ラム3 エテルの秘めた力
次の瞬間凄まじい轟音とともに、巨大な木が縦に真っ二つに割れた。割れた木が左右に倒れたので皆慌てて避難をする。教師や在校生たちも驚いた様子であちこちから飛び出してきた。
「なんだ!?」
「皆さんこっち避難してください!」
「きゃー!?」
大混乱となる。その様子を呆然と見つめるエテル。そして何が起きたのか数名がその様子を見ていて、裏側でも大混乱となっていた。
「冗談でしょ」
シャロンが幾分か引き攣った顔でつぶやいた。あそこに壊れやすい魔法を仕掛けたのはラムだ。能力の低い子たちのために一番わかりやすいものとしてそこに置いておいた。ほんの少しでも他の人の魔力が加わればあっさりと魔法が壊れる予定だった。
しかし壊れる際の反発の衝撃が強すぎて木が真っ二つに割れたのだ。衝撃の強さは、接触した魔力の強さに比例する。つまり。
「エテルの魔力は、こんなにも」
呆然とした様子のラム。しかしすぐに我に返る。
「シャロン、この事実に気付いたのは今は僕らだけだ。だが勘の鋭いやつは気がついたかもしれない」
「そ、そうね?」
「そいつらに先を越される前に、なんとしてもエテルをチームに入れる必要がある」
そう語るラムの顔は、今まで見たことがないくらいに真剣で。ビリビリとした空気がとても恐ろしく感じた。ちょっと気になる子がいるから声をかけてみよう、などという雰囲気ではない。
「どうしたの。確かに彼女の魔力の強さは凄いけど」
「四ヶ月後にある僕らの卒業式にも関わる大事なイベント。そこの最高難易度に挑戦する」
「ちょっと!?」
最高難易度は命に関わる。ラムやシャロンの力をもってしても、成功の確率は半々といったところだ。
「エテルがいれば絶対に成功する」
「彼女をチームに入れて危険な難易度に挑むよりも……」
「別に君も一緒にやれとは言ってないよ。君がやるやらないにかかわらず僕はやる。教師側の奴らに邪魔されたくないだけだ」
少し声のトーンが低くなった。今までなんとなく距離感があったことには気づいていたが、はっきりと言われたのは初めてだ。
「確かに私はそういう目的のためにもこの学校にいるけれど。一人の生徒としているのも事実よ。あなたが私を完全に信用してないのはわかってた、でも私はラムを大切な仲間だと思ってる」
その言葉に嘘はない。ラムのそばにいるのは別に父親から監査しろと言われたわけでも、優秀だから学校側に引き込むために近づいたわけでもない。純粋に信頼をして、彼に惹かれたからだ。
考え方や彼の理念、目指していること、成そうとしていること。他の人とは違う魔法を持っているがゆえの孤独や苦しみ、今まで特別扱いをされてきた自分と重なるものがあったから支えたいと思っていた。
「友達として言わせてもらう。どうしてそこまで危険なことをしようとしているのかわからないけど。私はあなたを全力でサポートするし、本当に命の危険があるとわかったら止める。言われたことに従うだけの女だって思わないで」
少しの間二人とも黙り込む。先に目を逸したのはラムだった。
「学校側の手先みたいな言い方をしたのは悪かった。でも君から学校側に僕の情報が筒抜けなのも事実だったことを忘れないでくれ。それを不愉快に思っていることもね」
「わかってるわ。だから私が必要だと思ったことしか報告はしてない。あなたはとても優秀な生徒、それだけしか伝えてないから」
つまり特殊な魔法に関しては報告していないのだ。そのことを言われてラムは目を伏せて軽く頭を下げた。
「言い過ぎた、すまなかった。そして、ありがとう」
「ううん。私の立場上そういう考えになるのは仕方ないし、お互いこの話題避けてたからね。だから言ってもらわないとわからないことが多いの。気になった事は言って」
「わかった」
「それで、結局ラムは彼女と一緒に何がしたいの? 最高難易度って事は、地下でしょ」
地下、の部分だけ聞こえるか聞こえないかギリギリの声のトーンにした。他の人に聞かれるわけにはいかない。
かつて戦地だったこの場所にはいくつもの魔法によって制御された仕掛けが施されている。地下は食糧など保存する倉庫があるのだが、何故か教師たちによって厳重に管理されていた。何かある、といっているようなものだ。
一部でこんな噂もある。そしてそれは遠い昔に失われた「魔術」が封印されているのではないかと。この噂は魔力が強い優秀な生徒だけに伝わる風習がある。一部のものしか知らない情報だ。