モカ5 みんなと仲良し!
一斉に青ざめた同級生たち。しかしモカはビシッと親指を立てた。
「大丈夫だよ、笑い疲れてそのまま寝ちゃって明日になったら治ってるから!」
「それほんとに大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫。なんたって僕は四回なったことあるから!」
「むしろ何でそんなに引っかかるの!? 地元なんでしょ!?」
「お腹空いてて我慢できなかったから。大丈夫大丈夫、死なないから!」
大声で会話をしていたので近くで聞いてしまっている担任の教師が口元を押さえて肩を震わせて笑っている。
この植物にそういった効果があるのはもちろん学校側はわかっている。しかし毒性はなく、中には危険なものがあると教えるためにあえて植えてあるのだ。しかもその情報を一切渡さずに一年生にはこの行事をさせるのが毎年恒例だ。引っかかる生徒は毎年必ず一人はいる。
「笑い出したらこれをまた食べたくなっちゃうんだけど、そしたらずっと笑い止まらないから食べちゃだめだよ」
「魔法の授業明日でしょ!? 絶対耐えられずに食べちゃいそうなんだけどどうしよう! 素材を一つ減らすの嫌だし、でも食べちゃいそうで怖い!」
「か、鍵ついた箱にでも入れる!?」
慌てる同級生たちにモカは「何とかなるよ!」と励ましている。しかもこの実、加工すると実はそれなりに役にたつ便利な道具なのだ。魔方陣の属性を変えることができて、しかも簡単に手に入る。生命力の強い木なので抜いてもすぐに生えて来るし多年草だ、一年中実をつける。
実は二年生や三年生が使っている植物を育てる敷地内ではこれを栽培しているくらいだ。一年生はまだそのエリアに入れないので知らないことだが。
そんなふうにどんどん他の同級生達と話していくと、みんながエテルを遠巻きに見ていることがわかってきた。なぜならあんなに綺麗なのにどうしてみんな声をかけないのかとモカが聞いて回っているからだ。
「エテルってきれいだけど、ちょっと近寄りがたいね。なんかこう、近づくなって顔に書いてある」
同級生たちからそう言われるたび言って回っているのは「笑うとすごく可愛い」ということだ。仲良くなるには話すしかない、グイグイいくんだ! と勧めている。
そんなことになっているとは全く知らないエテルは、翌日から同級生からの質問攻撃にさらされることになる。
エテルには何を聞いても多く語らず、あまり人と関わりたくなさそうな雰囲気は感じている。それはモカから見ればもったいない事だった。一人でいる方が気が楽、という考えはモカには欠片も存在しない。
「きっと楽しい思い出が少ないってことだな。これはもう友達であるボクが楽しい思い出をいっぱい作るしかない」
今まで覚えた同級生の顔と名前、どこに住んでいてどんなエピソードがあるのかも頭の中に叩き込む。そうやって時間になり集合しようと言っていた場所にウキウキで戻ってきた。
「きたきた、英雄」
ダガーが楽しそうに笑っている。
「モカの大活躍、俺の所まで声聞こえてきた」
「アタシも」
「二人とも耳がいいから?」
「いや、普通にモカの声がでかかった。先生とか通り掛かった上級生も笑ってたよ」
「おお!? これは上級生と仲良くなれるきっかけができたってことかな!」
そういうとエテルが少し息をのんだ雰囲気になる。それを敏感に察知してモカはぐりん! とエテルを振り向いた。
「何か気になる? 何でも聞いて! エテルのおしゃべりはちょっと興味がある!」
「え、あ、えっと。あの、大した事じゃないんだけど」
ふんふん、とまるで待てと言われた犬のようにエテルの次の言葉を持っている。もしもモカが獣人だったら尻尾がちぎれんばかりにふられていただろう。
「普通恥ずかしいとか悪目立ちしちゃったなと思うんだけど。人と話すきっかけになるんだっていう考え方なんだって。私にはない発想だったからちょっとびっくりしただけ」
「あはは、目立つのは僕の村では良いことだよ。待ってるだけだとお腹空くだけだもんね」
「え?」
「畑でとれたものの他にも、動物の乳を絞ってチーズとかいろいろなものを作って売ってるんだ。村は山の中にあるもん、お客さんなんて来ないじゃん? だから町におりて売りに行くんだ。自分から動かないと何もできないんだよ」
「そっか」




