?」
「君が父上を尊敬し恵愛しているのはわかってる。だからこそ父上を裏切らないのもわかってるよ。君の父上は立場上、苦渋の決断をしなければいけないし辛い選択をしなければいけない。僕はそれに従うつもりはない」
「でも!」
「例えば。大混乱を招くから他の者には一切口外するなって言われたら君はできる? 突然魔法が使えなくなって退学処分になる生徒が続々と現れた中でも?」
絶対にないとは言い切れない。魔法石だけで一切使えないという状況になっているのだ。魔法学校は当然魔法が使えなければ在学できない。魔法が使えなくなったら強制退学処分ができることになっている。授業をサボったとか魔法の鍛錬をおろそかにしたわけでもない、本人の責任ではないのに魔法が使えなくなっても。それは事情がなんであれ退学処分にできる絶対的な事実なのだ。
「板挟みが一番苦しい立場だ。だから話したんだよ」
「……」
話さないという選択肢も選べたがそこはあえて話した。話してくれた、と思うべきかそれとも。
「それは、私を信頼してくれているから? それとも学校側の人間として忠告するため?」
震える声でそう尋ねる。
「両方だ。君を信頼しているのも君が学校側の立場なのも二つとも事実だからだよ。根性論や気持ちの問題でどうにかなることじゃない」
ラムの声は厳しさはないが優しさもない。辛い選択をしなければいけないのはあくまでシャロンなのだ。
「何かあるたびにシャロンを疑わなきゃいけなくなるなら、僕と仲間として活動するかどうか今ここで決めてくれ。それは君に約束された将来を捨てろって言ってるんだ。それだけの覚悟は君にあるかどうか」
「ラム先輩、それは」
「ちょっと待って、悩むまでもないから」
さすがに言い方が冷たいと感じたらしくエテルが何か言おうとしたがそれを遮った。……エテルに庇われることに苛立ったからだ。それを気付かせない為にも捲し立てる。
「私は父の言いなりになるためにこの学校にいるんじゃない。魔法使いとして人を幸せにしたいと思ったから、魔法を真剣に学びたいと思ったの。それは今も変わらない」
「父上には父上の、僕には僕の正義あるってだけだ。どちらが悪者って話じゃない。僕の思いと学校の正義が対立するだけだ。どちらを選んでも絶対後悔する」




