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短編集

虹が生まれる場所

作者: 佐々木 龍

 みなさんは、虹がどこからやってきて、どこに消えてゆくのか知っていますか。……野暮な事は言いっこ無しですよ。今からお話するのは、人間の歴史が始まるずっと前の事なのです。それは、かの有名なネピリム(巨人)が地上にいた頃よりも前のお話です。それでは始めましょう。


***


 あるところに、裂け目があったのです。それは、地底世界への入り口なのでした。地底世界には、ダークエルフや地底人などが住んでいるのです。そして彼らはめったに、地上には出てこないのでした。なぜなら地底は年間を通して快適な温泉街だったので、地底世界の住民からすれば、暑さ寒さに左右される地上にわざわざ出向く意味が無かったのです。


 さてここに、一人の地底人がおりました。名前は「ちひろ」。みんなからは「ちーちゃん」と呼ばれています。年齢はおよそ600歳で、今の人間で言うとたぶん、中年のおじさんのような感じです。そのちーちゃんは今、地底人の歴史がひっくり返るような事を成し遂げようとしていたのです。それは、地上にいる恋人に会いに行き、ずっと一緒に暮らすという計画を実行する事でした。


 ちーちゃんと恋人……ヒロムが出会ったのは、ある夏の夜だったのです。体が弱くて群れの厄介者になっていたヒロムはある日、兄のサムに石で殴られたのです。そしてヒロムは気絶している間に、仲間たちによって裂け目に放り込まれたのでした。その時、裂け目の近くで空を見上げていたのが、ちーちゃんだったのです。


 ちーちゃんは仲間から、地上の空に恋焦がれる変わった地底人、と言われていました。というのも地底人というのはだいたい自ら発光しているので、地上の空、および地上の空にある太陽の事をライバル視していたのです。地底人は別名「マグマの子」といい「地底人にとって熱とは、我らの事なり」という誇りがあるのです。

    

 お話は少し横道(よこみち)にそれるのですが、太陽に関するこんな言い伝えが、地底人にはあるのです。それは、太陽は元々、地底人だった、というものです。地底人たちは皆、太陽の、元の名前を口にしません。なぜならその名前を口にしたとたん、全地底人の父祖であるマグマの王がお怒りになり、地底の温泉街はたちまちマグマの王の怒りに飲み込まれる、と言われているからなのです。

 太陽というのは、マグマ王の、出て行った元妻なのでした。噂では、青ざめた顔の優男(やさおとこ)とペアを組んで昼夜、地上の空で社交ダンスを踊っていると言われているのです。


***


「母ちゃん……」


 ちーちゃんは地の裂け目から空を見上げ、母を慕って泣いたのでした。それが、ちーちゃんがしょっちゅう空を見上げていた理由なのです。そうしたらある日、裂け目からヒロムが降ってきたのでした。ちーちゃんは驚きつつも、ヒロムを温泉病院に連れてゆき、傷が化膿しないように硫酸塩泉で洗ったり、栄養たっぷりの温泉プリンを食べさせたりして、かいがいしくお世話したのでした。


 ちーちゃんの看病のかいあって、ヒロムは瀕死の状態から、すっかり元気になったのです。そしてそれが、二人の別れの時だったのです。なぜなら、地上の人間を理由なく地底に住まわせてはならないという、地底の(おきて)があるからなのでした。


 そしてちーちゃんとヒロムは泣く泣く別れる事になったのですが、地の裂け目で二人は抱き合って、こんな約束をしたのでした。それは、空と大地をつなぐ橋が架かった時に、僕たちは永遠に一緒に生きよう、というものでした。その橋は、太陽が流す涙と共に現れると、ヒロムはちーちゃんに説明したのでした。そう、その橋こそ、虹なのです。

 そして虹が見える雨上がりのある日、ちーちゃんとヒロムは二人、一緒に生きてゆこうと誓ったのでした。彼らは今でいう、おじさんと猿人男性のカップルなのです。だけどそんな事、深い友情の前にはちっぽけな事ですよね!


***


「ちーちゃんのお母さん、橋を架けてくれてありがとう」


 ヒロムは太陽に向かって毎朝・夕、手を合わせるのでした。そして夜になると月に向かってちーちゃんが、「泥棒!」と言いながら中指を立てるのでした。


 ところで虹は、どこから来て、どこに消えて行くのかって? それはね。出てきたところに、戻ってゆくんですよ。つまり、始まりも終わりも無いんです。お話はこれで、お、し、まい!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ううむ! 素敵なお話でした! ずっと二人で生きていけばいいんです! 幸せになれるように! [一言] 藤崎賢一氏の『君が空』って曲を思い出しました!
[一言] ちーちゃん、ほんとにおじさん?女の子でもいけそう。
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