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2 目覚め

「うわぁ!」


 ふわふわの布団を跳ね上げ、肩で息をする。

 豪華に飾られた寝台、シャンデリアととても大きい家族で描いてもらった絵画。

 目が覚めると、私は、自分のベッドのの中に居た。

 夢の中で感じた、自分が徐々に焼けていく感覚を思い出し、背筋がぞっとする。死ぬ覚悟はできていたと思っていたが、死ぬのは相当怖かった。

 皮膚が焼かれた感覚を思い出し、着ているパジャマをまくり、皮膚を見る。


 ……あぁ、よかった傷一つついていない。


 生きていることを実感し、冷静になった思考が疑問を問う。

 ……何故、私は生きているのだ?

 あれほどリアルな感覚だったんだ。まさか、夢なんてことはあるまい。

 いや、では、何故、私は……


 その思考は、部屋をノックする音によって遮られた。


「殿下、目覚められましたか?」


 それは、随分と久しぶりに聞いた、自分を気遣うような優しい声。

 乳母のマーシャの声だ。

 ……何故、ここにマーシャが居る?

 マーシャは、過去の俺が、冤罪をかけて……

 そこまで考えた時、罪悪感が爆発した。


「あぁ、あぁ、あぁ。」


 体がやけに震える。自分の手の汚れ具合を見つめるかのように、やけに小さく幼げな両手を見つめる。

 何も、考えられない。

 思考を後悔が支配する。


「殿下!大丈夫ですか?」


 扉を開け、入ってきたマーシャを手でたしなめ、再びベッドに横になる。

 マーシャがあたふたと部屋を出ていく音が聞こえる。


「あぁ、そうか。神様は、もう一度チャンスを与えてくださったんだ。贖罪と、やり直しの……」


 手を目の前にかざして、自分が小さくなったことを改めて自覚する。マーシャがいるということは、きっとまだやり直せる可能性があるんだ。

 そうだ。こんなところで後悔に呑まれてでくの坊になるのでは王太子失格だ。

 ……とりあえず、急がねばならないのは王位継承権の放棄と、ソフィーとの婚約解消。同志への手紙か。

 でも、直近、色々ありすぎた。少しぐらい休息をしても許されるだろう。

 そんなことを思いながら、私の意識は闇へと沈んでいった。


◆◇◆


 まだはっきりとしない意識のまま、どこか違和感のある部屋の家具を見て、次に私のベッドを机のようにして眠るマーシャを見て。私はようやく自分が過去に戻ってきたということを思い出した。

 涙が出そうになるのをこらえ、マーシャを起こす。

 マーシャは、無事に起きた私の姿を見て抱き着いてきそうな勢いだったが、たしなめ、父上と母上への謁見をとりつけるように言う。

 さすがに、婚約者でもないのに同級生(過去を含めた年齢)と抱き着くような趣味は持っていない。


「お願い、マーシャ。今は、それが一番大事なんだ。」

「まぁ、殿下の命ならば従いますが……まさか、研究に没頭しすぎて先程のようになったわけではありませんよね!?」

「あぁー、違うと思う。だから、お願いね。」

「……承知いたしました。」


 マーシャが部屋から出ていき、部屋に静寂が訪れる。あぁ、そうだ、まだパジャマだったな。しっかりとした正装に着替えなければ。

 着替えながら、様々なことを思考する。

 さっき、マーシャは『研究』という言葉を使っていたな。つまり、今はソフィーとの婚約が決定してから、ローブ男に会うまでに戻ってきた、というわけか。私が何かを研究できるほどの知識を持ち、研究をしていたのはその期間しかない。

 ……では、どうやって婚約を破棄しようか。

 いくつか思いつくが……王位継承権を放棄し、弟のハンスにソフィーを譲るのが一番良いだろう。


 ……まぁ、正直、ソフィーのような聡明な女性と生涯を歩めるのならば嬉しいが、私にはその資格がない、ということが前回証明されてしまった。

 今の望みは国が良くなることただその一点のみ。

 まぁ、ハンスは少々国王の器足らないところがあるが、きっとソフィーが上手くカバーしてくれるだろう。


 そんなことを考えているうちに、ノックが響いた。


「殿下、今から謁見の間に来て欲しいとの伝言でございます。」

「あぁ、今すぐ行く。」


 部屋の中にある鏡で自分の服装に乱れがない事を確認し、扉を開ける。

 部屋の外に居たのは、メイドだった。


「では、こちらです。」


 ちなみに、ここから謁見のままではすぐだ。だから、正直案内を任せるのは非効率だと思っているのだが、以前それを父上に申したところ「お前が人を使うことになれる訓練だ。」と淡々と諭された。

 もしや、王位継承権を放棄すれば、自分で自由に動ける……!?


 そんな夢のある希望を思い描き、浮足立っていた私だったが、一つ重要なことを忘れていたのだ。

 結局、それを思い出すことになるのは、謁見の間の扉が開き、険しい顔をする両親を見てからだった。

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