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プロローグ
いつも通り日を跨いだ頃に家を出た。
あっちの夜は月が煌々と輝いていたけど、こっちの夜に月はなくて──
見えるのは絵具を何重にも厚く塗って作ったような、ひどく現実味に欠けた空だけ。
こっちのほうが、動き回るには都合がいい。
深夜、街灯すらない田舎道で月明かりのみというのは心許ない。
今もまだ、家に閉じ込められているのだろう。
どたどたと騒がしいあの足音が、何よりの証拠。
何度も部屋の前を往復したり、何度も階段を上がり降りしたりする、あの足音。
聞いているだけで、ただただ切なくて、苦しくて、やりきれなくなる。
あれはきっと、私にしか聞こえていない。
それは──
信頼されているから?
責められているから?
わからない。
でも、あの娘の望みはわかっている。
そして、その望みを叶える方法も。
だから、一刻も早く見つけなくちゃいけない。
あの娘のために。
あの娘を自由にするために。
「あいつだけは、生かしておかない」
たとえ刺し違えたとしても──