モカ4 秘密のダンジョン発見?
その知識はダガー達も知らなかったらしく興味津々といった様子だ。
「それだけじゃなくて、さっきも言ったようにいろんな道具を使うことで魔方陣そのものを変化させることもできる。例えば水属性のものに風属性の道具を使うと、雨が嵐になったりとか」
それをやるにはもちろんそういう魔方陣を描かなければいけないが。一度に操ることができる魔方陣は普通は一つだ。とても優秀な人物なら二つ三つ同時に操ることもできるが。道具を使って魔方陣そのものに変化を与える方が一般的である。
「魔法陣って魔法を使うときに描くの?」
「それをやってたら魔法が間に合わないから。あらかじめ作っておいたものを使うって感じかな」
そう言うとエテルは時計塔をまっすぐ見つめた。
「材料っていうと植物とか自然のものを想像するかもしれないけど。それだけじゃなくて、魔法そのものが材料として転がってることもあるよ」
「ホント? もしかして時計塔にそれがあるっぽい?」
三人は顔を見合わせて時計塔の方に意識を集中する。しかし三人では何も感じなかったらしい。
「立ち入り禁止とは言われてないから、ちょっと入ってみようか」
少しワクワクしているのか、ダガーの尻尾が大きく左右に振れている。
「今回はエテルが見つけたからエテルのものだね」
「え? いや別に。チームで見つけるのがルールなんだからみんなのものでいいんじゃないの」
「自分で使うものは自分で探すもんだろ?」
この世の常識であると言わんばかりのダガーの言葉にアリスもうんうんとうなずいている。チラリとモカを見るとびしっと親指を立てた。
「何も見つからなかった時はヒントちょうだい!」
生まれや育ちの違いでここまで差があるのかとエテルは少し驚く。今まで会ってきた者たちは、とにかく自分がおいしい思いをしようと苦労をこちらに押し付けてきた。うまいところだけ乗っかってくるような奴らばかりだった。彼らが世間知らずの純粋な育ちなのだろうか? 他人を鬱陶しいと思って過ごしてきたので友達はいない。友達とどうやって接していいかわからない。
「よし、謎の素材を探しに行こう!」
そう言うとモカが一人時計塔のほうに走りだした。ダガーとアリスもそれに続く。そんな様子をエテルはその場に立ちすくんで見つめる。彼らといると、何もかもが新鮮だ。
「ふしぎな人たち」
でも、悪くないかもしれない。そんなふうに思って三人の後を追いかけた。
時計塔は当然昇り階段しかない。しかしエテルはそっちじゃないと言った。
「地下があるはず、下から何か感じるから」
「それらしい入り口はないけどね」
「はっ!? もしかしてこの間のイベントみたいに魔法で隠されてるとか!」
大げさにそう言うとモカは四つん這いになって地面をじっくり見始める。しかし悲しいかな、魔法の力がほとんどないモカには見つけることができない。「あ、アリさんがいた」と違うことに興味が移り始めている。
「確かにそうかも。見た目では私にも何も見えないけど……」
エテルも同意すると持ってきていた小さなカバンから紙とペンを取り出して魔方陣を描き始める。
「それ何?」
モカをはじめ他の二人も物珍しそうに覗き込む。何せ本物の魔法陣を見るのは初めてだ。
「探査用魔法陣。本来は見つけたい物の特徴と真逆の性質を使うんだけど。今回はわからないから、封印魔法そのものを探せる魔方陣にしておく」
そう言いながら描き進める魔方陣は非常に難解なもので三人にはちんぷんかんぷんだ。芸術家が渾身の作品を作っているかのような複雑さである。そして手を止めた瞬間魔方陣を描いた紙がひとりでに風もないのに宙を舞い、ある一カ所でピタリと止まった。魔方陣が貼り着いたのは上り階段の途中だ。
「そこに入り口があるみたい」
「そんなところに?」
エテルがそこに移動して魔方陣を軽く触る。すると目の前に自分たちの背丈よりも大きな魔方陣が姿を現した。
「うわーすごい!」
魔方陣は生きているかのように文様や文字が複雑に動き組み替えられていく。時計の裏側、歯車などを見ているような気分だ。なんかこんな感じのパズルゲームがあったなとダガーが考えていると、魔方陣が奇妙な動きをしてどんどん縮小されていった。そしてエテルが右手を差し出すとその上に小さく固まった魔方陣が落ちてくる。エテルが握り締めたのは鍵だった。
「魔方陣が鍵になった、そんなこともできるんだ?」
「私じゃないよ、鍵が勝手に作られた。さっき鍵の設計図みたいのが見えたからそういう仕掛けみたい」
「すごいね、魔法陣を読み解くこともできるんだエテルって」
「ある程度はね」
そういうと何もないところに鍵を当てる。するとまるでそこに鍵穴があるかのように鍵はずぶずぶと階段に差し込まれていく。捻るとガチャンと大きな音がして階段が勝手に動き始めた。
「うわわ!?」




