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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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73:普通の村


宿場街からグールに襲撃された村までは4時間ほど。着くのは昼頃になるだろう。

カークはグールの特性を考えてまた首を傾げるしかなかった。

あれから話を聞いたが、村人の数は140人ほど。対して襲ったグールの数は13匹くらいと言うあまりにも少ない数で襲撃したことになる。

グールと言うのは慎重で警戒心も強い。10倍近い数の相手に襲いかかるなど普通ではないのだ。

相当飢えていたのかもしれないが、それなら夜まで待って襲撃すればよかったのに、連中は村人の畑仕事の終わる夕方前に襲撃した。

だからこそ生き残りが多数いるのだが、あまりにも粗雑な作戦にカークは違和感を覚えた。


(追い散らすのが目的ならば、効果的だ。実際、村に残っている村人は皆死んだだろう)


ただの村人にとってグールは脅威だ。基本的に太刀打ちできない。

冷徹にそう考えつつ、そうなると、何故、追い散らす必要性があったのかと言う話になってくる。


「邪魔になるから?違うか?」


うんうんと唸っても結局は答えなどでやしない。どれも妄想での話に過ぎないのだから。


「カーク?」

「気にしないでくれ、ルリ。グールについて考えていたんだ」

「グールですか」

「この件おかしなところが多くて」


この言葉に反応したのはオニキスだった。


「グールは賢いですから、同数以上の相手と戦うのは稀なんですよね?」

「そう。なのに、どうして10倍も差のある相手と戦おうとしたんだろうと思ってな」


カークの疑問は背後からのレラの冷たい声で打ち切られる。


「それ以上、此処で考察しても仕方ない。集中しろ」

「はい、すみません」


レラの言う通りだ。素直に謝罪してカークは前をむいた。

それからずっと歩き通しで、やっと村が見えてきて、カークいや皆が首を傾げたのだ。


「火の手が上がっていない」


ノアの言葉にカークが頷き、ゼトが首を傾げた。

グールに限らずアンデッドは火が弱点だ。火を避けもするだろうが、火の手のひとつも上がらないのと言うのは、いささか不自然だった。

鎮火したとも違うのは、周囲に独特の臭気が立ち込めておらず、黒ずんではいなかった。


「やはり、引き返そう」


レラは堪らずそう言うがゼトはひとつ振り返っただけで村を見つめる。


「助けを待っている方がいるかもしれません」


レラは隠そうともせずに盛大なため息を吐き、カークはちょっとだけ同情した。

が、別に言うことは無い。3人の関係性など知らないし、首を突っ込むのは飛び火しかねない。

ゼトはノアに目配せをして、それからノアが頷くと歩みを再開した。

村に入るが誰もいない。そう、誰もいないのだ。

襲ったはずのグールも残っているはずの村人もいない。

家屋に争った形跡はあるが荒らされた形跡がない。血の匂いもしなかった。おかしなことだらけだ。

がらんどうの村の中でカークは周囲を見渡す。

小さな村だ。少し栄えている、小さな村。土壁にも屋根にも特別なところはない。

特別裕福でもなければ、重税を課されたり野盗に襲われて生活がままならないということもなさそうな平凡で幸せで閉塞感のある村。

なのに、いるのは6人だけ。物音は6人が発したもの以外にはなかった。


「どういうことだ」


レラは声を殺して小さくノアに問う。

ノアは身をかがめて足跡や敵の痕跡を探し始めた。


「ちょっと待て」


身をかがめたままで前進し、家屋の角を曲がって戻る。壁を見上げて、それからくるりと対面の離れた家屋に歩を進めて、ノアは口を開いた。


「・・・・・・15匹。村人が履くような物とは違う、上等な靴を履いている。小さい物があるな。10歳程の子どもが2人いる。あとは大人だ。体重は皆、軽いが、これはグールの特性のひとつだからあてに出来んな。足を引きずっている者がいる。グールは再生能力を持たないんだったか?」


突然見上げられてカークは勢い込んで答える。


「ああ。本を読んだ限り、そんな話はない」

「血の痕もないし怪我をしてここに来たんじゃない。もともと足が悪い個体が居た。そいつは15匹の中でも上位だ。皆敬っている。壁の爪の痕は脅迫に使ったようだな。殺意はなかった。追い立てて村から村人を追い出した。何故だ?」


ノアはレラを振り返り、レラは顎に手を当てて考えた。

食事目的で来たのでなければ、どうしてここに来たのか。村人を追い立てたのはなぜか?

疑問が浮かんでもヒントはない。答えが分からずにレラは首を振る。


「罠の可能性以外では思いつかないな」

「レラ、日数が合いませんよ。我々が出てからすぐ行動したとしても、無理です」

「可能なら?」

「憶測にすぎません」

「いいようにいいように考えてないか、ゼト。こうだったらいいと考えてはいないか」

レラの物言いにゼトはちょっと怒った様に眉を顰めて頭を振る。

「レラ、警戒しすぎです。そもそも、連中は花竜帝国まで追ってはこないでしょうし、竜たちが動くにもまだ時間があります」


レラが何か言い募る前にカークの背後から声がかけられる。


「なんでここにいるの?村から出て行ってよ」


一斉に振り返るとそこには10歳ほどの身なりの良い子どもがこちらを見上げていた。






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