86:爪と牙と角は別にとってある
「あの冒険者なんだ?あんな奴街に居たか」
「しらね」
「ティユレイ種を倒したって?嘘だろ?」
「あのなり見たか?駆け出しじゃねえか」
「盗んだんだろ?」
ギルド内の冒険者たちは口々に文句や罵声を漏らしカークを睨むがカーク自身はどこ吹く風である。
――盗んでもないのに、不正をしていないのに、疑われて身を竦ませる方が怪しい
それを前世でよく学んでいたのだ。堂々たる態度で金貨10枚の塔、5個を眺めて受け取り、カークは微笑んだ。
「ありがとうございました」
「こ、こ、こちらこそ!きちょっきちょーーな実験材料をありがとうごじゃいます!」
実験材料なんだ。
何に使うのか疑問に思いながらカークは愛想笑いを崩さずにギルドから立ち去った。
「金貨50枚か。やばいな」
「カークの実力であれば当然の評価かと思いますが」
ルリのヨイショにカークは微笑ましく思い、その肩を軽く叩いた。
「“水獄の君”のおかげだよ」
「なに?」
反応したのはシンジュだった。彼女は片眉を跳ね上げさせてこちらを見上げた。
「“水獄の君”の関係者のなのか」
「あ、ああ。ルリは彼が俺にとつけてくれた従者だし、度々夢に出てくる」
シンジュは顔を歪めて何か考えた後に合点がいったように頷く。
「貴公、泥の神性か」
「知ってるんだ?」
「御方から授かった知識にあるというだけだがな。であれば、御方が夢に出るというのは成程、可能だ」
青白い顔を見下ろして、カークは顔を顰めた。あまりいい話題では無いからだ。
連中が夢に出てくるとろくなことがないのだ。
「ではあの時、祭壇の前で“塊屍候”に謁見できたのは貴公が泥の神性を持つからだったか」
「だと思うよ」
「そうか」
それきり、シンジュはこの話題に触れることは無かった。興味がなくなったのか、あまりいい話題ではなかったのか。
街の様子を窺いながら待ち合わせ場所に向かう。今日泊まる宿屋の一階の酒場だ。
冒険者ギルドからはさほど離れていないそこに着くとカークは席に座る。
何か腹に入れたいところだが、ゼト達がいつ戻ってくるか分からない。待つべきがどうか。
カークは悩んで、不意に響いたオニキスの自己主張に苦笑した。
彼は恥ずかしそうに顔を伏せて消え入るような声で謝罪する。
「す、すみません」
「いいんだ。俺も腹が減ってるし。みんなは?」
「私もです」
「私もだ」
「じゃあ、ご飯にしようか」
ウェイトレスを呼んで注文をして10分と少し程で料理は運ばれてきた。
「お腹一杯食べろよ」
肉たっぷりの――いや、肉が山積みの皿をキラキラとした目で見つめるオニキスにそう言った。
食事が終わって10数分で彼ら、ゼト達は戻って来た。
ちょっと疲れたような顔でノアは席につき、ゼトはカークの近くに座って質問を投げかける。
「鱗は冒険者ギルドではいくらでしたか?」
「金貨50枚でした。一番状態の良いものでしたから」
ゼトは微笑み、レラを振り返る。
「なら一枚につき金貨70枚ですかね」
レラは何か文句を言いたそうにしたが結局は首を振った。
「・・・・・・まあ、今回の褒賞としては妥当だろうが、状態がそれと同等であれば70枚。劣れば60枚。それ未満は50から40だな」
「残りの34枚はその方向で良いですか?」
カークとしては金があれば何の不満もない。かなりの高額査定に笑って答える。
これで上等なテントも買えるし、ルリとオニキス、シンジュの防具や武器も買えるし、魔法道具も買って安全な旅も実現できる。そう思うと興奮で顔が紅潮した。
「勿論です、ありがとうございます」
感謝の言葉を述べるとゼトは恐縮したように頭を下げた。
「感謝するのは此方の方です。花竜帝国の無辜の民を救っていただき、誠にありがとうございます、カークさん」
そんなことはない、自分は無力だと言いかけて、カークは口を噤んだ。
カークの力は結局、貰いものにすぎず、持て余し気味で身の丈に合っていないものだとよく分かっていたが、その“貰い物”でヒトが救われたのは確かなのだ。
レラの目の前でそんな発言をすれば、当然この先困ったことになる。
そして、と仲間をみる。
チームを守れたのもまたその“貰い物”のおかげだ。ならば、堂々と胸を張るほかない。
恥知らずと誹られ様とも、力が無くては生き残れないのだから。
「冒険者であれば当然の事ですよ、ゼトさん」
カークの微笑みは欲深くも、なるほど、善良なものだっただろう。
ノアもレラも特に何を言うでもなくウェイトレスを呼びつけた。




