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 柱のような光が消えると足元の円形も消えペペはゆっくりと目を開いた。そして魔王城の自室へ帰ってきた彼は倒れるようにベッドに座り込む。


「あぁ~。あいつやべー奴だ。あんなのが勇者とか聞いたことないし習ってないし。こういう時ってどうすればいいの? マニュアルに載ってたっけ?」


 ペペはそう言うとベッドの下から広辞苑のように分厚い本を取り出した。タイトルは『新米魔王による初めての世界征服』。

 それを膝の上に乗せると目次を開き勇者の種類の項目を開く。目的の内容だけを探しざっと目を通していくがどこにも目的の事は記載されていない。他にも特殊な前例などのいくつかの項目を見ていくがペペの期待していた内容はどこにも書かれていなかった。

 仕方なく深い溜息をつきながらマニュアルを閉じたペペはそれをベッドの下に仕舞いそのまま寝転がる。 


「魔族だけじゃなくて魔物も全員いなくなったし。勇者は僕に興味無いし。――どうしよう。これどうやったらこの世界取れる? さすがに勇者と魔族と魔物と人間を一人で相手にするのは無理だしなぁ」


 少し天井を見つめながら真剣にどうすればいいかを考えてみたが、シミひとつないその天井のように何一つ解決策は浮かばなかった。


「折角、下積みを積んでやっと魔王として選ばれたのに……。こんな風に終わりたくないなぁ」


 また自然と零れる溜息は相変わらず深い。


「父さんにどうしたらいいか訊く? いやダメだ。怒られそう……。ならじぃちゃん? んー。――いや、ばあちゃんだな。こういう時にこっそり頼れるのはばあちゃんしかいない」


 起き上がったペペは手の平に魔力の塊を溜めるとそれを一気に握り潰した。粒子のように小さくなった魔力は握った手の隙間から外に溢れ出しペペの眼前にモニターのような長方形を作り出した。

 すると真っ黒な画面の中央に受話器のマークが現れ震えながら電波を発信し始める。数コール分震えると真っ暗だった画面が一変。立派な角を生やし皺くちゃだが柔和な表情をしたペペの祖母が映し出された。


「まぁまぁ。ペペ坊。どうしたんだい?」

「ばあちゃん。実は……」


 ペペは裏切られたことや勇者の事――これまでの出来事を全て祖母に話した。


「っていうことがあったんだけどどうすればいいかな? あと、父さんには黙っててほしいんだけど」

「分かっとる。じゃが魔族のクセにそんな忠誠心の欠片もないやつなどに容赦する必要などないぞ。勇者もろとも殺ってしまえ」


 そういって首を掻っ切るジェスチャーをするが、その表情は依然と孫に会う祖母そのもの。


「でもさすがに僕一人じゃ敵が多すぎるよ」

「ペペ坊なら大丈夫じゃ。それに絶望に落とされた人間は希望に縋りつきやすいからのぉ。それが神じゃなく魔王でもな。ほっほっほ。――おぉ、そうじゃそうじゃ。そう言えばわしが昔あげた人形はまだ持っておるか?」

「え? あぁ、うん。持ってるよ」

「なら大丈夫じゃよ。あれはお守りじゃでの」

「え? でも……」


 祖母とは打って変わり何も解決した気がしてないペペはすっかり置いてけぼり。


「まずは人間共を適当に手駒にするんじゃ。そして人間に魔力をぶち込み魔物にしたら多少は使えるじゃろう。軍を整えたらあとは勇者共を一人残らず殺るだけじゃ。ええか? 裏切るような屑共《魔族》だけは一人たりとも生かしたらいかん。なるべく苦しみを与えて殺せ。それじゃあわしはこれから生け首があるでの。頑張るんじゃぞ」


 祖母はそう言うとガッツポーズでエールを送りながら画面を閉じた。それと同時にテレビのようなものも消えて無くなった。


「えぇ~。言うだけ言って切っちゃったよ。まぁ用事なら仕方ないか」


 全く悩みは解決されずスッキリしていないペペはそのまま後ろへ倒れた。

 そして顔を横に向けサイドテーブルに置いてある二体の人形へ視線を向ける。長い髪の優しい微笑みを浮かべている女性の人形と鋭い目のクールな雰囲気の刀を持った男性の人形だ。


「確かに昔は何が起きてもアルバニアとルシフェルの二人が守ってくれるって思ってたけど、僕ももう子どもじゃないからなぁ」


 そう呟くと顔を天井へ。


「でも人間を仲間にして魔力を与えるっていう発想は無かったな。不満のある人間は結構多そうだしそれで仲間を増やすしかないか。それでダメならしょうがない。魔王サポートセンターに相談してみよう。でもとりあえず今日は……」


 一日で色々な事があり過ぎたペペはそのまま目を閉じるとあっという間に眠りへと落ちていった。

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