ロジクス5 人を学べ
予想だにしていないことを言われたといった感じで、素直に驚いているようだ。怪訝そうな雰囲気はない。
「俺の言動で対話術がそこまでうまく上がるわけじゃない。そういうのは社交的な人間のそばにくっついてやるもんだ。お前の同級生じゃ話にならないから、そうだな。三年の優秀生殿にそれとなく近寄っておくことだな。くっついてる女は気にすんな、ただの色恋沙汰だろどうせ」
【そんな感じだった。なるほど、確かに社交的というのは人身掌握が上手いってことだもんね。それじゃあ、近々屋外活動があるからそこで少し仲良くなってみましょうか】
そこまでいうと、ふむ、と少し考え込んだようだ。
【私はこれから積極的にいろんな人といろんな活動をしていく。そしたらあなたにも声をかける。それなら二人一緒にいても違和感ないでしょ。私と一緒にいても違和感ないように、あなたもちょっと真面目なキャラに移行してみたら?】
「やだね」
【敵を作らないほうがいいって言ったじゃない。一応あなたも顔だけはいいんだから、女が寄ってくるかもしれないわ。色眼鏡かけた女は操りやすいわよ】
トータのように悪そうな雰囲気で言われればこちらもそのノリで返すのだが。真面目に言われると少し反応に困ってしまう。
「何ヶ月ごしの計画なんだそれ」
【一ヵ月もあれば充分よ。その間お互いの力が有益だってもう少し認識できたら、あなたの探し物を手伝ってあげる】
「はあ?」
【そのかわり私の探し物を手伝って】
ーー魔術を探してるんじゃないのかこいつ?
【あら? もう思考の遮断ができるようになったの、何考えているかわからなかった。でもどうせ私が探しているのは魔術じゃないのか、とか思ったんでしょ。違うわ】
「は? 違うのか」
【もう少しナカヨシになったら教える。あっさりそこまで使いこなせるなら結構役に立ちそうだし】
「やかましい」
そこまで会話をすると時計塔の鐘が鳴った。起床時間というわけでも授業が始まるというわけでもないが、朝この時間は毎日鐘がなる。寝坊しがちな者はこの音でたたき起こされるくらいだ。
何のために鳴っているのか実は学校の中で誰も把握していないというのが実情だ。時計塔の鐘の設定の仕方は誰もわからないらしく、教師も誰も知らないらしい。
そのまま気配が消えたのでロジクスも朝の準備を始める。態度や口は悪いが一応授業はまともに受けているのだ。
朝食などを済ませて廊下に貼り出されている年間行事の予定表を見ると、屋外活動は数日後になっている。おそらくそこに行くには理由が必要になるので、それなりに周りの者と仲良くしていくのかもしれない。
予想通り屋外活動が始まるまでの間エテルはすっかり学校内で話題の人となった。元は氷のように冷たい表情で近寄りがたい雰囲気だったが、一度彼女が笑いかければあっという間に人が集まる。
最初は男ばかりだったが、どうやらうまく二年生の女と仲良くなったらしい。上級生の女と仲良くなる事は良い事だらけだ、良い噂を振り向いてくれる。女おしゃべりだ。
それに周りから注目される人間と仲良くしていれば己の評価も上がるものだ。二年の上級生が明らかに下心でエテルに接しているのがわかる。お互いを利用しているのはまさにお互い様だった。
屋外活動に行くまでの間は影の魔法を研究し尽くしていたらしく、これといって連絡がなかった。そして屋外活動に翌日行くという段階になってロジクスは一つ危機感を抱いていた。
何気なさを装いながら人気のない所に向かって歩いていく。この学校は歴史が長く新校舎が建てられていて、旧校舎や旧図書館は使われていない。建物が崩れるかもしれないので立入禁止にはなっているが、一休みの場所として数名の生徒が使っているのもまた黙認されている。
ただし優秀な生徒ではなく大体は関わりたくない問題児ばかりだ。その一人にロジクスも入っている。
そして誰もいないことを確認してから影魔法を使おうとして、影に気配を感じてやめた。
「なんだよ」
少し声にトゲが入ってしまった、苛立っているからだ。
【ご機嫌斜めね。明日から屋外活動に行くから、その前にわかったことを伝えておこうと思ったけど。時間変えたほうがいい?】
「いや、今だ。ちょうど周りに誰もいない」
やれやれといった様子でエテルは自分が分かったことを細かく伝えてきた。文字等は残せないので全て口頭となるが、ロジクスはそれらすべてを頭に叩き込む。
間違えないようにこれはこういう解釈で合っているかと反芻して尋ねる内容は、エテルが伝えた内容そのままだ。齟齬なく理解したことにエテルは少し驚いた様子だ。
【記憶力いいじゃない。暗記の科目満点取れそう】
「取らないようにしてるんだよ。成績が少しでも上がれば何かしら突っかかってくるのがいる」
【なんだ、やっぱりあなた頭いいんじゃない。王立魔法騎士団への推薦は成績優秀なことが第一条件だものね。まぁそんな事はいいわ】




