ラム1 優等生
学校の入学イベントは上級生にとっても大切な仕事だ。交流を深めるだけでなく、こっそり下級生の適正を見るのである。まだ入学生は知らないが、一年に一度全員参加のとても大切な行事があるのだ。そこでは学年の垣根を越えてチームを作り課題をこなさなければいけない。自分と一緒に協力してくれそうな優秀な下級生を探すための大事なイベントなのである。
「今年有望な一年生が入ってきてそう?」
入学イベントを見ながらシャロンがラムに声をかける。
「どうかな、入学式はみんな猫かぶってるから」
「あなたがそれをいうと冗談も冗談に聞こえなくなるわね」
「……」
ラムは他の人にはない魔法がある。それは他人の魔力が図れるというものだ。感じ取る力とは全く違う。その人がどのぐらい成長するのか、もともと持っている魔力の強さというのが見ればわかる。この魔法が使えること、そして他人にその力がないとわかったときラムは絶対に他者に言わないようにしてきた。ラムに頼めば才能があるかどうか、成長するかが一目でわかってしまう。
それは間違いなく目標を見失わせ人間関係に悪影響を及ぼす。それに本来持っている力以上に成長する者もいるし、能力が高いのにうまく生かせないものもいる。能力が高いからと驕って努力をしなくなる者が出てくる。
この能力を知っているのは高い魔力を持ったシャロンだけだ。彼女は現在の魔法学校の運営に携わる理事長の娘なので、このあたりの事情を把握している。優秀で学生会のメンバーでもあるため、いつも一緒に行動してきた。そのため気づかれたのだ。理事長の娘として学校内の規律を守ること、陰ながら支える役割がシャロンには与えられている。規律を乱しかねないのでこの事は二人だけの秘密だ。
「僕らも今年で三年、卒業試験のための一大イベントは絶対に高い評価を得なければいけない」
そのためにも優秀な一年が必要だ。残念ながら今の二年生にはあまり期待できない。戦争に勝利した後に生まれた子供たちなので、親が武勇伝をいいことずくめで話すせいで英雄への憧れが強い。本質を見失っている、これではダメだとラムは危惧しているのだ。
「あれ?」
一年生を見渡しながらラムが声を上げた。
「どうしたの?」
「あの子、全然わからない」
さすがに他の人に聞かれるわけにはいかないので、シャロンが顔を寄せて声で話しかける。こういう時単に友人というには距離が近いので、二人はつきあっているのではと噂されていた。
「魔力がないって事?」
「魔力がないのとは感覚が違う。ないんじゃなくて、わからないんだよ」
「そんなことってある?」
「今まではなかった。でも僕のこの能力だって教科書があるわけじゃない。もしかしたらわからない魔法の種類があるのかも」
そこまで言うとラムがわずかに微笑を浮かべる。人間関係が荒れないように調整しながら、頼れる優等生キャラを演じてはいるが。それは自分に嘘をついており、心から許し合える友人というものもいない。
シャロンとはどちらかというと仕事仲間のような感覚だ。間違いなく学校側からシャロンを通じて監視されてるんだろうなとも思っている。優秀な生徒は教師の出世などの餌食になりやすい。それに魔法学校は私設なので、優秀な生徒が有名になれば学校の良い宣伝となる。
一年の頃に比べるとだんだん作り笑いが増えたな、とシャロンが心配していた時に本当に久しぶりにラムの笑った顔を見たのだ。
「どの子?」
「あそこの薄い金髪の女の子」
「リボンつけてる子?」
「そっちじゃなくて。ものすごく美人の方」
「……」
確かにラムが熱い視線を送っている先の女の子はとても美人だ。すれ違う男たちは皆驚いたような顔をして振り返る。たった一人で歩いているその子は、まるで貴族かのような浮いた空気があった。
それにラムが女の子を美人だと言うのも初めてだ。可愛いとかきれいとか。シャロンは一度も言われたことがない。
「声をかけてみようかな」
「まさか彼女をチームに入れたいの?」
「当然だろ。もしかしたらとんでもない魔法使いになるかもしれないし」
ラムは成績優秀なことで学校の中ではかなり有名だ。学生会の生徒長であり学校外の野外活動も多く、住民からの評判も高い。王都から視察に来る者達の覚えも良く、王立の魔法騎士団養成所に進級間違いないと言われているくらいだ。彼から声をかければ名誉なことだと騒ぎ立てられるだろう。
「ふうん……」
複雑な心境のままシャロンはぼんやりと相槌を打った。ちょっと行ってくるよ、と言って走り出したラムを見送った後もその場に立ち続けていた。




