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 勝ち誇ったナルキスへ睨みつけるような視線を向けながらミシェルは沈黙の中、思考を巡らせているようだった。


「団長! 俺らのことはいいです! 今すぐこいつらを」


 すると五人の内の一人が声を上げた。


「うるさいですよ」


 その言葉の直後、ナルキスに代わり傍の騎士が声を上げた騎士を蹴り倒した。


「止めて!」

「それはあなた次第ですよ。現状はですが。国王にこの事を伝えるのかそれとも……」


 そしてナルキスが手を上げると騎士の一人が剣を抜き五人の内、端の一人の喉元に刃を添えた。


「この場で処刑するのか」

「そんなことしたらアンタ達も生きて帰さないわよ」


 だがナルキスは余裕と言わんばかりに鼻で笑った。


「あなた如きにやられるぼぉくではないですが、もし仮にまぐれで死んだとしてもクラガン様の命の元で死ねるのなら本望ですよ」


 死は恐れておらず、むしろ名誉だと語るナルキスに対しミシェルは眉間へ皺を寄せた。それは彼の異常なまでの忠誠とこの場を凌ぐ策が思いつかないことへの表情なのだろう。

 だがこの状況を打開できる人物が意外にも近くにいることをミシェルはまだ知らなかった。


「なるほど。状況は大体理解出来た」


 すると今までだんまりだったペペが話を始め、そんな彼へ全員の視線が向く。


「ミシェル・V・スウィングラーよ。我輩と取引をせぬか?」


 一方でそんな視線を他所にペペはミシェルの方を向くとそう持ち掛けた。


「は? 今はそんな場合じゃないでしょ」

「取引内容は、貴様は我輩をサードンの元へ連れて行く。その対価として我輩は……」


 ミシェルの苛立つ声を無視し話を続けたペペは体の向きは変えずナルキスを真っすぐ指差した。


「あれを代わりに片付け貴様の仲間を助けてやろう」


 取引内容にすぐさま反応したのはミシェルーーではなくナルキスだった。天を仰ぐ程の大声を上げ笑い出すナルキス。


「どこの誰か分からないがこのぼぉくを片付けるって?」


 するとスイッチが切り替わるように笑い声が止まり、苛立ちを露わにした声がさっきまでの雰囲気を一変させた。


「とんだバカがいたもんだ」


 だがペペはナルキスなど見向きもせずにミシェルへ視線を向け続ける。


「どうする?」

「本当に出来るの?」


 疑いの眼差しを向けるミシェルに対し、ペペは何かを言うのではなくナルキスの方へ体を向けた。


「この程度の相手。造作もない。相手などという言葉さえ勿体ない」

「ペペ様がわざわざ手を下すまでもありません。ここは私が」

「いや、いい」

「かしこまりました」

「全くさっきから黙って聞いていれば……」


 するとナルキスの言葉を遮りペペの小さな攻撃が彼の頬を掠めた。


「貴様の下らん話はいい。それとも口を動かしながら死にたいのか?」


 だが目を見張るナルキスはペペの話を聞いているように見えず、緩慢と指で頬に付いた一本の傷に触れる。そして指先に付いた血を視認すると表情を一変させた。


「よ、よくも! このぼくの顔に傷をっ! お前如きが! お前如きが! このぼくに向かって生意気な口を聞きやがって……。殺してやる!」


 突如、さっきまでの余裕を含む声から一転し表情同様に怒りに満ちた声を荒げるナルキスはすっかり取り乱している様子だった。


「騒がしい奴だ」


 そんなナルキスに対しペペは溜息交じりに呟くと、全身へ溢れるように魔力が纏い片手を前に出した。

 一方、ナルキスは腰に差していた剣を抜く。


「お前をめちゃくちゃのぐちゃぐちゃの八つ裂きにして犬の餌にしてやる」


 すっかり瞳孔は開き血管を浮かべたナルキスは今にも襲い掛かりそうな雰囲気。


「貴様は犬の餌にすらなれんな」


 ペペの言葉の後、ナルキスを含むクラガン帝国騎士の足元には魔力で作られた両端が尖鋭な楕円が出現。騎士達がその楕円に動揺を露わにしていると、端から端へ引かれた一本の線が現れ――楕円は半分に割れた。

 そこから顔を見せたのはずらりと並ぶ真っ白い獰猛な牙。それはさながら魔獣の口。

 それが大口を開けると逃げる暇もないクラガン帝国騎士は瞬く間に口中へと落ちていった。

 だが捕虜の五人だけは傍から生えてきた手に捕まれ脱出。そのままペペの前まで運ばれてきた。その間にクラガン帝国騎士を丸呑みした口は彼らごと薄れ消失。跡形も無く消えてしまった。

 ペペは捕虜を足元にミシェルの方を向いた。彼自身にその意思が無くともそれはまるで五人を人質にしているような光景。


「さて、吾輩はクレフト・サードンに用がある。それとも国の脅威として対処するか?」


 ミシェルが取引を受け入れる前に自分の分を易々と達成してみせたペペにとって取引などあってないようなものだった。ただその力を見せつけられ、仲間を救い出された今の彼女にとって剣を抜く事は容易ではない。騎士として恩のある者に刃を向ける事も、その脅威的な力を無暗矢鱈に敵としてしまう事も――得策ではない事をミシェルは十分に理解していた。

 故に彼女は個人の感情はさておき、騎士団長してまずは気持ちを抑えた。


「アンタが国王様に危害を加えないという保証は?」

「保証? ならばいつでも斬りかかる用意をしておくといい。それか剣を抜いたまま吾輩の後ろに付いて回ってもよいぞ?」


 それ程までに何もしないという証明であり自信。だがミシェルにとってそれは、そこまでしても自分を止める事は出来ない、と言っているようにも聞こえていた。


「アタシの判断で会わせる事は出来ない。でも直接、話を通してあげる。それで国王様が断ったら、その時は大人しく帰りなさい」

「いいだろう」

「じゃあついて来て」


 その間に仲間を呼びに行っていた部下が数人と戻って来ると、捕虜になっていた五人に肩を貸し王国へ。

 一方でペペらはミシェルに続き王城へと向かった。

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