75:村を守るには
「貴方方の神は分かりましたが戦場、ですか?」
ゼトは困惑して少女に聞く。
この村に特別なものなど無い。里山があり旅人が訪れることもないような平凡な村である。
魔物がわざわざ襲いに来ることもないだろうと言えるほど、周りには何もない。
あり得るとすれば、野盗が娯楽に燃やす程度だろうか。
グールの少女は青白く血色の悪い顔を仏頂面にしたままで答える。
「そうだ。今日中にこの村には殺戮の嵐が吹き荒れると神が告げられた」
「具体的な事は」
少女は頭を傾け、ゼトを見上げる。
「聞いてどうする?」
ゼトは一瞬レラを見たが息を呑み、少女に告げる。
「・・・・・・村を守らなければ、結局のところ村人は死に絶えます」
「ああ。だろうな」
ゼトの言葉に少女は頷き、青白い顔に少しの憐憫を見せる。
「だから我々はこの村で迎え撃つ。連中がここで好き放題することは神の名にかけて許さん」
「何故村人は死に絶えると?村からは追いだしたのでしょう?」
突然のルリの言葉にカークは振り返り、小声で教える。
「村の生活が無ければ村人は生き残れない。これは財産がその村の土地や食料、畜産だからだ。それを失えば、財産の無い村人はどれほど大きな街に行こうとも、学もない彼らは何も出来ずに飢えて死ぬ」
彼らが生き残る方法は、村を無事な形で残す事だけ。
「勿論、冒険者になる方法もあるだろうけど簡単な事じゃない。実力がなければ死ぬ」
冷酷なようだが、これは事実だ。実際、カークは実力不足で野盗に殺された。
ルリは納得したのかしていないのか分からない顔で頷いた。
そうして少女はカークを見上げて小さく笑う。
「分かっているようで何より。具体的な事と言う話だが、竜が襲いに来るとしか知らん」
「はい?何故、竜が」
ゼトの戸惑う声にノアとレラのうめき声が重なる。
そちらを見るとふたりは顔を真っ青にして家から飛び出した。
カークが追うかどうか悩むうちにゼトは顔から色を無くして、声を絞り出す。
「そんな馬鹿な。この村に何が?」
「私も詳しくは知らん。連中の気紛れだろう」
竜は傲慢で他者を顧みない。
暇つぶしに他種族でも同種族でも蹂躙するのを愉しむ冷酷さというか残忍さを持つ個体もいる。
「生半可な戦いではない。出てくる竜の種を聞いたが、とても我々では勝てない。それでもやるしかない」
決然とした目を向けられゼトは僅かに怯んだ。
グールだと侮っていた。化け物だと蔑んでしたかもしれない。
それでも彼女らは、同じ神を戴く信者のため、勝ち目の薄い戦いに挑むという。
ゼトは唇を噛んで、それから、口を開いた。
「・・・・・・我々も戦います」
ぎょっとしてゼトを見るが彼の意思は変わらないようだった。
「相手も分からないのに危険すぎる!」
カークの言葉にゼトは振り返り、そして、グールの少女が口を開く。
「竜の種族くらいなら分かる。磁竜フェグガヌのティユレイ種」
そんな事を聞いてもカークにはピンとこなかったがゼトは顔を顰めた。
「一応聞きますが、勝てますか」
「勝てるわけがない。古竜の中でも苛烈な磁竜フェグガヌの一種だ。はっきりいって想像を絶するほど強い」
少女は青い顔を白くしてそう答えるがそこに恐怖と言うものはなかった。
覚悟を決めているのだろう。そうだ、この村にいる15人のグールたちは既に覚悟を決めて、いるのだろう。
ゼトは迷いを見せた。
それは、此処で危険を冒すべきではないと考えている顔にも見えるし、恐怖を押し殺すようにも見えた。
だから、カークは口を開く。
「隠れていてください、ゼトさん」
「え?」
「俺が戦います。どこまでやれるかは分かりませんが、俺は泥です。死んでも蘇る。でも、貴方は違います。だから、ルリとオニキスと一緒に隠れていてください」
言葉は部屋に刺さり、酷く冷えた空気を呼び込んだ。
あまりにも急激な変化に息を呑み一歩下がるとカークはこの家から飛び出そうかと考えた。
「この私に隠れよと仰る」
鋭利で冷たい言葉は凍った花のようで酷く、寒々しい。
「この国の民を救うための戦いで私には隠れて過ごせと!」
怒り狂う声にカークはもう一歩下がり、口をぱくつかせた。
言葉が出てこない程の威圧感だった。王者の風格を感じさせるような覇気のある言葉がカークを襲い、冷や汗が垂れる。
唇を戦慄かせてどうにか取り繕おうとしている内にノアが戻ってきて、叫ぶ。
「おい!手を貸せ、泥!」
「ギャアァアアアアア!!!」
巨大な生物の叫び声が聞こえると同時にびりびりと大気が揺れ家が振動した。




