7:最強とは
自分は最強の存在になると自負している。
今はまだこんな低い地位に甘んじているが、魔力も筋力も村の同年代の子の中では一番だった。
イナンナはそう考えて己を落ち着かせた。
(それもこれも弱腰なカークのせい)
そう思うと顔が思わず歪む。自分は最強の魔法剣士たる存在なのだから、ゴブリン狩りなどという小さな依頼を受けるのは酷く不快だ。しかしカークはそれを無視している。
この一週間決まってゴブリン討伐の依頼を受けて、東の森に行き、こそこそとゴブリンを数匹倒して帰って来る生活を送っている。
到底魔法剣士イナンナが送るべき生活ではない。
(勿論、まだドラゴンを倒せないのは分かっているわ)
謙虚は美徳だ。ドラゴンを倒すにはまだまだ経験が足りないのは事実なのだから。
しかし、カークは出会った魔獣を狩ろうとすらしない。魔獣を狩ればもっと手っ取り早く実力を示せるし、素材を売れば金になる。
「“俺達じゃあ実力が足りない”ですって!?足りないのは貴方の実力だけでしょ!!!」
思わずそう叫んでから慌てて口を塞ぐ。ギルド内は騒がしいが叫べば誰かに聞こえる。
カークは先に宿に戻っているし、聞かれて困ることは無いがそれでも罵声を聞かれるのは自分の実力が劣ってみられるので悪い事だ。
それでも指がイライラと机を叩く。
(カークの実力が足りていないせいで、私が劣って見える!)
たかがF級と侮られることはイナンナにとって屈辱だ。
魔法を扱えるうえに剣術にも自信がある自分はもっと強い魔物と戦うべきだし強い冒険者と組んでもいいはずだ。
いや、そうするべきだとイナンナは閃く。
D級でも通用する実力を持つイナンナであれば引く手数多だろうと考え席を立つ。
魔法使いを探すチームは多い。しかし魔法使いは少ない。実力を持つものであればもっと減る。
その中にイナンナという実力者が現れるのだから、もしかしたらC級の冒険者からも声がかかるかもしれない。
賑わう周囲を見渡して冒険者を観察する。最低でもD級の冒険者と組みたいので、黄色の登録票を身につけているものからピックアップしていく。
年齢が近い方が良い。粗野な奴は嫌。実力を正しく見てくれる奴がいい。
そうして観察していった中から若い3人組の冒険者たちを見つけると近づき、声を掛ける。
「初めまして。少しいいかしら」
3人は話し合いを止めてイナンナを見ると愛想笑いを浮かべてひとりが口を開く。
「ああ、ええっと?」
「私はイナンナ。魔法剣士よ」
そう名乗ると3人はぎょっと目を剥いて驚く。
「ま、魔法剣士?若く見えるけど?もしかして人間じゃないのか?」
「あら人間よ。私、実力はあるのに今組んでる奴が意気地なしで困ってるの。貴方たちと組ませてもらえないかしら」
単刀直入にそう聞くと3人は顔を見合わせて、リーダーっぽい剣士が肩を竦めた。
「魔法剣士がウチに来たいって言うなら願ったり叶ったりだ」
ただしと続く。
「能力表を見せて貰ってもいいか?」
「ええいいわよ」
当然の話だ。イナンナは気負いもせずに能力表を開くとそれを3人に見せる。
3人は眉を顰めてから落胆したように肩を落としてひとりは呆れたような顔をした。
一瞬不安になるが、自信を持たなくては駄目だと自身を奮い立たせる。
リーダーの剣士は曖昧な顔をしてイナンナに話しかける。
「・・・・・・魔法剣士じゃない」
「はあ?私は魔法使いだし、剣士よ!!」
「魔法使いと、剣士だ・・・・・・魔法剣士はちゃんとクラスがある」
その物言いに腹が立つ。こいつも実力を見ない奴なのか。
「魔法剣士のクラスなんてすぐに取れるわよ!」
そんな物に何故煩わされなければならないのか?イナンナは吐き捨てる。
剣士は顔を顰めたが傍らに立っていたシーフの女が剣士に話す。
「でも、LV6なら実力は十分。魔法剣士も夢じゃないでしょう」
反対側に立っていた神官の男も気を取り直したように頷く。
「LVが近ければすぐに狩りが出来るぞ」
2人に後押しされて剣士はイナンナを見つめなおすと、ため息を吐いてから頷いた。
「ウチのチームにようこそ、イナンナ」
明日の朝また会おうと見送ったイナンナの背が見えなくなってから剣士の男は息を吐く。
「・・・・・・F級冒険者でLV6は確かに凄い。抜きんでている、けど性格に難ありだな」
シーフの女と神官の男もそれに頷いて同意した。
LVという数値は非常に分かりやすく重宝している。
これが分かれば相手がどの程度の強さを持つか分かるからだ。
勿論これを過信すると痛い目を見る。
魔物たちや魔獣にドラゴンや亜人たち。同じLVであっても数え上げればきりがないほど多くいる“種族”という壁は厚く、能力値をしっかり見ていなければ冒険者は即死亡の世界。か弱い人間に過信は禁物だ。
そのか弱い人間に置いてLV6は実力を持っているとみなされる。
冒険者を初めて1年と少しのD級である自分たちはLV8。彼女の才能が分かる。
「魔法使いLV4に剣士LV2だったなあ。剣士としてある程度の才覚も持つ魔法使いとは凄い」
確かに凄い。魔法使いのLVだけ見ても何処かの貴族に仕えていい程のものだがそこに剣士のLVまで加算される。性格に難はあるが、本当に栄えある魔法剣士になれるかもしれない。
「いくら凄くても、俺たちと合わないようなら断るさ」
リーダーの男は肩竦めてそう言った。