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悠久とエテル  作者: aqri
本編
27/107

モカ5 モカの意外な特技

 何とか地下室まで無事四人はたどり着いた。道中本当にいろいろなことがあった。全員肩で息をしている。


「な、何回、罠あったっけ?」


 エテルがそう言うと、三人の雰囲気が一気に暗くなった。


「ごめん、アタシが一回動かした」

「俺も一回」


 二人とも申し訳なさそうに言っているが、それよりさらに凄い記録の持ち主がいるので微妙な顔つきだ。


「ボク七回……ごめん」


 明らかにショボーンと落ち込んでしまっているモカ。こっぴどく叱られた犬のように哀愁が漂っている。


「確かに罠を動かしちゃったのはモカが一番多いんだけど。でも他の二人の分も含めて、その罠を全部なんとかしたのもモカでしょ」


 矢が飛んできたり魔法が打ち込まれてきたり、本当にいろいろな罠があったのだが。その罠がどこから来るのかをいち早く察知して、逃げ道を真っ先に見つけたり回避方法を実施したのもモカだった。エテルが動くよりも早くモカがなんとかするのでエテルの魔法の出番がなかったくらいだ。


「うう、ボク足引っ張ってる」

「そんなことないってば」

「触っただけで物をよく壊すし。破壊神なんてあだ名つけられたんだ。昔から何やっても変なことになっちゃう」


 ぐすん、と本当に落ち込んでしまったらしくどんよりとしている。ダガーとアリスが必死に励まそうとしているが、それを聞いてエテルはふと思いついた。


「それ、モカの得意なことなんじゃないの?」

「へ?」

「触っただけで物を壊すっていう事はそこが脆かったから。今までの罠もそこに何かがあるって無意識に分かっていたからかもしれない」

「えーっと、つまりどういうこと?」

「物の弱点をつくことができる、とか。違うかな、見つけることができるのかな」


 うまく理解できていないらしいモカはちんぷんかんぷんといった様子だが、ダガーとアリスは何となくわかったようだ。


「そもそも罠って何気ない動作の中で発動させるものだ。俺とアリスが動かしちゃった罠はそれっぽかったけど、モカが動かした罠は確かに。普通そんなところ気がつかないだろうっていうようなものばかりだ」


 寄り掛かった、なんとなく叩いた、階段の端を蹴飛ばした、普通に降りていったらあまりやらないようなことばかりだ。うっかりではなくその動作をわざわざやらなければいけない。


「モカが動かした罠、もしかしたら侵入者を追い払うためのもので自分たちに向けられたものじゃないのかもね」

「そう言われるとそんな感じだったわ。壁を叩くとか、普通やらないもん。他に誰かいてそいつらに向けて使うものなのかも」


 そこまで言われてようやくわかったらしくモカはパッと笑顔になった。


「つまり、ボクは普通の人がわからないことがわかるってことだ!」

「それも無意識にね。今までの行動って何気なくやっただろうから、見つけようと思ってやってる事じゃなさそうだったけど」


 ダガーにそう言われてモカは試しに三人をじーっと見つめる。


「うーん、三人見てても別に弱点とかわからない」

「生き物の弱点は脳や心臓の破壊だから違うのかもね。わかるのは強度とか脆性かもよ」

「きょ? ぜ、ぜー?」

「あ、ごめん。つまり生き物相手じゃなくて、物。硬さとかってことだよ」


 モカとダガーの会話を聞きながら、アリスとエテルは違うことに興味が湧いた。


「魔方とかにも効果あるのかな?」

「どうだろう。他人が使う魔方陣の破壊は相当高度な技術がいるっていうけど。でもモカの場合は技術じゃなくて直感かな」

「先生に相談してみよっか?」

「……。やめたほうがいいんじゃないかな」


 その部分だけ聞こえたらしく、会話をしていたモカたちもピタリと止まりエテルの次の言葉を待った。


「魔法学校って、結局は国の支援を受けているから国の命令には絶対に従う。優秀な人や珍しい魔法を持った人は絶対に国に召集されるよ。今はないけどまた戦いとか始まったら、戦争に使われる存在になるよ」


 真剣なエテルの言葉にモカはいまいちピンと来ていないらしくそうかなぁと言っているが、ダガーとアリスは察したようだ。


「学校の成績が良いのはまだしも、珍しい力についてはあまり公にしないほうがいいってこと?」

「獣人もそうでしょ」

「まあ、ね」


 普通の人間の数倍の力がある獣人。戦争ではよく最前線に送り込まれたし、百年ほど前は奴隷として使われていた。本人の意思に関係なく強いものは戦いの過酷なところに送り込まれるのは昔から繰り返されてきたことだ。

 獣と同じくらいの能力があるのだろうと思われているが、他にもいろいろ器用な特技があるのは事実である。欠点よりも特技が多いのが獣人だ。


「よくわかんないけど、じゃあ僕の力はこの四人だけの秘密ってことだね! 秘密の共有、友達の印だ!」


 緊張した雰囲気もモカの明るい言葉で雪が溶けるようにふっと溶けていく。

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