ラム4 一斉に壊れていた魔法石
「こういう活動をたくさんしてきたの?」
「情報収集っていうのは一カ所に偏らないのが普通だ。学校の中に閉じこもっていたら得られる情報は少ない」
「お父さんの死の真相を調べてるんだっけ」
「きな臭いのは学校も協会本部も一緒。先生全員がきな臭いとは言わないけど、今回みたいにどこで誰が繋がってるかわからないからね」
引っかかる言い方にエテルは足を止めた
「まさか先生のことを疑ってるの? 協会の人間だって」
「今回のやりとりをした事務員が怪しいとは思ってたけど。先生たちが固まって動くならあの二人はあちら側だと思ったほうがいい。僕らへの気遣いは口実だ、協会の人間に何か報告をしに行ったんだろう」
ラムは今回分かったことをどうしようかと投げかけた。それは相手に応えさせたかったからだ、次どう動くのかを。そうしたら別行動と言った。しかも教師は一人でも生徒に着くのが普通なのに二人一緒にいなくなる。怪しすぎるだろ、とラムは軽く笑いながら言った。
「こんなこと日常茶飯事なのね、あなたは。言動一つ一つに罠をしかけなけれいけない」
「優秀だと目をつけられやすい。逆を言えば相手の隙を突くチャンスが多くあるってことだから、あえて目立つように行動してるんだよ。おかしなものに目をつけられないように細心の注意を払いながら」
「その一人があなたにくっついてるあの女の人ってこと?」
シャロンの父が理事長である事はもはや周知の事実だ。誰がどう見てもただの仲良しというわけではない。シャロンがラムを利用するためにくっついてるというのは、一部の人間からの陰口では常識である。
「彼女にそのつもりはないんだけど、立場上どうしてもそうなっちゃうからね。僕らの距離感も難しい。ところで」
話しながらラムはあたりを見渡した。ここも魔法の暴走と思われることがあった場所だ。
「静かすぎるな」
「どういう意味?」
「普通何かが起きたなら対策をするはずだ、守りの結界をいつでも起こせるように魔方陣を仕込んでおくだろう」
ただでさえ魔法協会の管理不行き届きだという印象が強いのなら、アピールするためにも大きく魔方陣を描いたり何かをするはずだ。魔法がない人たちにあえて見える形で残すはずなのだが。その気配もまるでないし、何より。
「魔法そのものが何も感じない」
「え? あ、そういえば」
魔法を使うのは魔法使いだけではない。魔法は特殊な宝石に力を込めることができるので魔法石として庶民に売買されている。料理に使うために弱い火がおこる魔法石、植物に水を与えるために少量の水が出る魔法石など。大きな事件や事故につながらない、生活に役立つ程度の魔法石は子供でも買える値段だ。そういったものも魔法には違いないので、これだけの規模の町だったらそこら中に魔法の気配が溢れているのだが。
「本当に何も気配がしない、おかしい。これだけ発展した都市ならありえない」
ラムが通りかかった人に聞いてみると、なんと今この辺は魔法石が一切ないという。
「この間魔法の暴走みたいな事故が起きて。その時にこの辺あった魔法石全部壊れちゃったのよ」
「壊れた?」
「そ。新しい魔法石が来るのにも時間がかかるし、ちょっと不便なのよね」
教えてくれた女性にお礼を言って二人で顔を見合わせる。魔法が使えない者からしたら魔法の影響で石が壊れてしまったのだろう、くらいの認識なのかもしれない。しかしそれはとんでもないことだ。
「魔法石は他の魔法の影響を受けないようにきちんと守りの魔法も三重掛けされてるはずだ。それがこの一帯全て壊れたとなると、本当にただの魔法の暴走じゃないってことになる」
「そうね。私も聞いたことがない、属性や魔方陣の種類関係なくすべての魔法石が壊れるなんて。大事にはなってないけど、大変なことだよこれ。魔法協会は何か気がついてるのかな?」
「気がついてたら僕たちが呼ばれていないよ。魔法石が壊れたことは耳に入ってないんだろう。魔法石はもともと壊れやすい、町の人は壊れちゃったんだ、くらいの認識なんだ」
捉え方、意識の違いだ。ほんの少しでも魔法に詳しいものがいたらおそらく協会本部に報告しているのだが。魔法石を使うのは当たり前だが魔法が使えない人たちなのでことの重大さを認識していない、というより知らないのだ。便利だから使っているだけであってその仕組みなどを理解している人はいるはずもない。
「実際にそれが起きているから、仮説の段階になるけど。そんな魔法あると思う? 私はないと思ってるんだけど」
「魔法石だけ影響する魔法なんて聞いたことがない。本当に何かの爆発だったら人体そのものが爆発してもおかしくない。つまり魔法にしか効果がない魔法ってことになる」
それでいて動物たちは何かの音を聞いて異常におびえていた。音を発する何かがあったのは確定している。




