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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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93:説得は大変


ロージニアにはもう用が無いという事で一行は街の外へと歩を進めていた。

南側は高級商業地区で通るにも勇気がいるが仕方がない。

大通り沿いはそこまで格式ばった店は無いので、カークの気にしすぎでもあるのだが。


「ルリとオニキスは武器の新調しなくてよかったのか」

「私の槍より優れたものはそうそう存在しません。“水獄(すいごく)の君”がその一部からお創りになったので」

「そ、その話は知らなかったな。なら大丈夫そうだ」


あの化け物は何でもありか。顔を引き攣らせてルリの言葉を受けとり、オニキスを見る。

彼もまた首を傾げた。


「僕も必要ありません。魔法使いとしての触媒は腕輪ですので」

「ああ、杖じゃないのか」

「はい。持たない方もいらっしゃいますが。僕は、母の形見の腕輪を」

「・・・・・・そうか」


聞いてはいけない事を聞いてしまったかもしれない。カークはそれを罪悪感を誤魔化す様にオニキスの頭を撫でた。

30分ほど歩くと南の城壁から出る。そしてそのまま、森へと進んだ。

ここから10分歩いて人目につかない場所で魔法を発動し、宿場街に戻る予定だった。

予定地に着くと周囲を窺った。森が近く、ロージニアも近い。

宿場街への距離はイマイチ掴み切れないが、魔法を発動させる。


「【門の創造】」


影から闇が上に伸び門を象る。生臭い息を吹きかけられているような感覚はいまだあるが、門は問題なく作られた。

振り返ってカークは笑う。


「じゃあ、戻ろうか」

「はい」


ルリの返事を聞き、門へと足を踏み入れる。

何か、頭の中から鈍い音が聞こえる。声のようだ。いや、不快な音か。

語り掛けるようであり、意味のない呻き声のようだった。

気持ち悪さが先に立つ中で、カークは向こう側の平原に立った。

じっとりと冷や汗をかき、喉を鳴らす。


――何かが、何かが、見ている。息を吹きかけている


振り返ると闇を見せる門がこちらをうっそりと見ている。


「カーク?」


息の荒いカークを心配そうにルリが見る。それに、首を振って魔法を解いた。


――何か、あの門の中にいると考えた方が良いかもしれない


カークはようやくそれに思い至った。だが、それならば何故皆は気にも留めていないのだろうか?

カークが被害妄想にも似たものを感じているからだろうか?被虐妄想とでも言うものか。

時虹公(じこうこう)”の件からこっち連中に対して酷い恐怖心を抱いている。その為に、こうした恐怖が根強く心を蝕んでいるのかもしれない。

カークは再び首を振った。


「今考えても仕方ない」


門の中に何かがいたとして、それはカークにはどうにもできない存在であることは明白だ。

肩を落とし、宿場街への道を歩き始めた。




日が傾き始めた宿場街に変わったところはない。カークは伸びをして宿に向かう。

明日一日を休みに当てられるのは良い事だ。宿場町をゆっくりと見て回るのも悪くない。

カークはそう思いながら宿に足を踏み入れ、椅子に座っていたノアと目が合う。

彼は何処か疲れたように机に突っ伏し虚空を見つめている。


「ど、どうした?」

「・・・・・・つかれた」


そうなんだなあ。つかれたんだあ。

カークはぼんやりとそう思いながら彼の隣に座る。ルリ達も各々席についた。


「水か何か飲むか?」

「飲む。甘い奴が良い」

「持ってくる。ちょっと待ってろ」


ノアの蚊の鳴くような声に頷き酒場のカウンターに向かう。

そこで果実水を人数分受け取り、盆にのせて貰う。

席に戻ってノアに渡すと彼はそれを貪るように飲み干した。


「もう一杯いるか?」


黙ってうなずかれたので、カークも席を離れもう一度カウンターに向かう。

戻って来た頃にはノアの体力も幾らか回復したようでカークに笑顔を向けている。


「ありがとう」

「いいんだ。こっちも良くしてもらっているし」


はて、何があったか聞くべきだろうか。

カークはちょっと悩んでから、聞かないことにした。彼らは明らかにカーク達に隠していることが多い。身分もそうだ。

なら、その関係で言えないことも多いだろう。無理に聞くより相手が話すのを待つ方が良い。


「実は軍と揉めてさあ」


言っちゃうんだ。カークは顔を引き攣らせた。守秘義務とかないのか。


「そんな竜なんていない!でっち上げだ!グールはどうした!冒険者が村を破壊したんだ!って煩いのなんの」

「鱗があるだろ?村に行きゃ、骨だってある」

「それでも信じないのがヒトってもんよ。軍の威信にかかわるからな。冒険者如きに後れを取って、それも到底倒せないような竜の狩りを目と鼻の先でされたんだ。奴らお冠だよ」


うわ、めんどくさ。カークの素直な感想である。どの世界でも一定数いる自分の地位と名誉さえ守られれば他の一切は無視する権利があると思い込んでいるタイプ。


「そんで、レラがまだ捕まってる。説明と説得をしないと村長に渡した鱗が無駄に終わるからな。村への支援が遅れれば、その分だけ損失が出る」

「たしかに。麦も無駄になるし、秋が来ればその分備蓄食料が減る。直ぐに戻らないと村がなくなる。必要なら、俺が直接行こうか」


ノアは酷く顔を歪めて頭を振った。


「駄目だ、止めろ。話がややこしくなる」

「でも、冒険者を信用できなくて言ってるんだろ」

「そうさ。“冒険者を信頼できなくて”言ってる」


ノアが繰り返して言う言葉にカークは首を傾げた。

肩を竦められる。


「連中あの勢いじゃ、自分たちの威信を傷つけられたって言ってその冒険者に適当な罪をでっちあげることも厭わんさ」

「はあ?そこまで腐ってんのか!?」


あり得ない。国の利益を追求することが軍の義務だ。

それを蔑にするとは何事か。


「ああ、この国は今腐ってる。先々帝が骨の髄まで腐らせた。先帝はそれはもう十分に頑張ってたけどな・・・・・・先だって崩御された。新帝はふた月前に立たれたばかりだ」

「・・・・・・は」


言葉にならない。隣の国は華やかで美しく、洗練された大国だと勝手に思っていた。

古竜花竜を祖と仰ぎ、敬い、崇拝する。極めて信仰深い歴史ある国だと。

だが、実態はどうだ。軍は腐敗し冒険者を目の敵にし、国民の不利益さえ自身の利益にしようとする。


「軍が腐れば、治安維持はどうなる。あの村は本当に大丈夫か?」

「・・・・・・そこまでではない。帝都に近ければ近い程、ましさ。ただ、今回の件で目をつけられたのは間違いない。正直お前たちがすぐに戻ってきてくれたのは助かったよ」


じゃなきゃ最悪置いて行ったと言われて、うすら寒いものを感じる。

彼らは、決して悪人ではない。そりゃ、1から10まで知っている仲ではないがそれでも、悪人ではないことくらいは分かる。

その彼らが糾弾される可能性があるという。軍の利益を損ねたと、そう言って。

カークは表情を固くした。


「それに、竜狩り出来るお前の存在がばれるのは良くない。竜狩りの冒険者はそれこそ目の上のたん瘤だ」


カークは何もかも嫌になってため息を吐いた。






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