ロジクス5 エテルからの提案
一年生が素材集めで騒ぎまわりながら集めているのを尻目に、ロジクスは人が来ないところで本を読んでいた。そこに足音もなく現れたのはエテルだ。
「意外ね、不良学生かと思ったら読書なんてするんだ」
「他に娯楽がないだろうが」
「得意な魔法で盗み聞きでもすればいいんじゃないの」
「暇つぶしで使うもんじゃねえよ」
「へえ?」
どうやら一人一人バラバラに行動しているらしくエテルは一人で来ている。
「お前のお友達ウルセエ、声がでけえから気が散る」
「それを私に言われても知らないわよ」
「注意しろ」
「なんでそんなことを私がしなきゃいけないの。赤の他人に」
一緒にいた方が便利だからそうしているだけ。言葉に出さずとも表情からそう言っているのがわかる。
「で? なんだよ」
「あれから私もいろいろ考えたの。私には味方がいないから手駒くらいは作っておいてもいいかなと思って」
「三年の優等生さんでも色仕掛けで落としてくればいいだろ」
「すぐ近くに女がくっついてるからだめよ。それにああいうのは下心に引っかかるもんじゃないわ。私が言ってるのはこの影の魔法、もう少し便利に使えるようになるように私が研究をするからあなたが使ってみせてよ」
「……なんだって?」
それまで視線も合わせず本を読んでいたロジクスだったが、ようやく本を閉じてエテルを見た。
「こんな魔法があるのはさすがに私も聞いたことがないから、あなたの家系に伝わるものなんでしょう。魔方陣が存在しないから特殊な能力とでもいうのかしら。これに魔方陣をつけてちゃんとした魔法にしてあげる、そしたら加減とか制御もしやすくなる。どうせあなた感覚で使ってるんでしょうこれ」
エテルが言っている事は全て正しい。魔法なのか特殊体質なのか判断が困るところだが、使えるからいいかとあまり向き合ってこなかった。
人にバレていいものではないし、あまりに危険なことに深く突っ込んでしまえば今回のエテルのように誰かに知られてしまう。それでいて家には資料の類が一切なく扱い方を工夫するというのができなかった。
「私は探し物をしているの。この力かなり使えそうだから発展させたいのよ。でもそれにはやっぱりもともとの血筋であるあなたの力は必要だからね」
「自分がやってヘマしたときに痛い見ないように実験動物としてか?」
「わかってるじゃない」
悪びれもなくあっさりと認める。お互いの顔色を伺うのは無駄だとわかっている。
「だからそれに見合うくらいの成果を出してみせる。あなたもお友達と一緒に探し物してるんでしょ? 良いことは多いはずだけど。私の目から見てもあなたの使い方はだいぶ未熟。使いこなせてないんでしょ」
本当に何なんだこの女、本物の魔女か。そんなふうに思ってしまうくらい、お目にかかったことがない真の天才だ。
「もちろん無理にとは言わないし、言うだけ言ってみただけよ。考える時間なんて文字通り時間の無駄だから今ここで決めてくれる? 私戻らなきゃいけないし」
考えるまでもなく答えが出ている。
「いいぜ、その話にのっかる」
「そう」
自分より優秀なものなど利用しない手は無い。この先のリスクなどを考えてもお釣りがくるくらいだ。そしてエテルはそれを自分でやらずにロジクスにやらせることで危険な目には合わないというメリットがある。
利害は一致している、断る理由がない。しかも魔術うんぬんの話を聞いておいてこの話をしてくるという事は、彼女の目的が魔術ではないか。それとも魔術でも絶対に自分が先に手に入れられる自信があるから。
(まぁいいか、魔術を手に入れるのは正直そこまで本気じゃない。この魔法を研究する利点の方がでかいな)
不安定さがなくなれば、目を閉じていないと使えないなどわずらわしく感じていた部分も改善できるかもしれない。
「新入生のお姫様と一緒にいるなんて見られたらギャーギャーうるせえ、表だって俺に接触はすんなよ」
「それはこっちのセリフよ。一応この先優等生演じていくんだから、チンピラと一緒にいるところなんて見られたくないわ。あと、この魔法を使うときの最低限のルールを決めましょう」
「その言い方はもう決めてるんだろう」
「まあね。連絡手段はお互いの影。手紙とか形の残るものは禁止。二人対面で力を合わせないとできないこと以外は直接会うのもなしよ」
「ま、それが妥当だな」
「まずは今日一晩かけて私がこの魔法について徹底的に調べるから。調べ終わったら私から連絡をするからそっちからつっつかないで。気が散る」
それだけ言うと別れの挨拶もなくあっさりとエテルは踵を返して戻っていた。気に入らない女だと思っているが彼女の申し出は正直かなり魅力的だ。お友達や仲間ではなく、あくまで利害が一致したからという距離感も心地良い。
(交渉が思い切ってたな、俺にはそういうやり方が有効だと判断したってことか)




