魔王城爆誕
「ま・・・さ・・ま・」
「まー・・・おーさ・・まー」
何年前かわからない、懐かしい声を思い出した。大好きだった。愛しかった。徐々に目の前が眩しくなりその人影はぼやけてゆく。
「また、これか…」
のそのそとベッドから這い出るとスリッパを履き、重い歩みで部屋を出て下へと降りる。すると、階段の途中からベーコンの焼けたいい匂いと共に下手くそな鼻歌のようなものが聞こえてきた。
「ふ〜〜ふん、ふふふんふっふ〜」
私の今世の母である。髪をゴムで束ね、うさちゃんが真ん中に縫ってある赤いエプロンをつけ料理をしている。年は30で比較的整った顔をしており、怒るとその顔が般若となる。
「母さん何歌ってるの?」
「えーとね、なんかクリスマスの歌。タイトルはわかんない」
「もう春ですが…」
まあでもたまに口ずさみたくなるのは分かる。いい曲ってのは季節関係なく歌えるもんだよね。
私と母さんは二暮らしである。父は私が産まれる少し前交通事故で亡くなったらしい。女手ひとりで私をここまで育ててくれたのには感謝しかない。
「ほら、ぼーっとしてないで早く食べちゃいなさい。」
「わっ!もうこんな時間!ごめん雪、戸締まりと洗濯お願いしてもいい?」
「はーい」
「ごめん、ありがとう!じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃい〜」
残された私はスマホを片手に朝食を食べる。今世は大変発展していて魔法や魔物などは存在しないが、それと比べるべくもないほどに文明が高度である。飛行機という大量の荷物や人を乗せて鉄の塊が飛んでいるのを知った時はとても驚いた。
私が今使っているスマートフォンというものは、インターネットという仕組みを利用して世界中のあらゆる情報を瞬時に得ることができる。
朝食を食べ終えて母から言われたことを終えると制服に着替え、靴を履き家を出る。家を出てすぐのいつもの場所に女の子が一人立っている。その女の子は私が家から出てきたのに気づくとこちらに駆け寄って来た。
「おはよーユキー、遅いじゃん。何かあったん?」
この気だるげな返事をした子は西山優。私の幼馴染だ。ショートで可愛い系の女の子であり、小学生の頃から告白されまくっている。全て玉砕ではあるが。
「ごめん、家事してたらおそくなった。」
「そっかー、ユキは偉いね〜。私の家にも欲しいくらいだよ〜」
「そういえばさユキ、今朝のニュース見た!?」
「唐突になんだよ」
「みた!?ねぇ、みた!?」
「うるさいな、もう少し音量をさげんか、音量を。んで、ニュース?見てないけど。」
「本当!?じゃあ見てよこれ!!」
そう言いながら彼女は私にスマホで一枚の画像を見せてきた。
その画像にはあるはずのないものが世界観をぶち壊して鎮座していた。