モカ4 トラップで危機一髪!
それはエテルも何度も経験してきた。強い魔法があると分かるやいなや、優しかった態度が一変。逆の意味で手のひらを返して何もかも押し付けてくるし媚を売ってくる。それがうんざりして強い魔法が使えることをずっと隠して生きてきた。
「でも実際アタシたちはそれができるじゃない? アタシたちがやらなかったら、怪我をしたり困る人がいるのは確かだし」
「……」
黙り込んでしまったエテルに今度はダガーが明るく笑いながらこんな事を言った。
「大丈夫だよ、別に一方的に搾取される側じゃないから。交換条件を出してるし、何よりそういう態度をする人たちは一握りだ。父さんたちと仲良しな人の方が多い。そういう人たちが態度悪い奴らを叱ってくれたり、協力してくれる。なんやかんやみんなで楽しく過ごしてるよ」
「そっか。良かった。……私は、あからさまに利用しようとしてくる奴らしかいなかったから」
少し沈んだ声になってしまってさすがにアリスとダガーから心配そうな雰囲気が伝わってくる。場の空気を暗くしてしまったなと思っていると、やはりこういう時それを打ち破るのはモカだ。
「つまり、エテルの真の友達は僕たちが初めてってことだね!」
「あ、うん。そうね」
「わーい!」
誰かが笑っている姿は人を幸せにする。それはモカが最初にエテルに言った言葉だ。
(確かに、モカが笑うと私もちょっと嬉しいかもしれない)
そしてできれば悲しむ姿は見たくない。どうすればモカが、ダガーが、アリスが悲しまずに幸せになれるだろうか。そんなふうに考える自分が不思議だ。
(これが友達っていうものなのかな。友達がいたことないから何もかも初めてでわからないことだらけ)
でもそれがきっとすごく今楽しいのだ。
(魔法が人を幸せにするっていうのもそうか、そういう手段で使っていけばいいのかも)
「それにしてもどこまで続くのかな、結構長いよね」
疲れたのかモカがやれやれ、といった様子で壁に寄り掛かった。するとガゴン、と石がこすれるような音がする。
「あれ? なんかここへこんだんだけど」
モカが寄り掛かった所が石一つ分奥に引っ込んでいる。それを見てダガー、アリスは顔を引き攣らせてエテルは真剣な表情で周囲を警戒した。
「まずい」
「だよね」
「なにが?」
状況理解していないのはモカだけだ。そしてあたりに小さな地響きのような音が聞こえてきた。それは階段の上から聞こえる。
「あ、何が起きているのか想像できちゃった」
がっくりとうなだれるダガー。アリスも同じ表情をしている。
「へ? なになに?」
「この状況だったら、何か罠が発動して巨大な石とかが転がってきてるんじゃないかな」
至極冷静にそう告げるとエテルは防御の魔法を使おうとした。地下で攻撃魔法を使えば崩れて生き埋めになってしまう。とにかく石を止めるしかない。
壁を作るか勢いを相殺させる風を起こすか、と考えていると突然モカがエテルの手を掴んだ。
「え」
「にげろおおおお!」
「いや、ちょ、私なら」
「走れ走れ!」
ノリと勢いに乗せられてその場にいる全員が階段を勢い良く駆け下りる。そして本当に巨大な岩がゴロゴロと転がってきて、今にも四人を押しつぶさんばかりの距離に迫っている。
「今魔法を――」
「あ、逃げ道!」
そう叫ぶとモカがカーブの先、死角になっているところに左に飛び込んだ。獣人であるダガーとアリスは反射で素早く飛び込むことができた。巨大な石は本当に当たるかどうか寸前のところでごろごろと下に向かって転がっていく。
「危なかったね!」
ギリギリセーフ! といった様子でモカが叫ぶ。どうやら誰も怪我はしていないらしい。私だったら何とかできたよ、と今さら言うのもなんだか場の空気を悪くしそうなのでエテルは何も言わなかった。
しかしアリスらは気づいたようでちらりとエテルを見てくるが、モカに気を遣ったらしく同じく何も言わずに苦笑した様子だ。
「ありがとうモカ、助かった。それにしてもよくこんな抜け道があるのわかったね? 俺目はいい方だけど、さすがにカーブの先は死角だったから全然わかんなかった」
「ほんとほんと、アタシもわかんなかったよ?」
「そう?」
どうしてわかったのか不思議なくらいだ、モカにも見えていなかったはずだが。
「それにしても。石がぶつかる音がしないな。ってことは、石が通り抜ける道があるってことか」
耳を済ませていたダガーの言葉に、モカはガバッと立ち上がる。
「もしかしてそっちが正解ルートなのかも!」
「かもな。行ってみよう!」
どうやらやる気に火がついたらしいダガー。しっかり者のようでもやっぱりこういうところは男性なんだなぁと思う。
「ちょっと危ない目にあったり、困難が目の前にあると立ち向かいたくなっちゃうんだよねダガーって。ま、ここまできたらアタシも先に進んでみたいと思うけど」
ふんふん、と楽しそうなアリス。ここで引き返すという意見は誰も言ってこない。一応命が危なかったかもしれない経験だというのに三人は楽しそうだ。いざとなったらエテルが何とかしてくれると頼り切っているわけではない。自分たちでなんとかしよう、なんとかできると考えている。
先ほどと同じ順番で、念のためみんなにはバレないようにエテルは防御魔法をいつでも使える状態にしながら奥へと進んでいた。




