ロジクス4 利用しているだけ
苛々したがそれは裏で生きてきたからできる思考だ、と自分に冷静に言い聞かせる。ここで自分が焦ったら本当に一年が死ぬ。
人に言えない魔法を使っているので教師に助けを求めるわけにはいかない。こうなってしまったら、自分がフォローを入れるしかない。何とか回避したものの、影からチラリと出てエテルを見ると無表情のまま慌てた様子もない。
(仮にも仲良くなった奴らが死ぬかもしれなかったんだぞ!? 何考えてんだ)
強い魔法があるから何とかできるとは思って手を出さないつもりだったのだが。あのタイミングでなんとかしなければ本当に危険な目に遭っていたかもしれないというのに。
その後の一年生たちが進み続け、他の罠が作動した時もエテルは何もしなかった。一年生たちにバレないようにこっそりフォローしたものの、危なっかしいことこの上ない。ようやく地下の空間にたどり着き、エテルが階段を下りきった場所で足を止める。どうやら会話をするために彼らから少し距離を作ってくれたらしい。
ためしにエテルの影に操る魔法かけてみるとあっさりとそれができた。
(この女……)
「さっきはどうも」
他の面子に聞こえないようにあくまで小声だ。
【なんでお前は何もしないんだ、死にたいのか】
「なんとかするつもりだったけど。あなたが何とかしてくれたから」
【もう少し遅れてたら全員あの世だったろうが】
「私なら間に合った。みんなに私の魔法を見て欲しくないからギリギリまで待とうとしただけ」
優秀な魔法使いは魔法陣の発動させる速度がはかなり早い。瞬きの間も与えないくらいだ。魔法は発動させるのがゆっくりだと相手に何の魔法かばれてしまうので最高のタイミングで、一瞬で発動させる必要がある。
つまりエテルにとって魔法を放つタイミングは自分よりももっと後だったということになる。それだけ彼女の実力は高いということの証明だ。
【あっそ】
「思ったよりも優しいじゃない、意外だわ」
【頭がおかしいのかお前は。学校の中で死人が出たら大騒ぎになるに決まってるだろ。あと】
「なに?」
【お前はなんでそんなに地下に行くのにこだわってるのか知らないが。それを達成するために仲良しになった連中を利用するとか、ずいぶんイイ根性してるじゃねえか】
「別にみんなを死なせてまでなんとかしようなんて思ってないわよ。まぁ、ちょうどいい隠れ蓑だから使わせてもらってるけど。好奇心旺盛でぐいぐい先に行くタイプ、色々と便利なの」
【俺は自分の性格が結構悪い方だと思ってるけど。俺の目から見てもお前は最悪に性格が悪い、胸クソ悪いレベルだ】
「どうもありがとう」
鼻で笑うと、エテルの影から強制的に追い出されてしまった。やはり魔法使いとしてのレベルが桁違いだ。おそらく防御魔法の類だとは思うが、属性が全くわからなかった。何を使われたのかさえ理解できないほどだ。
「おっすー」
そのタイミングで運が悪いことにトータが帰ってきてしまった。目を開けば影の魔法は自然と解かれる。地下の空間があるのはわかった、その先どうなっているかが一番知りたいところなのだが。
(仕方ないか、こいつがいる状態で影の魔法を使うわけにはいかない)
「ちょっと面白い情報仕入れてきたんだよ。魔術に関する話」
(まあいいか、こっちはこっちで情報がありそうだ)
「なんだよ?」
「三年担当のレミー先生いるじゃん」
「知るかよ、女教師を全員把握してんのはお前くらいだ」
「例の優等生さんの担任教師だよ。最近婚約者に捨てられたみたいで落ち込んでたから、ちょっと慰めたらいろいろペラペラ教えてくれたんだ」
「相変わらず女の扱いが上手いな。で?」
「優等生さん、屋外活動するらしいんだけど。どうもその向かう先がなかなか面白そうなんだよね。理事長とは仲が悪いはずの魔法協会本部の縄張りの中だ」
魔法に関する私設団体の数は多い。一つ一つは大した力はないが、魔法学校と対立していると言えば最初に魔法使いの組織を作った魔法協会本部だ。
「マジかよ、そんなところに喧嘩売りに行くのか」
「それが嫌がらせじゃなさそうなんだよね。なんでも向こうから要請してきたんだとか」
「一枚岩じゃないってことだな。権力争いで優等生さんをうまく使って、問題が起きたときのトカゲの尻尾切りに使うつもりか」
「そういうことの推測は頭の回転早いよねお前。やっぱりそういうことか」
それなりに裏の仕事をしてきていたロジクスにとってはこの程度の事は推測するまでもない。あくどいことをする奴の考えることなど大体同じだ。




