猫カフェの店員 召喚される。
(夢かな?)
ここは暗闇の世界だった。
うにゃ〜〜
陽気な猫の声が聞こえた。猫はぼんやり白光している。
うにゃにゃにゃにゃ
白光した猫が集まり前足を上に上げ器用に後ろ足だけで立つ。前足を左右に振る。長い胴体も左右に振る。
うにゃ〜うにゃ〜うにゃ〜♪
眩い光と共にパァッと魔法陣が出現した。光り輝く魔法陣はくるくる回る。
猫達が私に向かって、えいっと前足を振る。魔法陣が私の足元にやって来た。
パァアアア
視界が白くなった。
=/\-×-/\=
--えっ?
ここは?
先程の白い光で目が眩み視界がぼやけている。明るい日差しで外の世界だと分かる。
ポロロ〜ン♪
リュートの穏やかなメロディが流れる。バロック音楽に似ている。RPGの町で流れそうな曲と言ったら分かるかもしれない。
視界がクリアになってくると猫がいた。ただの猫では無い。私とそう変わらない背丈だ。因みに私の身長155センチだ。その猫は二足歩行だし服を着ているし、何かのアニメ映画の様な光景だ。周りを見て見ると中世ヨーロッパの様な街並みだ。もっと詳しく説明するとイタリアのローマの街並みに似ている。そこで猫達が人間の様に暮らしていた。
(これは夢? 猫カフェで泊まっていたからこんな夢を見るんだ)
猫カフェのオーナーが数日間、旅行で留守にするから、パートの私が店に泊まって猫の世話をしていた。
私は猫が大好きで猫カフェで働いていた。今年で20歳になる。どれくらい猫が好きかというと『猫が彼氏です』と答えれる程である。彼氏は猫です。
目の前の大きな猫達が「にゃはにゃは」と世間話をする光景は究極の癒しだ。
(あれは、『聞いてよ〜。王様ったら今日も若い子に追いかけられて困っているのよ〜』そして話を聞いている猫は『モテモテね〜。でも、あの王様は誰にも心を開かないわ〜。何でかしらね〜』ね)
側から聞くと「にゃ〜。にゃにゃにゃっにゃんにゃ〜」で話を聞いている猫は「にゃににゃににゃ〜。にゃににゃにゃにゃ、なににゃにゃ〜」と完全なる猫語である。
常人には理解不能の猫語を訳せるのは、猫の表情や仕草で考えが読み取れる猫好きならではのスキルであった。
[※これより猫語は、ほぼ日本語へと訳されます]
じっとワンピースとエプロンの格好の猫2匹を観察した。声の高さはアルトぐらい。メスは意外と声が低い。
(猫の声は案外オスの方が高くて可愛いんだよ)
うんうん と一人納得した。
すると視線に気付いた主婦猫2匹は、私を上から下まで見て目を丸くした。
「人間? にゃんで人間がいるの?」
「にゃんか宰相さんから聞いた気がする……。にゃんだったかしら?」
ひそひそと話す猫2匹。
(怯えさせてしまった?)
初対面の猫への対応は、とりあえず過剰に構わない事だ。ゆっくりと気を許すまで待つ。餌をあげると効果は絶大だ。ポケットにカリカリが入ってないか確認する。いつもチャック付きの袋の中にカリカリを入れてポケットに忍ばせている。ポケットがカサカサするのでカリカリが入っていた。服を見ると……ジャージ姿だった。素足で石畳の地面の上に立っていた。
(足が冷たいわけだ)
ポケットから取り出したカリカリを猫2匹に見せると、2匹は目をハートにした。
「「うにゃ〜!」」
私の手からカリカリを引ったくってパクりと食べた。私は迫力に圧倒された。
(ライオンサイズが迫ってくるのは結構怖い)
猫好きのプライドでネコ科のライオンを差別するつもりは無いので、大きくても可愛がると決意する。
「もっとにゃいの〜?」
「もっともっと〜」
猫2匹は催促するがさっきので最後だ。
「ごめんね〜もう無いの〜」と私は手をひらひらさせた。
(目がまんまるで可愛いっ! 肉球が大きい! 触りたーい!)
しかし、大きいと噛みつかれたら致命傷になるだろう。じっと我慢した。
「「にゃ〜んだつまんにゃいの〜」」
猫2匹は背を向けて去っていった。ぽつーんと置いてかれた。
(お礼を言わない気紛れさが堪らんっ!)
「むふふふふ」
私は悶えた。猫2匹とすれ違い1匹のブチ猫が向かって来た。ふにふにのお腹が魅力的だ。腰に剣を装備したオスだった。オスの特徴はメスよりも顔が大きくて目が小さく見える事だ。オスの方がメスよりも人(猫?) 見知りしないというのは私の経験上の知識だ。
ブチ猫は息を切らせ私の前で立ち止まると「ぜーはー」と息を整える。声がオスだからか高い。人間の女性のソプラノなみに高い。
「猫遣いが荒いにゃ〜。おみゃ〜さんに用があるにゃ〜。付いてくるのにゃ〜」
魅惑のふにふにお腹に思わず抱きついた。我慢はどうしたって? そんな単語は魅惑のふにふにの前では無価値である。
(ふわふわぷにぷに最高〜♡)
「にゃ、にゃめろ〜!? おいらの大切な毛に匂いが付くにゃ〜!?」
体をのけ反らせて嫌がられた。距離を取られ地面に寝そべりお腹をぺろぺろと長い舌で舐め毛繕いし始めた。
「たくっ! 手入れ大変にゃのにっ!」
(残念っ!! しかし最高っ!!)
魅惑のふにふにを堪能出来た私はこの素晴らしい世界に心から感謝した。
毛繕いを終えたブチ猫は首を傾げる。
「おみゃ〜突然こっちの世界に飛ばされた割に落ち着いてるにゃ〜」
私も首を傾げた。
「だって、これ夢でしょう?」
ブチ猫はお腹を抱えて笑い転げた。
「にゃはははは! にゃんだ! これが夢と思ってるにょか〜! 意味が分からない事を夢やら病気にして片付ける人間のご都合主義にゃ〜! 滑稽にゃ〜! にゃはははは!」
何やら辛辣な物言いに、もしやと私は疑った。
「夢じゃない?」
ブチ猫は笑い疲れて「は〜」と息を吸う。
「夢でも現実でもご自由にどうぞにゃ〜。夢だと思って現実では出来にゃい行動でもすれば良いにゃ〜。精々暇つぶしに愉しませてくれにゃ〜」
猫が私をおもちゃとして扱う態度に「あっこれ現実だ」と思った。
(妙にリアルだ)
毛の香り質感感触。どれもリアル過ぎる。いくら知り尽くした猫好きでもこれは夢でも再現不可能な気がする。今まで夢見心地だったが、私は冷静になった。
(現実に帰れる?)
「私は元の世界に帰れるの?」
ブチ猫は悪い笑みを浮かべた。
「さ〜? みゃ〜達の願いを叶えたら帰れるんじゃにゃいかな〜?」
帰れるかよく分からない返事に普通ならここで怒るのかもしれない。が相手は猫。私は超の付く猫好き。
「許すっ!」
「にゃんだって〜?」
「帰れなくても許すっ!」
(猫の世界サイコーっ!)
再びブチ猫のお腹に抱き着こうとした。が--
「にゃめろっ変態っ!?」
と四足で猛ダッシュで逃げられた。
「逃さんっ!!」
私は俊足で追いかけた。格好もジャージとなかなか走るのに丁度いい。
(愛の逃避行といこうじゃないの!)
※愛の逃避行とは本来なら駆け落ちのことです。この変態は現実から逃げて猫とイチャイチャしようという意味で使っています。