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悠久とエテル  作者: aqri
本編
16/107

ラム3 ラムとエテルの協力

「だからそれはそれで仕方ないさ。僕は賭けに出た、そしてその賭けに勝ったってところかな。これだけの出来事では落とし所は必要だ、まったくの無意味じゃない」

「そうだけど。あなたにかかる負担が大きすぎる、何もいいことなんてないじゃない」

「別に留年とか停学はそれほど大きな問題じゃない、この学校に居続ける事は僕の目的でもある。卒業したら教師になるつもりだからね」

「どうしてそうまでして」

「それを話すのは君が協力してくれることが前提条件になるわけだけど」


 穏やかな雰囲気から一変、ラムは鋭い目つきでエテルに告げた。エテルとしては父親の死の真相を調べたいからという情報しか知らない。学校に居続けたいということは、おそらく彼の父がここの卒業生か教師だったのかもしれない。


「学校は信用できない、というか敵だと思っていいってこと? 優等生で人望ある人物像なのは、目に見えない敵を油断させるため?」


 その問いにはラムは答えない。しかしどこか苦笑しているような感じだ。


「戦地に送り込まれていたら間違いなく死んでた。一応命を救ってもらったっていうことの重大さには報いるつもりではいる。大きな借りだもの」


 言葉を選びながらまだ多少迷っているようだが。それを聞いてラムは大きく深呼吸をした。


「ありがとう。そう言ってもらえるだけで充分だ。君を危険な目に合わせない、これから起きることやる事は全て僕の責任だ」

「それ、ちょっと無責任じゃない」


 意外なことを言われてラムは驚いた。彼女の安全確保のために言ったつもりだし、深く関わりすぎるといいことがないから適度に距離をおいてほしいという意味だったのだが。もちろんそれは彼女もわかっていると思う。


「私は自分の言動にはちゃんと責任を持ちたい。目の前で人が死んで、それが自分のせいだったとしても私には関係ないなんて思って生きていくことなんてできない。協力するっていうのは、少しでも背負うものがあるという事でしょ」

「そういう考え方の人には初めて会うな。大体は面倒な事はお前がやれっていう考えの奴らばっかりだから」


 思い当たる節でもあるのか、エテルは初めて口元を緩めた。困ったような、しかしそれでも初めて見る彼女のちゃんとした笑顔だ。


「わかる。私のまわりもそんな奴らばっかりだった。だから私の力が強いのは周りには言わないでほしい」


 素質があり、優秀者同士。おそらく味わってきた苦労も他者に対する不信感も同じようなものなのだ。それで仲間意識が生まれたというわけではないが、通じるものは確かにある。


「約束する」

「要するにあなたを隠れ蓑にして私は自由に立ち振る舞うってことなんだけど」

「それも承知の上だよ。それで君が動きやすいならそうしてくれ」

「……。そこまでするんだ。お父さんのこと本当に大切だったんだね」

「ほとんど覚えてない。僕が小さい時にいなくなった。でも母さん……育ての親の方だけど、父さんの魔法使いとしての話は、とても勇敢で絶対自慢の父さんだって確信してる」

「あなたを産んだお母さんは?」

「僕を養母に預けて姿を消した。ごめんこの子を守って、それが最後の言葉だった。泣いてたらしい。絶対に何かあったんだ、父さんにも母さんにも」


 そう言いながらぎゅっと手を握りしめる。


「母さんの思い出もおぼろげだ、顔も覚えてない。でも父さんの話をしている時すごく楽しそうで悲しそうだった気がする。母さんがどれだけ父さんを大切に思っていたかよくわかる。だからこそ」


 学校のもう一つのシンボルである大きな時計塔を見つめる。いや、見つめるというよりは睨みつけている。時計塔は昔から曰く付きの噂などが絶えない。ここに何かあると目星をつけてきた。


「人の命を踏みにじるものも、魔法を悪用するやつも僕は大嫌いなんだよ。魔法は絶対に人を幸せにするためのものだ。そいつらをどうにかしようとか正義の裁きを受けさせてやるとか、そんなことをいうつもりはない」


 ラムの強い決意の言葉と表情に、エテルは少し黙り込んでいた。


「確か奉仕活動するんだよね」

「ああ。内容はまだ聞いてないけど、たぶん魔法に関して町で困っていることを解決に行くんだと思う。先生が二人……今回は完全に巻き込んじゃって申し訳ないけど。日ごろからよく話をする先生たちだからそんなにピリピリした雰囲気じゃないよ」

「それ、私も行かせて」

「え?」

「その結界を破ったのは私だって名乗り出るから。私はまだ入学したばかりで何もわからない。あなたに協力するにしても情報収集は自分でもやっておきたい」


 エテルも同じように時計塔を見つめた。


「魔法使いっていうのが、利用されるだけの便利な存在なのか。うまくいかなくてもがきあがいている存在なのか。それとも人々を幸せにすることができる素晴らしい存在なのか」

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