96:トヴェンセ
トヴェンセはとてつもない大都市だった。
瞠目し驚愕し左右を見渡し、カークは口をあんぐりと開ける。
その姿を見たゼトは苦笑してレラはちょっとイラついたように背中を叩いて先を急かした。
「おら、さっさとしろ。田舎者かよ」
「そりゃ、こんな大都市を見たら誰だって・・・・・・」
都市を覆うような巨木にも思える巨大な城壁にはツタが絡まり、ところどころに華やかな花が咲く。
都市全体が花の香を放っているかの如くだが、それが鼻につくということは無い。
淑やかな香りがたまに気づいた時に香ると言うだけで、押しつけがましくなく、かと言って存在感がないわけでもない。
極めて上品にただ、寄り添うように花があるかのような感覚。
城門を通りそこには目を疑うような光景が広がっていた。
「わ、あ」
オニキスは素直な感嘆を零し街を見上げる。
花だ。大輪の花が街中にある。
民家も店も関係なく壁中に蔦が絡まり屋根まで這う。そして、それらを色とりどりの大輪の花を咲かせ人々の上で悠々と過ごしているのだ。
街中を覆う蔦のせいでともすれば、廃墟にも似た雰囲気を感じるかもしれないが、此処ではそんなことは無い。
廃墟ではないのだ。生命感が溢れ、脈動する。
蔦が花が、街を支えているかのような雰囲気がありありと感じられる。
「この種類の花は帝都にも咲いてる。歴史ある大都市では大抵植わってんだ、慣れろよ」
「へ?そうなんだ。花竜帝国、凄いな」
王国では大都市と言えばロージニアとカノカノスしか行った事がないから何とも言えないが、少なくともこれ程華やかではなかった。質実剛健と言えばいいか、質素ではないが煌びやかでもない。
それが普通だと思っていたのだが、花竜帝国では違うらしい。
カークは笑ってレラを見た。
「じゃあ、王国に来てさぞ驚いただろうな」
「そりゃな。花がない生活だ、驚いたよ」
「その言い方だと誤解を招きそうですが」
ゼトの言葉に笑いながら道を行く。宿屋は大通りを真っ直ぐ行き、高級街の手前で曲がるとあった。
「・・・・・・高そうだ」
素直な言葉にゼトが苦笑して、ノアがあっけからんと笑う。
「宿代はこっち持ちだ。気にすんなよ」
「はい」
気にしない努力をしようと思いながらカークはその高級そうな宿屋に足を踏み入れた。
「あの植物はなんかいい面があるのか」
カークの突然の問いにノアが顔を上げた。
今はゼトとレラが宿屋で何か話を通している最中らしく少し時間がある。その為、カークは疑問を口にした。
「だって、危ないだろ?植物が壁を突き破らないとも限らないし、火事が起こった時に酷い事になる。防犯面でも危ない、虫害もあるだろ」
ノアは言葉を探し、カークを真正面から見据える。
「癒着するんだ」
「ん?ん?え?何が?」
突然の言葉に困惑しカークが戸惑うとノアは再度言葉を探して天井に目を向けてから口を開く。
「・・・・・・そもそも、建物の壁の材質が木なんだ。この木は、花竜帝国の特産品でもある“銀木”でそれで作られると他の植物と基本的に敵対しない。仲良く過ごす。虫もつかん」
「んん・・・・・・」
何かノアの説明には足りないものがある気がしてならないがカークは賢明にも口を閉じた。まだ話が続きそうだったからだ。
「あらゆる植物は獰猛であり、同時に極めて慈悲深い。あの蔦の植物は街を守ってくれる。銀木は火に強く、魔法適性も高い。魔法的な要素からの防御も担える・・・・・・城壁も銀木で出来てんだよ」
「ああ成程。だから、街は基本的に同じ壁なんですね。少し不思議だったんです」
オニキスは街に違和感を感じていたらしい。カークは大して気にしなかったが。
曖昧な顔をしたカークにオニキスが微笑んで説明をしてくれる。
ちょっと得意げで、可愛らしい笑顔だ。
「街中の建物が同じ材質だと防衛に不向きなんです。魔法で防御を都市全体にかけるのは時間がかかりますし、非効率です。同じ色って事は同じ属性が弱点である可能性が高いですから攻撃側はひとつの弱点を探ってそれから攻撃します。なので、壁の塗装なんかに魔法の防御層を仕掛けるのが普通なんです。それが理由で世界的にも壁が同じ材質、同じ色の都市は珍しいんです」
「銀木が採取できる花竜帝国の強みだ。晶竜帝国も見事だぞ。石と宝石の国だ」
ぎょっとしてノアをみた。想像もつかない。どんな街になっているのか、途轍もなく気になる。
「ど、どんな感じ?聞きたい!」
「僕も聞きたいです!」
2人でねだるとノアはまんざらでもない顔をして得意げに話し始めた。
「表面が鈍く加工された魔法水晶で城壁を作っているんだ。行ったのは彼の国の帝都だけだけどな、凄かったぜ?出てくる器も全部宝石で削り出しているんだ。街並みも華やかだが眩しくはない。上に薄い遮光壁ってのが張られて太陽光を幾らか遮断しているんだ。昼でも夕方みたいで、ほんのり薄暗い都市だよ」
「?なんで、太陽光を遮断しているんだ?」
この質問にはノアは少し困った様にいう。
「晶竜の血族は宝石を身に纏い、煌びやかだが陽の光に弱い・・・・・・よく分からんけどな」
「――あ、“宝石”だから」
カークには思い当たる事があった。前世、地球での浅い知識の中にある、宝石の中には紫外線で褪色するものがあると。
光りがあるから輝いて美しいが、その分命を削るのだ。褪色してなお宝石は美しいが、本人たちはもしかしてそれを疎ましく思っているのか。
それとも、地球とは違い単純にそう言う種族だからと言う可能性は十分あり得る。
いや、あり得るではない。“そう”なのだ。カークはカークが異質であることを十二分に理解していなかったことを自覚しため息を吐く。
――おかしなことを今考えたな
この世界の歴史や成り立ちに興味はない。あるのはヒトの文化や文明だ。
あとは未知の遺跡や迷宮などか。
「どういう意味ですか?」
きょとんとオニキスがこちらを見上げたのでその頭を撫でる。
「その種族をよく分かる訳じゃあないが、もしかして、結構儚い種族なのかなって」
「そうかあ?ごつい奴ら多いけどなあ。腕も確かだし」
「はは・・・・・・そうなんだ」
直接見たノアがそう言うならそうなんだろう。カークは妄想力が豊かな方らしい。勝手に儚んでしまった晶竜の血族にいつか謝ろう。




