【改訂版】
これは、実際に起きた気がする話。
本当は夢の中とかで、起きてないかもしれない。
夢オチの方が断然良い。
朝学校に着くとすぐ、今まで一度も話したことのないクラスメイトが「昼休み、屋上に来て」と言ってきた。
なんで私?しかもなんで屋上?ここではだめなのか。
ついにいじめられるのだろうか。
朝から人に話しかけられることが滅多にないからか、久しく抱いていなかった感情を抱く。
彼女が何を考えているのか理解することも、自分の中の疑問が解決することもなく、最近また増えた手首の傷を眺めながら、グダグダと考えているうちに気づけば午前の授業が終わり、昼休みになった。
行くべきなのか、行かない方がいいのか。
迷いながら私は屋上へ向かうため、階段をゆっくり上った。
上の階からはいつも通り、何か楽しい話をしているのであろう女の子たちの話す声が聞こえた。
そんな女の子たちの声をうっすら聞きながら、一段一段ゆっくり階段を登り屋上へ向かった。
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入り口のドアを開けると彼女がいた。
私より先に着いていたらしい。
「あっ来た来た~!待ってたよ笑」
「遅くなってごめ...」
言いかけた瞬間だった。
軽やかな動きで走りだし、落下防止のフェンスをひょいと越えた彼女の姿が見えなくなった。
3秒くらい経っただろうか。
いやもっと短かったかもしれないし長かったかもしれない。
ドスッという鈍く考えただけで痛々しい音が聞こえ、キャーーーーと悲鳴が聞こえた。
...?
何が起きたのだろうか。
つい今さっきまで目の前にいて屋上で私を待っていて言葉をかわしたはずの彼女の姿はどこにも見えない。
彼女が飛び降りた...?
まさか飛び降りたふりでドッキリでもしているのだろうか。
屋上に隠れてるクラスメイトたちがいて自分の反応を見て笑っているのだろう、きっとそうだ。そうに違いない。
それならそうと隠れてないで出てきて笑えばいいじゃないか。
いろんなことが頭をよぎり、実際に起きたのか想像なのかわからなかった。
ただわかったことは、誰かいたら気づくはずのまっさらな屋上のどこにも誰も隠れていないし、自分のことを笑ってる人も誰もいなかったことだけだ。
ということは彼女は本当に飛び降りたのか。
ようやく少しずつ事実が理解できてきた。
彼女は無事だろうか。
心配をしていて何だが、こんな高さから落ちたことを考えると無事とは思えなかった。
ひとまず安心したい気持ちと事実確認をしたい気持ちで、彼女がいると思われる場所を覗き込んだ。
彼女は、さっきまでの明るい笑顔の彼女とは別人に見えるほどの酷い姿だった。
彼女の元には突然の落下物と鈍い音の正体を確認しに先生や生徒たちが集まり始めていた。
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暫くしてからサイレンが聞こえ、また暫くすると先生に連れられた警察官が屋上にやってきた。
「ここじゃあ何だから」と先生に生徒指導室に誘導された。
何故屋上にいたのか、2人で何を話したのか、何かトラブルがあったのかなど、それはもう数えきれないほど沢山質問された。
私に答えられたのは''気づいたら彼女が落ちていた''ということだけだった。
そんなことを正直に話したところで解放されるはずもなく、自分についてや彼女についても似たような質問を何度もされた。
「思い出したことや確認したいことなどを含めて改めてお話を聞くと思いますので、辛い経験を思い出させてしまってすみませんが、その時はよろしくお願いいたします。」と強面な警察官から丁寧に言われ、やっと解放された私はそのまま自分の教室へ向かった。
教室へ向かう途中に見かけた先生たちは、他の生徒の日常に影響が出ないようにすることに必死な様子だった。
教室では、泣いているクラスメイトや彼女の状態を事細かに大きな声で説明する生徒、何も起きていなかったかのようにいつも通り勉強している生徒がいた。
大人が話していて盗み聞きした話によると、5階の高さから飛び降りた彼女は、地面に落ちた時に頭を強く打ったことで脳が破裂し即死だったそうだ。
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警察の介入があったためか、彼女の葬儀は4日後に行われた。
遺体は既に火葬され骨になり、彼女のお母さんと思われる女性が大きな声で彼女の名前を叫びながら涙を流していた。
ふと目が合った時に私を睨んでいるかのように感じたが気にしたらダメだと思うことにした。
噂によると、彼女の遺書など残された文書は何もなかったそうだ。
「楽しい高校生活を送っていたはずなのにどうして...」
「みんなに優しくて笑顔も可愛い良い子だったのに...」
とドラマでありそうな大人たちの言葉も多く耳にした。
生きていた彼女の最後の姿を見た人が私なんかで良かったのだろうか...
なぜ彼女は仲の良いクラスメイトもいるのに私を選んだのだろうか...
いくら考えても私にはわからなかった。
あの日からずっと私の周りの人たちは、みんなで示し合わせたかのように「あなたは何も悪くない。あれはただの自殺だった」と言う。
私を慰めてくれていたり、気にしないように気をつかってくれたりしたのだろう。
彼女のお母さんが私の家に来たこともあった。
「お願いだから、あの日、あの子が屋上から落ちた日、本当は何があったのか、正直に話してほしい」
と何度も泣きながら言われたが、私は先生と警察官に話した同じ内容しか話せなかった。
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あの日から3年が経ち、私は志望校の大学に合格し、国家試験を受けるための勉強をしていた。
大学生活は楽かと思っていたが、そんな訳もなく、勉強とサークルとバイトに追われ忙しい毎日を送っていた。
私はあの日の事を早く忘れたかった。
そして、忘れたことにした。
あの日は何もなかった。
普通の、いつも通りだった。
そう自分に言い聞かせて。
あの日彼女がつけた右腕の引っ掻き傷は
深かったためか、未だに時々痛む。
忘れることなんてできないし、私は忘れるべきではない。
落ちそうになった彼女を私が助けようとしたのか、
私が彼女を落とそうとしたかなんて、私しか知らない。
私だけが知っていればそれで良い。
天国で待っててね。愛してるよ。