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悠久とエテル  作者: aqri
本編
12/107

モカ3 入学イベント

「よし、いい感じに友情が芽生えた。これは全員と友達計画ゼッコーチョーだ」

「そろそろイベントも本格的に始まるみたいだし、それじゃあ行こうか」


 なんとなくみんなを動かす中心的な存在がダガー。人の垣根を取り払ってしまうのがモカ。その二人をさりげなくフォローするのがアリス。


(私は? 私はみんなのために何ができるんだろう)


 みんなにはまだ言っていないが自分には強い魔法がいくつも使える。正直学校で習う基本中の魔法はやらなくていいくらいだ。本来であれば飛び級で三年生になり、特殊魔法やオリジナル魔法の研究をやるレベルなのである。

 しかしそれをやれば力を利用しようとするものが出てくるのでなるべく目立たないようにと一年生に入学した。

 モカたちは自分の魔法のレベルを期待して友達になったわけではない。果たして強い魔法を持っていると知ったら態度を変えてしまうだろうか、今まで出会ってきた人たちのように。そんな不安を胸に抱えながら歩き出した全員の一番後ろに着くようにゆっくりと歩き出す。


「エテル、友達は横並びになるもんだよ!」

「え、あ、うん」


 慌ててもモカの隣に小走りでかけよった。友達などいたことがないからそんな事は知らない。


「これ友達が百人ぐらいできたらすごい大行進になるね」

「絵面すごいな」

「ちょっと見てみたいけどね、ふふふ」

「……そう、だね」


 対等だと、同じ風景を見ているのだと言われているようで。なんだかとても心が暖かかった。


 宝物が魔法で隠されている。まずはその「隠匿」魔法を探し出さなければいけない。これは感じ取る力があれば誰でもすぐにわかることだ。ただし個々の能力には差があるので力を合わせて解かなければいけない。感じる力も種類や属性があり、感じ取れる魔法の種類に得意不得意があるのだ。


 エテルはこのイベントが始まる前からどこに宝が隠されているか全てわかってしまっている。感じる力は間違いなく学年で、いや、おそらくこの学校の中で一番高いのだ。しかしそれを言ってしまえば他の三人が頑張ってやる意味がなくなってしまう。

 というよりも、エテル一人でやればいいじゃないかという話になってしまうのが目に見えている。エテルは終始無言だ。あまりしゃべらなければ相手も話しかけてこなくなる。それが今まで通りだったのだが、モカには全く通用しなかった。


「さてはエテル、宝の場所がわかってるとみた」


 いきなり核心を突かれるとは思っていなかった。モカの事だからまたおかしなことでもいうのだろうと気軽に身構えていた。そのため驚きが表情に出てしまい、内心しまったと思った。


「なんで?」

「だって、すごく退屈そうなんだもん」

「え」


 予想外に、本当の意味で核心をつかれた。そう、退屈なのだ。隠されている魔法もわかれば、何ならその中に入っている謎も全て「把握できている」のだから。


「それは」

「そうなの?」


 ダガー達も目を丸くしている。これが今まで接してきたような連中だったら、全部解いてくれと媚びるように言ってくるはずだ。あるいは能力が高いんだったらお前がやるべきだろうと全てを投げつけてくるか。

 いい人そうに見えても、結局自分の実力を知ったら皆逆の意味で手のひらを返してきた。できるやつがやるべきだ、不公平だ。そんな事は何十回何百回聞いてきた。


「じゃ、エテルが探してよ」


 ほらきた。やっぱりこの子たちも一緒か。そんな冷めた考えが頭をよぎった。


「一番面白そうなやつを!」

「……。え、なに?」


 一瞬何を言われたのかわからず、その言葉を発したモカを見つめてしまった。


「簡単な魔法だからつまらないんでしょ? だったら面白そうなやつ探してよ」

「いや、面白いも何も」


 そこまで言ってふと気がついた。モカの潜在能力はおそらくかなり低い、こうして一緒にいても魔力をほとんど感じないくらいだ。だからそもそも魔法とはどういうものなのかがわかっていないのだろう。


 隠す、保護魔法に面白いも何もない。確かに多少属性は違うかもしれないが、壁のようなものだ。しかし魔法がほとんど使えないも彼にそれを説明して分かってもらえるわけではない。


「お菓子屋さんでさ、飴玉が同じやついっぱい並んでるじゃん」

「そう、だね?」


 何の話だろうと思ったが、モカは楽しそうな中にもどこか真面目な雰囲気にも見える。


「全部同じ味なんだけど、その中でもこれだと思うやつを選ぶでしょ。それにはきっと理由があるよ」


 そもそもお菓子など買わないので、その気持ちがわからないのだが。今それを言うのは水を差す気がしてなんとなく黙り込んでしまった。


「それが一番美味しそうに見えたから。僕は飴玉選ぶ時すっごい考える! お菓子屋のおばちゃんから、全部おんなじよって言われても考えるよ、特別なヤツを」


 ああ、お菓子の話だから真剣なのか、とちょっと微笑ましく思っていた。しかし次のモカの言葉は意外なものだった。


「全部同じはずなんだけどね。もしかしたら見た目が綺麗だったのかもしれないし、それを選ぶといいことがあるかもって思ったのかもしれないよ」

「!」


 美人は周りを笑顔にするから。獣人は普通の人間とは違う彼らの常識や世界があるから、面白そうだと思った。そんな人たちと仲良くなったら自分はきっと楽しいし他の人の幸せになれると思った、だから友達になりたいと積極的に声をかけた。

 そんなふうに言っている、のだろうか? それとも本当においしいお菓子の話をしているだけなのだろうか。


「だからね、つまらないと思ってる魔法にもきっと何か面白いものがあるよ。エテルは何が一番面白そうだと思うの?」


 そう言われゆっくりと三百六十度一回転をした。そこら中に見える魔法の数々。その魔法をかけた者達の特徴や属性が備わっている。同じ魔法でも、個人によって少しずつ特徴が違うのだ。防御が強かったり、隠す方が強かったり、中途半端で脆いものだったり。

 しかし脆いものはおそらく見つけやすくするためわざとそう作っている。という事はそれを作ったものは相当優秀だということだ。微調整ができるのだから。

 魔法は、その人を表す姿そのもの。つまりどの人に興味があるかと言われているのと同じだ。


「あれ、かな」


 指さしたのは中庭に植えられている大きな木の幹。そこに駆け寄って見てみると、魔法の力が弱い三人でもなんとなく感じ取ることができた。それは先ほど見つけたわざと脆く作ってある魔法だ。


「おー、なんかある、かも?」

「うん、確かに。俺でもなんとなくわかる」

「アタシも!」


 三人ともうれしそうにその場所を眺めている。魔力が弱い三人にとってはこれさえも嬉しいことだ。しばらくはしゃいでいたが、三人はキョトンとして不思議そうに顔を合わせた。


「で、これ、どうするの?」

「見つけたら何が起きるかと思ったんだけど。何もないね」

「とりあえず叩いてみようか」

「魔法って叩いて平気なモンなのかな?」

「動かないからくり直すわけじゃないんだからさあ」


 本来は他の魔法が当たればすぐに壊れてしまうものだ。モカは感じ取る力だけなのでモカに壊すことはできない。ダガーとアリスが力を合わせればかろうじてヒビが入るかといったところだ。しかしやはり潜在能力の低さからか、二人で延々そこを叩いても何も起きない。


「エテル、パンチパンチ!」


 しゅっしゅっ、と殴りかかるような動きをするモカ。小さくため息をついて人差し指でチョンとそこを触った。


パキン。


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