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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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77:村を守るには3


巨大な竜は空を飛び、身体を空中で一回転させたようだ。

カークはそれを見てから、必死に走る。

レラの姿がどこにもない。

倒壊した家屋を抜けて全速力で走ると地面には血まみれのレラが横たわっていた。

彼に声を掛ける間もなく、竜の豪速のしっぽが迫る。

カークは悲鳴交じりに叫んだ。


「【時虹公のこぶし】!」


言葉は力になり不可視の攻撃が今にも尻尾をレラへと叩きつけんとする竜へ襲いかかる。


「ぐぎゃああ!」


思いもよらない攻撃に違いなかった。

竜は悲鳴を上げ、口から血を吹きだして地面へと墜落する。

その間にレラに駆け寄った。


「レラ!」


レラは血だらけの顔で此方を見上げると顔を歪めた。


「――――」


何か呟いたようだったがカークには聞き取れなかった。失った魔量(MP)を回復するためポーチから取り出した袋から薬を取り出しそれを口に放り込む。

兎に角、直ぐに治療が必要だ。ルリは別の方向に行ってしまったし、カークには癒しの魔法は使えない。

方法を探しあぐねていると竜が起き上がり、カークを睨む。

凄まじい威圧だ。蛇に睨まれた蛙と言うのはきっとこんな気持ちに違いない。


「人間如きがぁ!」


血を吐き散らし、牙を剥き出しにして怒り狂う姿にたたらを踏むが、今退けばレラは確実に死ぬ。

カークは唾を飲み込み、決然と正面から竜を見据えた。


「【時虹公のこぶし】」

「ぐぎぎゃああああああ!!!」


さらに追い打ちをかけると痛みにのたうちまわる竜を見ても油断はしない。

更に薬を口に放り込み、噛み砕く。

殺さなければ、殺される。至極当然のことだ。

鱗が剥がれ、腕がおかしな方向に曲がり、羽根もボロボロになった状態の竜はがちがちと牙を鳴らしてカークを睨んだ。


「ころ、ころして、やる」

「――泣いて懇願しろ」


頭のどこかで白く穢れた虹色が見える。

カークの言葉とは思えない。だが口から勝手に声が出たのだ。

自分でも驚いたが、嘲笑交じりの声は続ける。


「詫びて頭を垂れろ。命を助けてやってもいい」


酷く劣った生き物を相手にするように傲然と言い放つ。カークはどうして自分がこんな事を言っているのか分からないまま首を振った。


「いや、なに、なんだ?」

「ふざけるな!人間風情がっ!」


怒り狂った竜が鱗をばらばらと散らしながら突進してくるのを冷たく見ていた。


――劣った生き物だ


嘲笑し、侮蔑し、それでも哀れで矮小な生き物を慈しんだ。カークの微笑みは誰にも見えていないだろう。

いや、これはカークではないのかもしれない。どこまでがカークだ?

不意に浮かんだ考えにカークは背筋が凍り、けれども、冷たく言葉を力にした。


「【時虹公のこぶし】」


冷え冷えとした言葉は不可視の攻撃として竜を襲う。

竜はもんどりうってその巨体で畑を荒らし、それから一切動かなくなった。

確認するべきだろう。カークは竜に近づきその頭を覗き込んだ。

虚ろな目と開いた口。そこから零れるおびただしい量の血はこの竜が間違いなく絶命したと伝えてくれた。

カークは安堵してレラの元に急ぐ。


「直ぐにルリを連れてきます。ちょっと待っててください」


レラは顔を顰めた。それだけで、重症に見える彼にも意外と余裕がある事を伝えてくれるのでちょっと安心して踵を返した。

ルリを見つけるのは意外と簡単だった。彼女はグールたちと一緒に竜の下僕狩りをしていたはずだが、里山の方から戻ってくる最中だったのだ。


「ルリ!」

「カーク?どうでしたか」


ルリの姿を認めてカークは息を切らしながら手招きする。


「レラが危ない状態なんだ。手を貸して欲しい」

「分かりました」


ルリと走り――ルリの足はカークよりも速い――レラの所に戻るとルリは一も二もなく魔法を発動させ、水の玉をレラに放り投げた。

みるみるうちにレラの呼吸が真面になり、おれた手足が正常に戻る。流れた血はそのままだが、魔法は偉大なもので、貧血など起こらない。

口元の血を拭いながらレラは立ち上がり、ルリに礼を言った。


「ありがとう」

「いえ。お気になさらず」


ルリの冷淡な言葉にレラは大して気にした様子はなかったがカークに向き直ると頭を下げる。

突然の事で驚き、後ずさるとレラは頭を下げたままで言う。


「助かった。ありがとう、カーク」

「いえ、あの、お気になさらず」


そうカークが言うとレラは頭を上げて憮然とした表情を見せた。


「気にするさ。命の恩人だ」

「依頼の通りに動いただけです。冒険者として当然ですよ」


カークの言葉にレラは納得したような顔を見せて、肩を竦める。


「そうか」

「ゼトさんの所に戻りましょうか」

「ああ」


そう言って3人は村の広場に向かって歩いた。





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