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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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90:いい服あるといいな


「本当によろしかったのですか、ヘパイストス様」


カウンターに置かれた大きな角を愛おし気に撫でていた男は笑って答える。


「そりゃ、いいに。久しぶりの飛竜の角だで嬉しくて嬉しくて」


徒弟は肩を落とす。

親方の悪癖ともいえるものだ。

素材の代金だけでは鍛冶屋はやっていけない。当然そこには技術料がかかってくるし、素材だって今回で言えば竜の角のナイフを作ろうと思えば、角以外の素材が必要になってくる。

むしろこっちが金を貰ってナイフを作るのが道理である。

だのに、素材を買い取ってナイフ2本分を先の冒険者に渡すという。

赤字である。

徒弟の顔に浮かんだ不快気な表情にヘパイストスは口を大きく開いて笑い、その背を大きく叩いた。


「なんて顔するだん!竜の、それもティユレイの角だに!?お前も触りたいら!」

「うーん、まあ、そりゃあ」


触りたい。出来れば全身全霊で装備を作りたい。剣でも、ナイフでも、小剣でも、弓でも。作りたくてうずうずする。最高の素材が目の前にあってそうならない鍛冶師はいない。

けど、赤字だ。

顔をへし曲げた徒弟を諦めたように見て、ヘパイストスは鼻から息をつく。


「お前は金のことばっかじゃん」

「金がなきゃ、素材も買えませんよ」

「まあ、儂の工房は大丈夫だで、気にせんときん。な」

「はあ・・・・・・」


実際。今回が赤字であって、全体的に工房が赤字経営と言うわけではない。

ヘパイストスの工房は陽王国中を探しても上がいない最高の鍛冶師が集まる工房であり、ヘパイストス本人が鍛冶の神とさえ呼ばれる最高の鍛冶師である。

花竜帝国の領土であった頃から何百年もロージニアで鍛冶をやっているらしい。生憎、この徒弟は10年前工房に来たばかりでよく知らないが、とにかく、凄い鍛冶師であることはよく分かっている。


「竜の角の加工を見ていても良いですか」

「勿論だわ。ちゃんと、見ときんよ。久しぶりで腕がなまっとらんきゃいいけどね」


そう言うが顔には自信が浮かぶ。オリハルコンを叩くよりも簡単だと言いたげな顔だ。

竜の角を持ち、ヘパイストスは工房へと足を運ぶ。


「店番は他の奴に・・・・・・そうだ、冒険者にやらせりん」

「はい、親方」


ヘパイストスは大きく頷き、集められるだけの徒弟を集めた。




路地裏にはそぐわないはずだが浮いた風ではない上品で落ち着いた扉に手をかけてカークは店内に入った。


「すみません」


そう言ってカウンターに目を向けるといたのはツインテールの美少女、シャルローゼだった。

彼女は丁寧にお辞儀をしてカーク達を迎えた。


「ようこそ、当店へ」

「不躾で申し訳ないのですが、ラナンティアさんはいらっしゃいますか」


シャルローゼは無表情のままで頭を下げ、謝罪を口にした。


「誠に申し訳ございません。店主であるラナンティアは現在遠出をしている最中でございます。戻る時期は不明でございます」


時期すら不明とはどれだけ遠くに行ったのか。瞠目するも、よく考えればカークに必要なものがこの店にあればいいのだ、あの鍛冶屋の男にラナンティアに相談するよう言われただけなのだから。


「あ、じゃあ、あの・・・・・・服ってありますか」

「どの様な服をお求めでしょうか。一般的な衣服から冒険者向けの頑丈で柔らかい衣服まで取り揃えてございます」


本当になんでもあるのか。店先に並んでいなかったので服はない物だと思っていたが、そうではないらしい。


「冒険者向けの出来れば頑丈で重く無い奴を」

「お仕立ていたしますか?ラナンティアが戻って来ましたら、その時お伝えしますので、1年以内にはお届けできるかと」

「ははは・・・・・・完成品で十分です」


オーダーメイドも出来るのか。と言うか、ラナンティアが作ってるのか。カークはショックを受けながらなんとか言葉を紡ぐとシャルローゼは思い出したようにパッと愛想笑いを浮かべてお辞儀をした。


「少々お待ちください」


カウンター横の扉に入っていき、数分で彼女は戻って来た。が、数個の箱をカウンターのカーク側に置くとまた戻りを3度繰り返した。

数個の箱が積まれ、シャルローゼはその横で説明を始める。


「こちらがカークさんに合う物で、こちらがルリさんに合う物です」


三箱分ずつが分けられている理由が分かり、カークは頷いた。


「成程、じゃあ、こっちが」

「はい。こちらがオニキスさんに合う物で、こちらが、新しい方に合う物です」

「ありがとうございます、シャルローゼさん」


カークが代表して頭を下げるとシャルローゼもまた頭を下げる。

「恐縮です。フィッティングルームはあちらにございます。どうぞご自由にお使いください」

「ありがとうございます」


指示されたアーチをくぐった先に6個の扉があった。

オニキスの分とシンジュの分の箱をそれぞれの扉の前に置き、ルリもついてくる。


「じゃあ、サイズが合って趣味に合ったものを選ぶように」


各々が頷いたのを確認してカークも扉を開いた。





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