ラム4 陰謀の気配
「動物は人間には聞こえない高い音まで聞こえる。何か甲高い音がしたのかもしれない。魔法が発動する時確かに雷のような、静電気のような音はするけど。動物が怯えたならそれがかなり広範囲、しかも大爆音だったってことだ」
そもそも動物は魔法に怯える様子は無い。動物の近くで魔法を使っても全く反応がないのだ。犬を連れて魔法で狩りをするのも一般的だ、魔法に怯えていたらそれが成立しない。
「未知の魔法なのか、それとも本当に魔法じゃなくて魔術なのかな」
「魔術か。私も噂程度にしか知らないけど」
「御伽話だと思ってたけど、意外と真剣に考えてみるのもいいかもね。どうせ魔法協会は何かこじつけて解決しようとするだろう。だったら僕らは別の方向から見てみてもいいかもしれない」
「私たちがやる必要ある? それ」
「町で起きてるなら学校でも起きるかもしれないだろ。何せ発生原因がわからないんだから」
「まあ、確かに」
「さて、ちょっと試してみようか」
ラムは何か考えがあるらしくその場で小さな魔法を発動する。攻撃魔法など過激なものではない、風を操る魔法の初歩中の初歩だ。しかし魔法陣はまるで風化した岩のようにサラサラと消えてしまった。その瞬間近くを歩いていた野良犬が突然吠え始める。
「何今の? そんな消え方見たことない」
「やっぱりな」
「どういうこと?」
「一つの仮説が立つ。魔法を打ち消す魔法だ。いやもう消滅させると言ってもいいかもしれない。事故が起きたのは三日前、それなのに魔法石以外の魔法の気配がまるでないから魔法が存続できないのかなと思ってね」
そしたらこの有様だと真剣な表情だ。
「魔法を打ち消す効果はまだ続いてるってことだ。そしてそれを行っている『何か』は常にはびこっているのではなく、魔法が放たれた時だけ反応する。実際今犬が吠えた」
「確かに」
「何が起きているのか知らないけど。あまり穏やかな状況じゃないのは確かだ」
そう言ってさりげなくエテルに近づいて小声で話しかける。
「もしもこれが他人の魔法を制御するために使われるものだったら。魔法使いは自由に魔法が使えなくなるということになる」
「……自然に起きた事というより、やっぱり誰かが何か実験をしているって思ったほうがいいのかな」
「僕はそういう結論にたどり着いたよ。間違いなく魔法協会が絡んでる。それも一部の人間しか知らないんだろうね、じゃなきゃこんな呑気に調査なんて依頼してこない。魔法学校には知られたくないだろうから」
一部の者だけが動く。それは典型的な、謀反や権力争いの予兆だ。
「魔法協会も一枚岩じゃないんだ、やっぱり」
「僕が知っている限りでも四つの派閥で争ってるってところかな。魔法学校とも争っているのに、内部でも揉めてるんだから暇人というかなんというか」
二人はあくまで穏やかに話しているように見せかけるため終始笑顔だ。美男美女が顔を近づけて話しているのだから、色恋沙汰ではないかというふうに映らなくもない。もちろんそういう風に見せて怪しい話をしていると感づかせないためである。
「先生たちが動物の異常行動を報告しているとして。魔法が打ち消されているこの現場、魔法協会の人間が気づくまでは放っておこう」
「気づくと思う? ろくな調査してないんでしょ、何か取り返しのつかない悪い方向に行かなければいいけど」
「この効果がどれぐらい続くのかにもよるけど。二、三日は気づかないだろう。調査はもう終了したっていう空気が流れてる。でも必ず気づく時が来る」
さすがにずっと魔法石が使えないとなると住民の人たちが騒ぎたてる。その時になってようやく気づくはずだ。
「じゃあ私たちも誰にも言わないほうがいいの?」
「これを言っても今のところこき使われる未来しか見えないからね。この件に関しては言われたことだけやるって感じかな」
軽口だが気楽な雰囲気ではない、むしろこれから戦いでも起きるのかというくらいに真剣な表情だ。
「事は僕らが思っている以上にかなり重大なんだと思うよ。だからこれは個人的なお願いなんだけど」
「なに?」
「君のお友達や同級生にこの事は伝わらないようにしてほしい。誰が関わってどんな動きになるのか分からなくなる。それに何かあったとき守りきれる自信がない」
「……守る」
誰から。魔法協会か、それとも教師からか。
「知ってはいけないことを知ったり、余計なことをした人間がいつの間にか消えている。学校の中でもね、稀にあることだよ。先生から生徒まで。君の友達は見たところずいぶん好奇心旺盛みたいだから」
「わかった。ところで、先生がいないから聞いておきたいんだけど」
「ん?」
「あの先生たち最初から協会の人間だったってこと?」
「どうかな。僕が接してきた感じではそこまで腹黒そうではなかったけど。甘い言葉に釣られたか、賄賂をもらったかってところじゃないかな。残念だけど協会の中でも使い捨ての類だ」




