ロジクス5 影を使いこなすエテル
【私の美しさに擦り寄る馬鹿ではなさそうだったからね。その辺の分別がついてないと勉強も研究も危なかっしい事は何もできないわ】
「……。まずは思考のダダ漏れをなんとかしなきゃいけないってことか」
同じ魔法が使えるもの同士考えが相手に筒抜けになるのは初めて知ったことだ。家族で同じことができた事は無い。というよりも自分の力は自分で制御するという方針だったので、詳しく研究してこなかったというのが実際のところである。
要するに使いこなせていないということだ。それを彼女はいち早く見抜いた。客観的に見ればかなり中途半端な使い方だったのだろう。
(って事は正しく制御できる目処があの女にはたってるってことだな。つまりやっぱ魔法の類なのかコレ)
確かにエテルは絶世の美少女。近くにいれば緊張するし見つめられればドキドキする、のかもしれない。胡散臭さと腹黒さが先に来てロジクスは全くそんな気持ちにはならないが。
あと美しいかどうかと好みかどうかは別問題だ。まるで芸術品のように作られたような美しさ感があってのロジクスの好みではない。
だからこそ余計な揉め事なく一直線に研究ができると踏んで協力を持ちかけてきた。うまくいかなかったらお互い切り捨てればいいという暗黙の了解のもとだ。
性格が悪いと思っていたが、とことん客観的な考えができるということなのかもしれない。自分が美しいというのも嫌味や自惚れての言葉ではなく、彼女は事実を言っただけだ。
「斜に構えた女かと思ってたけどちょっと違うってことか」
それだけ彼女の目的が大きいのだとしたら。真剣に取り組んでいるのだとしたら失敗は許されない。口が軽い者や他人から騙されやすい人間は信用ができないとよくわかっているのだ。そのお眼鏡にかなったのなら光栄だと思うべきなのかと、口元を歪めて皮肉めいて笑った。
エテルからの連絡は翌朝だった。トータは帰ってこなかったので女のところだろう。
(あっちはあっちでうまくいってんのかねえ。あいつに限ってヘマはしないと思うが)
貧困層の出で、金持ちの女の同情を買って養子になったらしい。だから魔法学校など入学できたのだ。ロジクス以上に盗みや詐欺など人の心を操ってうまく生きてきた。引き際はわかっているはずだ。
「で?」
【結論から言えばかなり高度な魔法だって事はわかった。魔方陣も一応あったわ、影の中に。でも読み解くのには私でもちょっと時間がかかる】
「ご先祖様が有名な魔法使いだなんて聞いたことないけどな」
【自分がすごい魔法使いだって自慢するのは大体たいしたことないわ。優秀な人物ほど普通黙ってるものでしょ】
それは確かにそうだ。自分の家はこの力を他者に隠してこそこそと生きてきた。エテルが言うと説得力が違う。
「要するにその魔方陣が読み解ければもうちょっとアレンジが効くってことだな」
【私が使う場合はそう。でもたぶん、あなたはその魔方陣を理解せずに使ってるからやっぱり特殊な力の持ち主ではあるんだと思う。1+1=2、を普通の人は式を使って答えを導き出す。でもあなたはパズルか、絵画のように感覚で理解してるのよ】
「俺は魔方陣を理解するのは無意味ってことか」
【無意味とは言わないけど、感覚で使えるならそっちのほうが早くていいじゃない。それにあなたの頭でこの魔方陣が理解するには十年ぐらいかかると思うけど】
「言いたいことはわかったがいちいち言い方が腹立つんだよお前は」
【私は嫌味じゃなくて事実を言ってるの。実際この学校の教師の頭を使っても数年かかるわよ】
確かにエテルの声には見下した馬鹿にするような雰囲気は無い。言わんとすることはわかるのだが、一言余計なのだ。
「お前優等生で通したいんだったら、勉強じゃなくて対話術をちょっと学べよ。反感買う喋り方してたら敵しか作らねえぞ」
【他人と接して生きてきてないんだから仕方ないでしょ。そうね、そこはあなたを見て学ぶ。味方を大量に作る必要は無いけど、不要な敵を作ることは避けなきゃいけないわね】
まったく、と思いながらもたった一晩でそれがわかったのは凄まじい。こうして話しているとわかるのは、彼女はあくまで客観的に事実を述べるという特徴がある。
ロジクスのことをチンピラ呼ばわりしたのも、お前はろくでもない人間だと言っているのではなく。教師や同級生たちからそういう評価を受けているから、彼女もそう評価しただけのことだ。
「手のかかる後輩だまったく。才能があるのにうまく使いこなせてない、もてあましてるって感じか」
【あなたがそう思ったんだったらそうなんでしょうね。さっきも言ったけど人と多く関わる生き方をしてないのよ私。話しかけてくるやつみんな下心しか持ってないんだもの】
「仲良しになる気はないが、嫌味合戦なんざ時間の無駄だ。とりあえず、人と多く接する行事にたくさん参加してこい」
【なんで?】




