モカ5 みんなから学ぶこと
ある程度法や仕組みが揃っている都会では何もしなくても生きていくことができる。お腹が空けばすぐに食べ物を買えるし、金がなくなれば何かしらの仕事はある。死ぬほど努力をしなくても生きられるようにできている。その分勉強や自らのスキルアップに時間を使うことができるのだ。
しかし農村部や過疎化が進んでいるところではそうはいかない。普通はひねくれたり拗ねてしまうものだが、モカの言葉と雰囲気で村は明るく楽しく生きているのだというのがわかる。
「知らないこと、たくさんあるんだね私」
「そりゃそうでしょ、この世のすべてを知ってる人なんていないんだから。それを知るために学ぶのが学校でしょ? 魔法だけじゃなく、人との関わりとかもね」
アリスがそう言いながら調べてきた内容のメモを取り出した。それぞれ答えをすり合わせると大体は内容が一致している。特に珍しい情報などもない、そこまで価値の高い道具ではなかった。
「でもどこにでも生えてるから手軽に手に入れることができるっていう利点もある。独特の匂いがするから俺だったらすぐに見つけられそうだ」
ダガーとアリスが鼻をクンクンさせている。嫌な匂いではないらしいのでそこが幸いだった。
「頼りになりそうな先生いたよ。そのかわり、獣人嫌いな先生もいた。すっごいしかめっ面されちゃった」
「生徒にそんな態度するんだ」
淡々というエテルにアリスはあはは、と軽やかに笑う。それがまたエテルには不思議に映ったようだ。
「先生だって人間だもん。顔に出たなら、獣人に嫌な思い出があるんだよきっと。横柄な態度のやつとか、人間見下すのとか。ご先祖様の奴隷時代の恨み受け継いでるのとかもいるし、無条件で人間嫌いな奴も多いんだよね」
「それは……そうだね。いろんな事情がある、のかな。先生にも」
「エテルは? 上級生と何かお話しできた?」
「これといって特に。見た目で目立ってたみたいで結構茶化さ内容が多かった。女の人からは嫌味みたいのも言われたし」
その言葉に特に感情がこもっていない。今までそんな人間ばかりだったのだろう、これといった感情はわかないようだ。差別的な扱いは獣人もいまだにあるので、ダガーとアリスはエテルの気持ちがよくわかる。
「つまりすごく目立ってるってことだね!」
モカだけはうれしそうにそう言った。目立つのは良いことだと言っていた話の流れなので、否定するわけにもいかない。
「ああ、うん。まあそうなんだけど」
「じゃあものすごく目立つことをしていこうよ」
「個人的にはちょっと嫌かな、それ」
「そう? 何もしてなくても目立つなら、むしろ思いっきり目立った方がやりやすいと思うんだけど」
さも不思議と言わんばかりにキョトンとしているモカ。ものすごく当たり前のように突拍子もないことを言われたが、冷静に考えてみると理にかなっているように思えてくる。
「確かにね。目立たないように過ごす方が無理だ、俺たちの見た目はすごく目立つし。良いことをしても嫌味とか揶揄されて勝手に言われるくらいだったら、やることを派手に主張してやったほうが逆に後ろ指さされないかも」
「あはは、言えてる。アタシたちはどんなつもりで行動したかなんて、他人は好き勝手評価するから。それだったら迷惑をかけない程度に目立っちゃうのもありかもね」
容姿端麗のエテル、獣人のダガーとアリス、入学式で友達作ります宣言をしたモカ。目立つなという方が無理だ。
「勝手なことを言ってくるのは俺らをよく知らないから。みんなと仲良くなろう作戦、割といい案かもな」
「ふふー」
モカは嬉しそうだ。それとは対照的にエテルはどこが冷めたような、あまり盛り上がっていない雰囲気だ。おそらくそこまで目立ちたいと思っていないのだろう。
「うまくいけばいいけど」
「うまくいくかどうかはわかんないよ」
「わかんないのにやるの?」
「わかんないからやるんじゃない? 最初からわかってたらやらなくていいじゃん」
「そうかな」
「楽しくないもん。どうなるかわかってるんだよ? そこにワクワクもドキドキもないんだったらやらなくていいと思う」
「あはは。エテル、モカが求めているのは結果じゃなく過程だね。結果はおまけみたいなもんなんだろう多分」
「そうだね」
世の中結果が全てだ。努力をして結果が出なければ、努力の内容を誇示することに意味はない。大切なのは成果でありどれだけ頑張ったかどうかは本人の自己満足の話なのでどうでもいい。それはどんな身分のものでも、どんなことであっても共通して言えることだ。それなのにモカはあっさりと真逆のことを言う。
「難しく考えずに楽しんだもん勝ちってことでいいんじゃない?」
「うん」




