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【1】容赦のない女(28)と、痔も恋も患う男(28) side ライラ




「うわぁああーッ!!」

「・・・・・」



 若い男が駆け出しながら叫ぶ声がすると、ここの民家兼商店街も少しずつ賑やかになっていく。


 お隣さんも起きてきた。



「よっ、もう8時か」

「そうですね、おはようございます」


「あいつ今日は何て?」

「『オレンジもいいけどスミレ色のワンピースも似合っている』んですって」


「おー確かに。ちょっと可憐に見えんこともない」

「誉めてないですよねそれ」

「ま、まぁまぁっ!落ちついて!おっちゃん朝から箒で殴られる趣味はないの!」

「・・・・・」


「で?ライラちゃんは何て返事したの?」

「・・・『クリフもロリポップ☆キャンディのトップスがとても似合ってるわ』」

「ぶぁわははははは!!!!あいつまたかよ!!」



 …でも本当に似合ってたんだもの。しょうがないじゃないですか。


 ティーンエイジャーに人気のガールズファッションブランドで、オーバーサイズのトップス。

 多分クリフの妹が着ていたら、あざと可愛いパステルイエロー。

 両脇はざっくりスリットが入っていて、大きく編み込まれたリボンは長く垂れていた。可愛い。

 下にインナーを着るタイプのトップスなのに、チラチラ見える肌の色。



 …可愛いのに、ちょっと大胆。

 ブランドの意図していない服の魅力を引き出していて、心から似合っていると伝えたつもりだけど。


 7歳下…14歳の妹の服を本気で取り間違え。

 もう何度めかも数えていません。

 あんなに注意力散漫でお城の警備兵が務まるのだろうか謎ですね。



「じゃあおっちゃんも仕込み始めっかなァ」

「仕込むのはいいけど昼からお肉焼くのは辞めてくださいよ」

「そんな無茶な!ランチ営業してから廃棄ロス減ってやっと黒字になってきたんだぞ!?」

「昼の営業許可まだ取ってないくせにこっちの営業妨害しないでください訴えますよ」


「ええっ?!ちょっ…!そっちは店舗販売より訪問販売で売上出してんだろ?!だったら気にすんなよ!」

「肉とタレの匂いは気になりますし商品価値が下がりましたしいくつか弁償してください」




 ポケットに入れていた仕入れ伝票をいくつか渡す。


「!?たかが花にこんな値段!?つか花屋ってそんな儲かンの!?」

「たかがではないですし、うちは花屋じゃなく植物屋です」



「ライラちゃーんおはよー♪まぁた隣のおじさんに恐喝されてんのー?憲兵呼ぶー?」

「おはようございます、そうですねお手数ですがお願いしても宜しいですか」

「宜しくない宜しくない!どっちかっつーと脅されてんの俺だからね!?」



 店先で朝の挨拶を交わし会う小さな商店街。

 半分以上は祖父の代くらいから変わらない家が連なり、1階を店舗にして商売をしている顔馴染みばかり。


 でもちょっと前までこんなに騒がしい朝じゃなかった。

 もっとのんびりと1日が始まっていたのに。


「じゃあこの鉢買取りありがとうございます」

「ちょっ買うなんて言ってねぇぞ!」


「要らないんですか、この葉すり潰して塗るだけで痔の薬になりますよ」



「・・・・・・・・・・・・・・・」

「まぁ要らないなら肉の匂いもついてるし近日中に廃棄ですね」



「・・・・・・・・何で知ってンの」

「急にすり寄って来ないでくださいよ耳もとで小声も気持ち悪いです」


「・・・・・・気持ち悪くて申し訳ございませんねっ!ですが何で知ってンのかこっそり教えてくれませんかね!?」


「まぁ開店した時にでも代金お持ちくださいね」

「ちょっとライラちゃん!?」



 薬屋で継続的に買うより、よっぽど安くつきますしいい買い物なんじゃあないですかね。


 まぁ開店前に隣から断末魔が聞こえてきたけど。

 薬効が高すぎるととっても染みるというのは本当らしいですね。勉強になりました。

 


 そもそもこんな小さな商店街で近所にバレたくないことがあるのなら…「ケツがぁっ!」なんて大声を出さない、目に留まるところに尻あたりの部分に血がついていただろうパンツを干してはいけません。


 あとは混んでもいないのに店の客とずっと立ったまま話しているなんて不自然なこともしてはいけませんね。




 この商店街の人間は「あいつ…かなり重度じゃね…?」なんて全員知っていることを、まだ商売1年目のあのお隣さんは知らない。



 自分のことをおっちゃんと言うセドリックはまだ私と同じ28歳。

 外交官として赴任してきたのを、この商店街の人間が全員知っていることにも気付いていない。


 身分を隠して肉を焼いている間に実家が没落しているのも気付いてないし、帰る家も爵位も無くなっているから一外交官として、このまま定住することが決まっていることも気付いていない。


 ついでに挙げれば店の向かいにある家具屋の主人は外交官とも接点がある経済産業省の副大臣だし、看板娘のエリカに至っては外務省の領事局と国際協力局を兼任する局長で、頻繁に顔を合わせているのに気付いていない。



 そのうち気付くか誰かが話のネタに言うんじゃない?と…全員が思っているからこの現状。

 副業や趣味の時間に本業の話を持ち込むのも野暮だし、暗黙の了解というやつです。



 私もギルドに登録されている冒険者で採取Sランクのプラントハンターだし、農林水産省の植物防疫所・所長でもあります。

 大事ですよね、安定した仕事と収入。



 さっき買い取らせた痔に効く植物は本業と副業を兼ねた国内の森から採取したものだし、害虫も付着しない輸出に適した植物だし、採取地の土壌の良さと立地を考えれば、開拓団として移民の受け入れも可能だと思う。


 エリカにも話は通したし、八百屋のエロじじい…法務省の大臣に何かとお触りしてきた分だけ法整備の陣頭指揮をさせるし、セドリックの領民の半数はこの地で受け入れる予定です。



 痔も、食生活や生活習慣だけが原因ではありません。

 過度なストレスは心も身体も弱らせます。

 内戦の多い国の外交官は、明るくバカみたいに笑っているけど身体は正直である。



「粗塩塗り込んだかと思うくらい激痛だったぞ!?」

「まだ開店まで10分あるんですけど」

「ため息反対イィィ!」

「ああもううるさいし内股キモいです。あと何で関係ない股間押さえてるんですか叫ばれて通報されたいんですか」

「尻が未知の衝撃でヒュッっていうよりギュギュギュって勢いよく縮こまって痛ぇんだよ!」



 なるほど、身体は正直ですね。



「しっかり塗り込んだんですねぇ」


 未知のものをよくもまぁパッチテストもせず使いましたね。

 若干心配になります、本当にただの粗塩だったらどうするんでしょう。

 でも多少出来が悪い子のほうが上手に世渡りできそうだし、ご両親も安心していらっしゃるかもしれませんね。



「初めてのおつかいをした孫を見るような目でしみじみされてもな!俺の親友を恐怖に陥れたライラちゃんの罪は重いぞ?!」

「そうですか、どうでもいい罪なんで痛くも痒くもないですね。ああ代金は定価販売ですよクーポンは使えません」

「マジで金取る気!?」

「取りますよ、薬が効いてるからもう座れるでしょほら椅子」



「・・・は?」


「鎮痛効果もあるので痛くないはずです、薬効が切れる前に塗り直せば粗塩の衝撃もなく数日で治ります」


「・・・え、マジで・・・?」

「マジです」



 おそるおそる静かに椅子に腰掛けるセドリック。

 ほーら、痛くないでしょう。

 あ、驚きと喜びで震えていますね。


 うん、やっぱり身体は正直です。



「え、何ですかその気持ち悪い手の動き」

「そりゃこの感動と感謝を伝えるためにライラちゃんと握手するべきかハグするべきか…あ、どっちもするか!」

「え、無理無理無理無理気持ち悪いです」

「ありがとう俺の救世主!!」

「マジで無理だって言ってんでしょうが!!」



 肛門こねくりまわした直後、今まで親友を握っていた手を向けるんじゃないですよバカ!!!




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