1 馬鹿王子と馬鹿女
短めです。許してください。
「おい、お前ら!私にこんな仕打ちをして、ただで済むと思っているのか!?」
そう叫ぶ私の横には私と同じようにはりつけにされ、顔を青ざめている少女。マリー・エスターライヒの姿がある。
私達は、愛し合っていただけなのに。愛し合うことの何が悪いのだ!皆して私達をいじめるなど!
そう思い、目の前で冷たい視線を向けている公爵令嬢ソフィー・エルツェッグと、彼女をかばうようにしてこちらを睨みつける我が弟ハンス・ローゼンにもう一度怒りの言葉を吐こうとした時。
ふと、自分の中で何かが解けた。
「えっ……」
おかしい。何故、私はこんなことをしているのだ……?
私は、王太子のクラウス・ローゼンは、次期国王として女性にうつつを抜かすことのないよう、気を付けていたはずなのに。
……まるで、長い悪夢を見ていたようだ。
もしや、マリーが何か悪い術を使ったのか?
そう思い、視線を横に向けると、彼女も怯えたような眼でこちらを見ていた。
きっと、彼女も、きっと私が何か悪い術を使ったと思っているのだろう。
つまり、犯人は、別にいる。
そこまで考えた時、足元で、男がわらに火をつけようとしているのが見えた。
見物人の中でひときわ目立つ黒いローブを身に纏う男の姿も。
「アイツ!」
思い出した。まだ私が子供の頃、黒いローブのアイツに何か、妙な術をかけられたんだ。
アイツへの恨みから、少しじたばたして、何とかアイツを巻き添えにできないかと模索する。
だが、そんなことを知らない見物人達は、ソフィーに対しての怒りの行動だと勘違いし、投げられる石の量が増加した。
「ソフィー様はお前なんかが口をきいていい相手じゃないんだよ!」
「そうだそうだ!」
その中の一つが、顔に当たった。
思わず、痛みに顔をしかめる。
……そうか。まぁ、しょうがないな。いくら妙な術をかけられたからとはいえ、正気を失ったのは私の方だ。あの程度の術に惑わされるようでは、国王たりえないということか。
轟々と燃え盛る最期が、徐々に近づいてくる。
諦めの感情で空を見上げ、最期を迎えようとしたその時。隣から声がかかった。
「あの、もしもう一度やり直せたら、アイツに復讐しませんか?貴方もきっと、元の頭はよいのでしょう?」
意外に知性を含んだその瞳に、目を細め、微笑みを返す。
「あぁ。正直、私もこの国のために尽くし足りないと思っていたところだ。もう一回チャンスがあるならば、ぜひアイツに一泡吹かせてやりたいな。」
そう言うと、彼女は嬉しそうに微笑み、空を見上げた。
過去に私に近づいてきたときのいやらしい笑みとは違う、理知的な笑み。きっと、本当の彼女はこちらなのだろう。
私も、彼女にならい、空を見上げる。青く、澄み切った空。この空をもう見ることが出来ないのだと思うと、とめどない後悔が押し寄せる。
神様、聞いてくださいますか?私に、もう一度、チャンスを与えてくださらないでしょうか。私は、この国をもっとよくしたい。だから、お願いです。もう一度、人生をやり直させてください。
そんなことを思いながら、私の体は炎に包まれ、焼けていった。
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