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悠久とエテル  作者: aqri
本編
37/107

ロジクス5 協会の暗躍

【便利なの。勝手にギャーギャー騒いでくれるから、何かあっても全部アレの責任になるから。私はただ黙って後ろにいるだけだしね】

「あっそ」


 同級生の性格や特性を最初から見抜いていたということだ。今の発言からもお友達を作るつもりがないらしい。年相応の少女らしさというものはどうやらないようだ。だいぶ大人びた考え方や性格の持ち主なので、自分と同等以上の者にしか心を許さないのかもしれない。


(考えたくないが、似たり寄ったりというか、類は友を呼ぶというか。いや目くそ鼻くそってところか)


 美少女であるエテルには全く似合わない言葉だが。


 その後トータを探して聞き込みなどをしていると、どうやら教師の耳に入ったらしく二年の教員長が声をかけてきた。生真面目な性格でロジクスには絶対に声をかけないタイプの教師だ。

 軽く事情を説明して学校ではどういう対処になるのかを聞いてみたが、退学届等は出されていないというそっけないものだった。そんなものは戻らなくなった初日に担任の教師に聞いているというのに。その辺の連携も取れていないらしい。


(わざわざ取りまとめ役が来るのが不自然すぎるだろ。なるほど、こいつも協会の人間か。釘を刺しに来たんじゃなく嗅ぎ回られると困るっていうのと、俺がどこまで把握しているかを確認しに来たってところか)


 エテルに影の魔法を使った。今から行われる会話を彼女に聞かせるためだ。


「本当の行方不明だったらご家族が何とかするだろう。学校でできる事はこれ以上は無い」

「あいつに家族なんていませんよ、入学と同時に疎遠になったそうなので。唯一頼れるのは親友である俺だけです」


 その言葉に影の奥から笑いをこらえているような雰囲気が伝わってくる。親友、という言葉がどうやらツボに入ったようだ。


「あまり大きな騒ぎにして学校に迷惑をかけるような事はしないでほしいんだよ」

「えー? 何もしてくれないから俺が動いてるんですけど?」

「こちら側でできる事はやるから勝手なことするなと言っているんだ」

「例えばどんなことが勝手なことになります? 行方を聞いて回ること? それとも肉体関係にあった女教師に探りを入れることですか?」


 鼻で笑いながらそう言うと教師は明らかに表情を歪める。


「どこぞの女教師とネンゴロになってるのなんてみんな知ってますよ。あいつはそういうこと隠さないですから。辞めたらしいですね淫乱教師、どこに行ったか知りません? 駆け落ちとかするんだったら事前に言って欲しいんですけど」


 これは賭けだ。明らかに危険なカードを切っていると思うが、話してみた感じこの男たいした事はなさそうに見える。プライドが高く自分は偉いとふんぞりかえっているだけ。おそらく失敗は隠し都合の悪い事は報告しない小心者だろうというのは少し会話しただけでもわかった。


(単純な挑発に乗るあたり雑魚だ。女教師の話を出してみたが、さてどう出るか)


「それこそ何かの勘違いだと思うがね。彼女は婚約者がいて結婚するからやめただけだ」

「婚約者に捨てられてメソメソしてたって誰でも知ってますよ。だから若い男に手出したんだろうってめちゃくちゃ噂になってましたけど?」


 トータは確かに「婚約者に捨てられた」と言っていた。これはおそらく間違いない。ニ年生の間で噂になっていると言うのは嘘だが。生徒の噂話などこの教師は絶対に把握していないはずだ、カマをかけてみる価値はある。


「私と聞いている話が違うな。もしかしたら彼女に何か脅迫をしてろくでもないことに首を突っ込んだのではないか? チンピラの考えそうなことだ」


 それを聞いて内心ニヤリと笑う。自分の持っていきたい方向に話を振ってくれたからだ。


「それは大変だ、だったらなおさらもっと騒いで警備隊などに調べてもらわなきゃいけませんね。俺から連絡しておきますよ」

「待て」

「やましいことがないんだったら別に止める理由ないでしょ」

「こちらで対処すると言っているだろう」

「なんで隠そうとするんですか?」


 少し声を大きくしてそう言うと何事かと他の生徒がチラチラと見てくる。しかしそんな様子にも目の前の教師は気がついていないようだ。


(これ以上はさすがにやりすぎだな。こいつが焦って口を滑らせたり、余計なことをするギリギリの線を責めないといけないから潮時か)


 今回の内容をそのまま協会本部に報告されたら終わりだ。もしトータが生きていれば殺されるしロジクスにも危険が及ぶ。自分でなんとかしなければと思わせるギリギリのところを突く。ロジクスは取るに足らない存在だと、馬鹿なやつだと印象づけなければ。


「あー、もしかしてあれですかぁ? 先生がその女とデキてたとか?」

「馬鹿者!」


 顔を真っ赤にして声を張り上げた。その声に驚いて周囲が一斉に振り向いたくらいだ。


「なんだ、図星かよおっさん。やだやだ、大人ってケガラワシイ〜」

「貴様、生徒だからって調子に乗るなよ。侮辱罪は貴様の年齢でも適用されるんだからな!」

「肝に銘じておきまぁす、せ、ん、せ。その時は何で揉めたのか、審問官にきっちり説明させていただきますね」


 ケラケラと笑いながらその場を後にする。袖の内側に隠していた手鏡で後ろの様子を見ると、教師のほうもあっさりとその場を後にしたようだ。


「……駆け寄ってくる他の教師はなしか。他に協力者はいないみたいだな」


 とりあえず学校の中に協会本部の人間が複数紛れ込んでいるのはわかった。そしておそらくあの教員長は女教師に惚れていたのは本当で、いなくなった理由は知らないということだ。


(情報を与えてもらえず置き去りにされてイライラしているといったところか。大した地位じゃない、むしろ地位が高かったのは女の方だ)


 今考えている思考は全て影を通じてエテルに伝えている。あまり頻繁に使って協会の人間が気づいたら面倒なことになるので、それだけ伝えると影の魔法を消した。彼女はこれから対立している協会本部のエリアに行くのだ、これくらいは知っておいてもらわなければ何が起きるかわからない。


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