モカ5 秘密のダンジョンは4人の秘密!
「確かに。四人だけの秘密ってちょっとワクワクするっていうか、特別な感じだな」
こういうことを真っ先に肯定してくれるのはダガーのいいところだ。リーダー気質もあって頼れるお兄さんという感じである。そういえば身の上話でアリス以外にも弟や妹が多いと言っていた。
「さて、とりあえず全員怪我なく無事に地下にたどり着いたわけだけど。本当に何かあるのかなここ?」
ざっと見回してみてもこれといって何かがある気配は無い。全員エテルを振り返ったがエテルも小さく首を振った。
「私にもわからない。もしかしたら何かあるのかもしれないけど、今の私にはわからない」
そこに何かが隠されているという事さえ感じさせない完璧な封印魔法もこの世には存在する。いくら実力があるエテルと言っても本格的な魔法の勉強や修行はまだだ。
「じゃあさ、ボクたち卒業するまでにここの秘密を解き明かすっていうのはどう?」
「いいね、実力試しってことだ」
「罠の場所も覚えちゃえばなんてことないもんね」
三人で盛り上がっているがエテルは改めて周囲を見渡す。
「材料になりそうなものはないから、早くここを出よう。誰かに見つかっちゃうかもしれないし、課題もこなさなきゃいけないから」
「えー、もうちょっと探し物とかしてみたいんだけど。ダンジョンとかワクワクするよ!」
「気持ちはわかるけど。私たち結構すごい距離を駆け降りてきたから、帰りはそれを登らなきゃいけないってことを忘れないでね」
「あ!」
そういえばそうだったと今更思い出したようだ。様々な罠を発動しつつ回避しつつ。とにかくかなりの距離を駆け降りてきた。しかも途中脇道に入って別の階段を見つけたり、アリの巣のようにくねった道をあちこち走り回って気がする。
最終的には一本道のような感じだったので道に迷う事はないし目印もつけてきたが。一階から地下一階というにはあまりにも長かった。
「課題の締め切りはお昼まで。途中休憩を入れてもいいけど、地上に着いたときには結構時間使っちゃってると思うよ」
「あー! そうだったー! まずい、急いで戻らないと材料他の人に全部取られちゃう!」
急げーと再び走り出すモカ。さすがにもう罠を作動させる事は無いだろうが。
「あれ絶対途中で疲れるよね」
上り階段を全力で走って一気に地上に出られるわけもない。ましてモカは小柄なのでそんなに体力もないはずだ。平民の出なので剣や体術をやっている様子もない、というより農村だと言っていた。いたって普通の少年なのである。
「ま、俺たちもなるべく早めに行こう。モカがへばったら俺が担ぐから大丈夫だよ」
「こういう時にエテルの移動の魔法が使えたら便利なんだけど」
「物で試すことができてもやっぱり生き物でやるのは怖いかな。鳥とか猫とかで試して死んでしまったら、さすがに私も何も思わないわけじゃないから」
「あはは、練習してほしいわけじゃないから気にしないで。それにそういう魔法があるってわかったらアタシが自分でできるようになればいいだけだし」
「あ、うん」
「ん?」
「やっぱりちょっと慣れなくて。自分でやればいい、って言ってくれる人。今までは全部お前がやれって言ってくるような人たちばっかりで」
「そりゃそうでしょ、だってその人たち友達じゃないんでしょ?」
「え? あ、まあそうだけど」
「友達と他人を一緒にしちゃだめ。アタシたちは友達なんだから、助け合うのは普通だよ」
そう言うとアリスはエテルの手を取ってちょっと急ごうと言って少しだけ速度を上げた。エテルが疲れないように気を遣ってくれているのもわかる。なんだかそれがくすぐったくて、こういう時どういう態度をしていいのかわからない。だが、一つだけできることはわかっている。お礼を言う事くらいは。
「えっと、ありがとうアリス」
「どういたしまして~」
「皆さん無事魔法の材料を見つけられたようですね。…… 一チームだけやたらと汗だくなのが気になりますけど」
担任の教師が首をかしげてモカたちを見る。ダガーとアリスは若干耳が下がっており、エテルも肩で息をしていた。モカに至っては地面にうつぶせで倒れこんでいる。
「どんな探し方たんですかあなた達。そんなに難しい場所にはなかったはずですけど?」
「あ、いや。誰が一番芸術的に材料取れるかって競争したら、体力使っちゃって。あはは」
絶対ごまかしたとばれただろうなと思いつつも苦笑いをしながらダガーがそう言った。




