モカ4 一年生初の課題
入学イベントから二日後。学校では一年生限定の次の行事が行われることとなった。本来は入学イベントから三日後なのだが一日前倒しになったようだ。入学イベントで多少仲良くなった子たちとさらに交流を深めるため、協力して簡単な課題をこなしていくというものだ。学校内で行われるので学校の敷地を覚えるという意味合いもある。
「イベントは宝探しゲームみたいだったけど、今回はちゃんとした課題みたいだね」
あれからモカ、エテル、ダガー、アリスは四人で行動している。チーム申請もこの四人で申請して早速課題に取り掛かろうというところだ。それぞれの身の上話などを話したが、エテルは物心ついたときから一人だったのでずっと一人で生きてきた、という話だけだ。
「魔法はこれからボクらも教わるわけだけど。エテルは使える魔法があるの?」
エテルの潜在能力が高い事はすでに教師や上級生たちにはわかったようだ。同学年である他の一年生たちだけがエテルの能力の凄さに気づいていない。
「いくつかある。これから習うと思うけど、独学で学んだようなものだからあまりあてにはしないで」
「例えば?」
「簡単な攻撃魔法とかは使える。火とか水とか」
攻撃魔法は火、水、風、土、金の属性を操る。他にも光、闇、など普通のレベルでは扱うのが難しい要素も多数存在する。そもそも人には魔法や属性に相性があり、人によっては全く使えない魔法も存在する。そのため一年生のうちに何が得意かを教師たちは見極めて、一人ひとりに合った学習を進めなければならない。その特性を見るためのイベントでもあるのだ。
「おやつを召喚したりとかもできるの?」
魔法はどちらかというと勉学の世界なのだが、魔法について漠然とした知識しかない者は何でもできるすごいこと、と誤解している。何もないところに何かを発生させるのは不可能だ。
「発生させることはできないけど、ものを移動することができるかな。だから召喚っていう言葉は確かに合ってるかもしれない」
「ほんと!?」
目を輝かせるモカだったが、ダガーとアリスは苦笑だ。
「要するに窃盗ってことでしょそれ」
「せっとー?」
馴染のない言葉にモカは首を傾げた。ダガーが「人のモノを盗っちゃうことな」と説明している。ボクの村にはないよそんな風習、と盛り上がっているのを見てエテルはぷっと小さく笑った。窃盗を風習という表現は面白い。モカは貧しい村出身なので助け合うのが当たり前という考えが根付いているのだ。
「出来上がってるものを勝手に引っ張り込むわけだから、そうなるね」
なーんだー、とモカはがっかりしたようだ。喜怒哀楽が本当にわかりやすく顔に出る。
「じゃあ人は?」
「自分で試したときはできなかった。他の人をやった事は無い、怪我させたら大変だもの」
確かにと冷静にうなずいているダガーと違って、モカと意外にもアリスは興味津々といった様子だ。
「でももしもそれができるんだったらすごいことじゃない?」
いくらでも使い道があるということだろうかと思っていると。
「だって寝坊して遅刻しそうな時間に合うってことじゃん!」
「え? あ、うん」
「エテル、そこは早起きすればいいだけだって突っ込んでいいところだよ。寮生活だから同じ部屋の子に迷惑かけるんじゃないぞ」
「わかってるってば」
どうやらアリスは寝坊助らしく、ダガーはそのことに手を焼いているようだ。おそらくなかなか起きないアリスをたたき起こして、無理矢理学校に引っ張っていくというのが幼い頃からの習慣だったのかもしれない。寮は男女別、一年生は四人から六人の大部屋に割り振りられる。いまだに獣人を毛嫌いする者もいるので、同じ部屋になる人にはだいぶ配慮されている。エテルとアリスは違う部屋だ。
「今回やらなきゃいけない課題が、魔法の材料集めだね。魔法って材料が必要なんだ、知らなかった!」
ワクワクが止まらないといった様子のモカ。本当に魔法とはどういうものなのか知らないらしい。
「必要なのは魔方陣、式みたいなものなんだけど。他にもいろいろな道具を使うことで別の魔法に変化させることができるの」
ちょうど時計塔の近くにやってきたので四人は足を止めた。エテルはてきとうに木の枝を拾うと地面に簡単な魔方陣を描く。
「これが基本となる魔法陣」
「ただの二重丸?」
「そう。魔方陣の基本はただの二重丸。ここに描かれる内容によって魔法が変わる。だから一度作り上げた魔方陣を書き換えることで別の魔法にすることもできる」
「へー」




