黒猫の王様。
(黒猫の王様視点)
毎日の魚召喚の儀式が行われると知ると、取り巻きの猫達は王様の元から去った。王様はようやく解放されてやれやれと宮殿に戻った。
宮殿には王様以外の猫が1匹も居ない。皆は魚召喚の儀式の場に向かったのだろう。
玉座の間の壁に付けられた燭台をぐりっと回す。
ガラガラ
壁の一部が音を立ててスライドした。機械仕掛けなのだ。猫にも人の様に職人ならぬ職猫がいるのだ。
猫缶が並ぶ棚が出現する。缶のサイズは王様の顔ぐらいの大きさだ。1つ缶を取り床に置くと、再び燭台をぐりっと回して壁がスライドして元の場所に戻った。
肉球の手で器用に缶の蓋をペリッとめくると、魚の魅惑的な香りが部屋に漂った。
「うにゃ〜」
王様は頬を染めて缶から覗く魚の身に熱い視線を送った。缶の蓋を全部めくり終えると床に蓋を置き、缶も置いた。
「いただきまーす!」
王様は普通の猫の様に(王様は猫です)四つん這いにして缶の中の魚を口でむしゃむしゃ食べた。脂の載った魚をうみゃうみゃ。王様は至福の時を満喫した。
他の猫は猫缶を貯蓄するという我慢がいる事は出来にゃいのだ。猫缶が召喚される度に片っ端からかっくらう! 満腹中枢の限界まで食への欲求のままかっくらうのだ!
王様はそんな猫を横目に、猫缶をせっせと貯蓄した。いざという時の為に貯蓄した。
1匹になりたい時にこうして食べる事にしたのであった。
だが、その至福の時を邪魔する恐怖の足音が迫って来る。
ダダダダダダダダ
肉球の足ではもっと足音は軽やかだ。よってこのうるさい足音は猫ではない。「まさかっ!?」と王様は顔を硬らせて扉を見つめた
ドーーンッ
「王様っ! 話があるのーっ!」
ジャージの人間の出現に、胃の中の物が迫り上がる。
「うえええぇ」
☆☆キラキラが猫の口から出てきた☆☆
紗奈は「えええええっ!? 吐くほど私の事が嫌いなのっ!?」とショックを受ける。
漂う悪臭に、警報機がヴゥヴゥ鳴り響く。猫砂を4匹の猫が運んで来た。床に「「せーの!」」と猫砂を置きシャキーンと爪を出し袋を破いた。キラキラに砂を被していく。後から塵取りを持って来た猫2匹が塵取りを床に滑らせ砂を華麗に回収。何事も無かった様に玉座の間は綺麗になった。掃除に来た猫達も何事も無かった様に去っていった。
紗奈だけは猫達の無駄の無い連携プレイに目を点にさせた。
王様は紗奈を避けようと逃げ出した。
(どうして? どうして、さなちゃんがいるの? また僕を怖い場所に連れて行くの?)
狭い場所に閉じ込めて、よく分からない乗り物に乗せられ、知らない場所に連れ出された。猫にとっては恐怖の出来事だった。
(あの後大変だったんだよ? 当てもなく家族の元に戻ろうとひたすら歩いた。疲れて、お腹が空いて、口が乾いて……。死にそうな僕を見つけた大人の野良猫が僕をこっちの世界に飛ばしてくれた。この世界は猫の楽園だった。もう、人間の世界には戻りたくない)
瀕死な僕を見たこっちの住猫は「このままじゃ。死んじまう。にゃら王様にして、皆にチヤホヤしてもらうか」と僕を王様と呼んだ。
皆が僕を気にかけてくれた。マイペースな猫ばかりで時々、呆れる事があるが、僕にとっては最高な世界だ。
(でも、何故か他の猫との間に壁を作ってしまう。さなちゃんの事、凄く好きだった。でも、裏切られた。きっと僕は誰も信じられなくなったんだ)