6 あっ……(察し)
ちょっと長めかも
作戦決行当日。
俺は変身魔法により身代わりをベッドに寝かせ、フクロウの姿となり王城を抜け出し、マリーの家へと向かった。
保険として朝のうちに時魔法『セーブ』をかけておいたし、これで一安心だな!
夜闇に紛れ風を切り、彼女の家にある木に止まる。
彼女はまだ明かりをつけ、心配そうに外の暗闇を眺めていた。
安心させるために窓際に行き、くちばしで窓をノックする。
「えっ……もしかして、クラウス?」
……私以外の者が聞いたら不敬罪と喚きそうな言葉遣いだな。
慌てた様子で窓を開き、私を招き入れるマリー。
私は部屋の中に潜り込むと同時に、バレにくいネズミの姿となり、彼女のベッドの下へと潜り込んだ。それと同時に適当な物に変身魔法をかけ、マリーの姿にする。
「……意外と、軽いのね。」
偽物を寝かしつけたマリーはそんなことを独り言ちた。
間髪入れずに彼女に変身魔法をかけ、ネズミの姿にし、魔法の力で明かりを消す。
さぁ、これで、アイツが罠にかかってくれるかどうか……。
しばらくすると、窓がひとりでに開き、冷え切った夜風が吹き込んできた。
それと同時に、俺達は変身魔法を解除し、偽マリーに気を取られて油断している侵入者の背後に踊りでた、はずだった。
「ネズミが入り込むとはこのことか?お前らも、子供にしてはずいぶん考えたな。でも、甘いんだよ。」
そう言い、変身直後の私達を抱きかかえる黒ローブの男。
「さて……じゃあ役目を果たすとするかな。」
身動きの取れない私達を対象にしているであろう魔法の兆候が見えた時。
俺は、時魔法を使うことを決意した。
・時魔法『セーブ&リセット』
何かを代償にし、セーブした地点まで戻ることができるという魔法。
発動に必要な代償は遡ろうとする時が過去になるほど大きくなる。
また、代償にされた命は過去に戻った際に前の記憶を保持する。
一回目の時魔法
代償:自身とマリーの命、自身とマリーが火により死ぬ苦痛、自身とマリーの精神的苦痛、自身の時魔法に関する記憶の抹消。
今回の時魔法
代償:自身とマリーの命、自身とマリーが苦しみながら死ぬ苦痛。
代償を決め、時魔法を発動したとたん、全身を鉄球で殴られているかのような痛みが襲ってきた。
その痛みは引くばかりか徐々にひどくなっていく。
あぁ、ここで死ぬのか。
そう思いはすれど、不思議と前回死んだときのような絶望感は感じなかった。
……前回は、精神的苦痛を入れたんだろうな。
痛みでおかしくなりそうな感覚に襲われながら、私は希望をもって意識を手放した。
◆◇◆
「んっ……」
朝の陽ざしに起こされ、私は目を覚ます。
まぁ、想定内だ。
彼女の部屋がずっと監視されていた、というだけの話だ。もしかすると、盗聴器もあったのかもしれない。
「おはようございます、殿下。」
「おはよう、マーシャ。」
まぁでも、さすがに朝から見張ってる、なんてことは無いだろう。
意地悪い笑みを浮かべ、朝の着替えを準備しているマーシャを呼び、今日一日私のふりをするように頼む。
「えっ……まぁ、よろしいですけど。」
困惑しながらそう言うマーシャと自分に変身魔法をかけ、私は空へと飛び立った。
「殿下、お気をつけて!」
窓に向かってそう言うマーシャを一瞥し、朝の風を切って一直線にマリーの屋敷へと向かう。
マリーは、虚ろな瞳のまま、使用人を追い払い、窓の外を眺めていた。
ちょっと、同意なしに時魔法を使ったのはまずかったかな。
そんなことを思いながら、モールス鳥の巣の近くに降り立つ。
今の私はモールス鳥の姿をしている。
じっとマリーを見つめる私に気付いたのか、マリーは私の方に向けて魔力を飛ばしてきた。
短い波動と長めの波動で構成されたその魔力は、モールスとなりメッセージを運ぶ。
『どうしてこんなことになってるの?』
『時魔法だ』
『やっぱりあなたクラウスね。で、どうする?』
『……誰か、信頼できる人はいないか?マリーの代わりが務まりそうな人で。』
『一人、心当たりがあるわ。』
『今からその部屋に向かう。そしてその人と君に私が変身魔法をかける。』
『了解。』
そう言うと、彼女は窓を開け、私を招き入れてから、乳母を呼んだ。
「チェリー、今日一日私の代わりをしてくれない?どうしてもやりたいことがあるの。」
「えぇと、代わりをするのは構わないのですが、その、私の姿では無理なのでは……?」
困惑した様子でそう言うチェリーにマリーは畳みかける。
「姿の問題が解決すればいいのよね。それなら大丈夫。お願いね。」
そう言い、ネズミに変身した私に合図を送るマリー。
そして私はチェリーとマリーに変身魔法をかけ、彼女のベッドの下で夜まで過ごすことにした。
『そう、それじゃあ、私達が過去に戻ったのって貴方の時魔法が原因だったのね。』
『そうだ。勝手なことをして申し訳ないと思ってる。』
『うーん。まぁ、そのことは全然気にしてないわ。』
『そうか。』
モールス会話をし、暇をつぶしながら。
『あの、もしあの男を捕まえられたとして、この後どうする?』
『そうだなぁ。色々、どう言い訳したものか。』
『いや、言い訳はどうにでもなるんだけど、これからの人生の話よ。』
『人生?』
『貴方はもしこの件が解決したら王一直線よ?研究なんてさせてもらえないわよ?』
『それはまぁ、そうだな。でも、正直私は王としてやっていける気がしないのだが。』
『あんなことになれば当然よね。でも、きっと貴方は王になってもよくやれると思うわ。』
『問題提起したり、慰めたり。君は一体何を言いたいんだ?』
『あの、恋愛に恋い焦がれているソフィーちゃんとは婚約破棄した方がいいんじゃない?どうせハンスになびくわよ?』
『そうなんだよなぁ。それがお互いに幸せなんだよなぁ。でも、母上が怖くて、中々言い出せないのだ。』
『あー、じゃあさ、実績のある恋人を作るなんてどう?』
『まだ私達は五歳だぞ?どうやって……』
そう言ったとき、私は気が付いた。
いつの間にかマリーの部屋の窓が開き、黒ローブの男が侵入してきていることに。
『侵入者を撃退した実績を持つ恋人なんて素敵じゃない?貴方のご両親にとっては。』
第二ラウンド、開始だ。
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