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この想いは誰にも

作者: もも

お立ち寄り頂きありがとうございます。

幼い初恋からのドキドキとハラハラ。軽く読んで頂けると幸いです。

 アリアは侯爵令嬢。シスコンの兄が二人いる。産まれて間もなくのことだ。寝かされていたアリアに近づいた二人はその可愛さに悶絶した。黒い髪に大きな瞳、薔薇色の小さな唇。アリアと声を掛けるとニコッと笑ったのだ。

天使かと叫びそうになり思わず自分たちの口を押さえた。手を握ると小さな手が指を握り返してくる。アリアを見ることが癒やしになった。

一歳になる頃にはよちよちと後を追って来るようになった。どちらが抱っこするかで揉めた。五歳と三歳なのでおのずと勝負は決まってしまった。

だが長兄の余裕で抱っこの権利を時々譲ってやったりした。弟も可愛いのだ。

兄達は絵本を読んでやるために勉強をし、守るために剣術や魔法の練習を頑張った。


そして二年が経ちアリアは三歳になった。兄達は勉強や剣の練習が忙しくなりなかなか妹と遊んでやることができなくなっていった。

幼い子供には遊び相手が必要。しかし誰でもいいという訳にはいかない。そこで選ばれたのが父の友人の息子で、隣の領地に住む侯爵令息で三歳のヨハネスだった。

ヨハネスも美形だった。

サラサラの金髪、青い空のようなブルーの瞳に白い肌。顔を合わせるなり、にっこり笑ったアリアに一目で心を射抜かれた。

これが初恋だとはまだ分かるはずもないヨハネスだった。


二人は絵本を読んだり、庭を散歩して花の名前を調べたり虫を見つけて動きを観察したり、かけっこやかくれんぼをしてのびのびと遊んだ。

喉が乾いたらパラソルが立てかけられたベンチに並んで座り果実水を飲んだりクッキーを食べたりして過ごした。

眼福だと目を細めていたのは侍女達だった。

「アリアは虫が怖くないの?庭に沢山いるよね?」

「兄様達に鍛えられたから平気。こちらが何もしなければ大丈夫よ。まあたまに飛んできたりするけど」

「お人形遊びはしなくていいの?」

「してみたいけど相手がいないから」

「僕がつきあおうか?」

「いいの?男の子は嫌いだと思ってた」

「いいよ、一回くらいなら」

「一回だけ?」

「じゃあ二回」

「あはは、ありがとう、ヨハネスって優しいのね」

「優しいのはアリアだろ、今までの遊びほとんど男の子が喜ぶやつだったじゃないか」

一緒に遊ぶようになって半年、お転婆に見えるけど女の子らしい可愛いところもわかるようになったヨハネスだった。


それから二年後ヨハネスは弟が出来た。母親の大きなお腹を触らせて貰いながら話しかけたりしていた。

しかし母親は産後の肥立ちが悪く顔を見るだけ、赤ん坊も暫くは首が据わっていないからと乳母が世話をしているのを離れて見ているだけになってしまった。

もっと可愛がってやるつもりだったのにとヨハネスは何だか悔しい気持ちになったのだった。

時々顔を覗かせる長男の様子が変だと気がついたのは母だった。

仕事から帰って体を気遣ってくれる夫に息子の様子を注意して見てくれるよう頼んだのだが、姉しかいない男性には無理だったのだろう、ヨハネスが塞ぎ込んでいると使用人から報告があった。

夫人は申しわけないと思いながら、背に腹は代えられないと夫の友人の家族を頼ることにした。        


スナイデル家は喜んでヨハネスを迎え入れてくれた。

アリアはヨハネスから離れないようにした。勉強はもちろんお茶の時間や食事の時、庭の散歩、たまに四人で客間に集まりゲームをしたりして、そのまま眠ったりした。

長兄のアルフレッドは自分の体験をこっそり話してやったりした。

そうして三か月程経った頃ようやく元の自然な笑い方をするようになったのだった。

「僕がどうして家に居られなくなったのか三人に聞いてもらいたい」

と言い出した時には、無理はしなくていいよと全員が思った。

「僕は弟が可愛いけど可愛くない。そんな事を考えてしまう自分はもっと嫌いだった。僕なんて嫡男としてしか家では価値がないと思っていた。だけどここに置いてもらって居場所はあるんだってわかった。君たちが教えてくれた。ここは居心地がいい、ずっと居たいくらいに。帰らないといけないんだけど」

「好きなだけ居たらいいよ。そのうちお迎えがくるよ」

そう言ったのはアルフレッドだった。他の二人も頷いていた。


その日いつものように二人は手を繋いで庭を散歩していた。周囲には護衛や侍女も控えていた。そんな時に白い子猫が二人の前を横切ったのだ。アイコンタクトを取った二人はゆっくりと距離を縮めていった。

壁の近くまで追い詰めてもう少しで手が届くと思った瞬間、白い煙にあたりが覆われ、子どもたちの姿が消えた。

慌てた護衛は一人が急いで主の元へ走り事の次第を報告し、残りの者は手早く屋敷の外を探した。

魔術による誘拐と判断した侯爵は急ぎ王宮魔術団に連絡をした。魔術の痕跡が残っているうちにと筆頭魔術師が駆けつけ、後を追いつつ騎士団と連携を取って犯人のアジトまでたどり着いた。


気がつくとアリアたちは縛られ見知らぬ廃屋のようなような所にいた。

あの猫は魔法だったんだとヨハネスは唇を噛みしめた。

周りを見ると、他にも拐われた子供が数人いることがわかった。

皆見目が良い上質な服を着たこどもばかりだった。

その中の一人の男の子が諦めたように、もうすぐ奴隷として売ると犯人達が話していたと教えてくれた。

きっと助けが来るから大丈夫と励ますアリアに、

「君たちは拐われたばかりだから不安じゃないんだ。一日一個のパンと水だけだと頭が変になりそうになる」

と言って俯いた。

アリアはかける言葉をなくした。

「諦めては駄目だ。きっと助けが来ると信じよう」

とヨハネスも言葉を重ねた。


その時外が騒がしくなってきた。

「きっと助けが来たのよ」

そう言って微笑むアリアを見ても子ども達は虚ろな目をしているだけだった。

扉を蹴破って一番先に入ってきたのはアリアの父だった。

「アリア、怪我はないか?無事で良かった。」

と言って抱きしめた。

次に入ってきたのはヨハネスの父だった。

「良かった、無事だったか?母様がとても心配している」

犯人達は騎士団が素早く捕獲し、子ども達も無事に保護者に帰されることになった。

皆貴族や裕福な平民の子息だった。拐われた事に気がつくのが遅かったり、犯人からの接触もなく、自力で探してもなかなか行方が掴めなくて困り果てていた。騎士団の方でもアジトの場所に確信が持てず手を焼いていたらしい。


屋敷に連れて帰られたアリアは母に抱きしめられ、兄達に思い切り無事を確かめられた。それまで泣かなかったが気が緩んだのか大声で泣き出した。

父がよしよしと言って抱き上げ、背中を大きな手で撫でて安心させてくれた。

ヨハネスも母に抱きしめられ、嬉しそうな顔を見せていた。

子ども達を護衛数人と魔術師に警護を頼んで大人だけで今回のことを話し合うことにした。


「この度のことは家の落ち度で、ご心配をかけてしまい本当に申しわけないと思っている。どうやって償えば良いのかわからない」


「こちらこそ、ヨハネスがここまだ明るくなってくれたことが嬉しいよ。君の家族のおかげだと思っている。何とお礼を言ったら良いのかわからない。それにこれはたまたまヨハネスがこちらに来ていた時に起きたことだ。うちにいても拐われていたかもしれない。君の対応の早さのお陰で助かったとも言える。

それでお願いがあるのだが聞いてくれるか?妻とも話し合ったことだ。

ヨハネスとアリアちゃんの婚約を考えてくれないだろうか?貴族社会のことだ。いくら箝口令を敷いていてもどこで漏れるか分からない。瑕疵がつくことは避けたいんだよ」


「こちらこそお願いしたい」

「では婚約は成立したということで近いうちに婚約式をしよう」

二人の父親は固い握手をした。



二ヶ月後、婚約式を終えた二人はアリアの部屋で座ってお茶を飲みながら

「僕と婚約して良かったの?後悔しない?」

「ヨハネスの事好きだもの、良いに決まってるわ。ヨハネスは?」

「アリアが一番好きだよ」

「私達両想いって言うらしいわ、この前侍女が話しているのを聞いたの」

と赤い頬をしてアリアが言った。


二人は十五歳になり魔術学院の入学を二週間後に控えていた。

今日は制服が届きスナイデル家にヨハネスが来ていた。

女の子は白いブラウスに赤のリボン、紺色のチェックのスカートと紺色の上着。男の子は白いシャツに紺色のチェックのパンツと紺色の上着。ネクタイは赤色だ。

お互いに別の部屋で着替え見せ合うことにしている。ヨハネスが一番に見るのは自分じゃないと嫌だと言ったからである。

しょうがないわね、と言いながらまんざらでもないアリアだった。

何故なら自分もヨハネスの制服姿が見たかったからである。

着替え応接室で待っているとヨハネスがやって来た。二人共固まってしまっている。母がたまたま近く通りそれを目にした。

「アリア、可愛すぎて誰にも見せたくない」


「ヨハネスも格好いいわ。誰かに取られそう、どうしよう」


「誰にも取られないから。僕が見てるのは君だけだよ」


母は何も言わず微笑ましく娘達を見た。

娘が幸せなら何も言うことはないのだから。


アリアはこの十年で変身魔法を自由に操れるようになった。十五時間くらいなら簡単に別人になっていられる。

ヨハネスにも魔法をかけることが出来るようになっていた。

「学院には地味な姿で通学しよう。過去に誘拐されたことを言えば理解してもらえるさ」


「そうね、それが良いかも」

十五歳になり特別容姿が整ってしまった二人は家の力を使って変身を受け入れて貰えるように動いた。

ヨハネスは膨大な魔力を持っていて、どこから狙われてもおかしくないという大きな問題も抱えていた。

地味なカップルでいれば問題も起こりにくいだろうと、特別に学院長から許可が出た。

その代わりより魔力の勉学に励むようにお達しがあったが、もとよりそのつもりなので文句はない。

二年間は平和に過ぎた。町へ買い物に行ったり、景色がいいと評判のいい湖にピクニックに行ったりした。

ヨハネスの領地に行き未来のお嫁さんだと紹介されて恥ずかしくなったりした。


そんなある日の事、ヨハネスが暗い顔をしてやって来た。

「どうしたのとても顔色が悪いわ」


「何処からか僕の魔力の事が隣国に漏れたらしい。学院と国が必死に隠してきてくれたのに、半年間だけでも留学に来ないかと言われた」


「それは国からは断っては貰えないの?」


「国は僕の魔力を知らないことにしてくれているんだ。隣国はただの留学生として招待したいと言ってきている。変なんだよね、どこで漏れたんだろう、しかも普通に学力が優秀な留学生って何だって話だよ、それならいくらでもいるじゃないか。希望も出してないし。

国もこの魔力をみすみす隣国に取られたくないので、何か策は考えてもらえるようなんだけど。やっぱり学院しかないよね、あれだけ阻害認証をかけて人目につかないようにしていたのに。スパイがいたんだろうな」


「隣国では変身魔法もかけてあげられないし、ややこしいことに巻き込まれなければ良いのだけど。でも隣国は魔法大国なのに、それ以上の魔術師が欲しいってことかしら。帰って来られるわよね。心配になってきたわ」


「行く前にやれるだけのことはやっていくよ。絶対に帰って来るから待っていて。浮気したら駄目だよ」


「ヨハネスのほうが心配だわ。浮気したら婚約破棄よ」

「するわけないよ、愛してるんだ。

離れていても話せる通信器具を開発していたところだったんだ。

出来てから驚かせようと思っていたんだけど、もう少しで出来るから行く前に渡すね」

そう言うとアリアを抱きしめた。

そして留学に行く二日前にイヤリング型の金色のイヤリング型通信機を渡した。手紙を書くことも約束した。目にいっぱい涙をためたアリアが可愛くて

抱きしめ合い唇にキスをした。

その夜通信機のテストを行い無事成功した。

密かに話すのは特別感があったが会えたほうがいいなと思う二人だった。




ヨハネスが留学してしまった。通信機を使いすぎると魔力がなくなるといけないと思い三日に一度くらいの連絡にしたら、膨大な魔力が入れてあるから気にしないように言われて驚いた。

一週間で隣国には着いたと連絡が来た。寮に入り自分でいろいろなことをしなくてはいけないので大変らしい。取り敢えず図書館に行ってみることにしたようだ。


同じクラスの男の子達と仲良くなって高度な魔術の話をして盛り上がっていると伝えてくれた。

そういう詳しいことは手紙のやり取りで知った。


暫くしたら通信機の聞こえが悪くなって段々使えなくなった。手紙が一週間に一度が二週間になり一ヶ月になり出しても返事が来なくなった。

すると隣国のことなのにいつも同じ令嬢と一緒にいるという噂が届くようになってしまった。

どういうことなのか不安になり、父に会いたいとお願いをした。

「父様噂のことはご存知ですか?私をあちらの国へいかせて下さいませ。事実ならば考えがあります」


「落ち着きなさい、噂は聞いているよ。何かの間違いだと思う。父様の方で調べるから待っていなさい」


「わかりました」


力なく帰っていく娘を痛ましそうに見つめる父だった。

二つの侯爵家は持てる力を全て使い真相を解明し、

この度の謀を裏で操っていた人物を炙りだした。



そして掴んだ証拠を持って王に謁見の願いを出した。

謁見は一週間の後に叶いヨハネスの帰国を王命にしてもらうことに成功した。



帰国の命令を聞いたヨハネスは急ぎ屋敷に戻り父に会った。

「お帰り、どういった事で呼び戻されたか分かるか?」


「私を隣国に引き止めておこうという思惑が、怪しい噂に繋がった為だと思われます。男子だけと話す様にしていたのですが一人の令嬢が加わって来るようになってしまったのです。男子生徒の従姉妹だと紹介されて、仕方がなく会話に入って来るようになってしまったのです。話していても特にそのような態度はなかったので油断してしまいました。一度知り合ってしまうと挨拶位は交わすようになりましたがそれ以上は関わっておりません」


「それが向こうの狙いに繋がるところだった。そこから噂が広がるようにし、既成事実を作ってしまえという司令が与えられていた。公爵令嬢にだ、庶子だったが」


「とてもそのようには見えませんでした」


「わざと地味にしていたのだろう、調べたが艶やかな美人らしい」


「人間不信になりそうです。気の良い奴もいましたので」


「黒幕はその公爵だった。お前の膨大な魔力を思うように使って王家に揺さぶりをかけることが目的だったようだ。隣国のことは自分たちでけじめを付けるだろう。アリア嬢に会いに行って来なさい」





ヨハネスは急ぎ先触れを出し花束を用意してスナイデル家へ向かった。

久しぶりのスナイデル家の玄関ではアリアが出迎えてくれた。

花束を持ったヨハネスの胸にいきなり飛び込んできた。

「ああ、ヨハネス会いたかった」


「僕も会いたかったよ。これ受け取って欲しい」

そう言いながら花束を渡した。

「とりあえず客間に行きましょう。そこで色々聞きたいわ」


「何でも話すよ」


「通信機が使えなくなったのは何故?手紙をくれなくなったのはどうして?」


全てが黒幕の公爵の仕業だとわかってアリアは安心した。心変わりしたわけではなかったのだ。なのに涙がポロポロこぼれ落ちてどうしようもない。

ハンカチで拭いてやりながら、思わず抱きしめてしまうヨハネスだった。泣き止むまでかなりの時間がかかりずっと背中を撫で続けることになったが、それさえも嬉しかった。

結婚の邪魔がどこから入るのかわからないことが証明されたため、結婚式が卒業式の後直ぐに執り行われることになった。一年以上前から花嫁衣装を用意していた両家の母親は満足そうだった。

レースをふんだんに使った真っ白なウエディングドレスはアリアの人外の美貌を引き立て、合わせて作られたヨハネスの礼服も彫刻のような容貌に似合い、お互いにまたまた固まってしまう状況を起こしてしまった。


「アリア綺麗すぎるよ、側から離れないでね」


「ヨハネスこそかっこいい。旦那さまが素敵すぎて困るわ」


パーティーの間は挨拶回りで大変だったが終わると早めに退室した。

吹っ切れたのかヨハネスはアリアの腰を抱いて頬にキスをしたり唇にキスをしたりしてすっかり浮かれてしまった。


アリアは侍女達にお風呂で磨かれて部屋で待っているヨハネスの元に連れて行かれ、二人は幸せな夜を過ごしたのだった。





読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字報告もありがとうございます。



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