71:ゴブリンもぴんきり
見晴らしのいい草原に出現するのは臆病な動物か戦闘意欲の高い種族か、もしくは。
このゴブリンはと言うと、カークは剣を振るいながら考える。
ゴブリンは、基本的には知性の無い生き物だ。もちろん例外はある。
例外の存在はヒトから知恵や道具を物々交換していき、旅を繰り返すことが多い。カークの村にも何匹か来たことがある。
ただし、こいつらは違う。草原と言う見晴らしのいい場所で襲撃するなど愚の骨頂だし、力量差はいっそ連中が哀れにもなるほどだ。
また落ちるゴブリンの首を気にせずに次に切りかかる。
問題は数が異様に多い事か。
十数匹ものゴブリンが前方から襲って来てノアは森で見せたような一閃で数匹を撃破。
残りの打ち漏らしをカーク達が討伐した。
終わってみるとゼトとレラは周囲を見回していた。何か警戒するようなことがあっただろうか。いや、これが陽動で、別の連中が来ないとも限らないか。
カークはその考えに至って周囲を見渡したが、何も得ることは無かった。
とにかく街道沿いに死体を寄せてから損傷を調べる。
「誰か、怪我は?」
問うと皆一様に首を振る。
「何か別の連中がいるとかでも、なさそうですね」
カークがそう言うとノアが肩を竦めた。
「ゴブリンにそんな知能があるとは思えないな」
「俺の村には賢いゴブリンが来たこともありますよ」
歩き始めてカークがそう呟くとノアは興味深そうに振り返った。
「へえ、ホブ・ゴブリンか?」
「さあ?当時は見た目がゴブリンだって事くらいしか分からなかったから、特に気にしなかった」
「ふーん」
ノアの何とも言えな返答に苦笑を返すとゼトが話す。
「賢いゴブリンは危険でしょう?そのゴブリンは討伐したんですか?」
「まさか。彼は良いゴブリンでした。森の奥でしか取れないような薬草や獣の皮、樹皮に木の実を分けてくれて、その代わりに村のドルイドからいろいろ教わったようです。取引相手ですよ」
思い出せば子どものカークはそのゴブリンを見て恐怖半分興味半分だった。
言葉の通じるゴブリンなんて初めてだったし、それも、今まで見てきたゴブリンよりもずっと賢いゴブリンだったのだから、興味津々だ。
「彼は、笑った顔が怖いけどいい人でしたよ。村に数日滞在して、それからまた旅に。何か探していたようで」
話した時のあの顔は忘れられない。牙を見せつけるような不器用で精いっぱい笑顔は彼のできる限りの友好的な手段だったのだろう。
「そう、そうだ。グールの王を探してるって言ってたかな?」
朧げにそれだけを思い出す。首をひねりながらもカークはどうだったか正しかったか考えるが。やはりそう言っていた。
「生者のゴブリンがアンデッドのグールの王を探していたんですか?変な話ですね」
グールはアンデッドだ。死肉を貪る悍ましき怪物。
死肉であればゴブリンでも関係なく食べるだろう。そして連中は、食べる死肉を作るのに狩りも厭わない。
「ただ、その、グールに王がいるとは思えませんね」
ゼトの最もな言葉にカークも頷いた。
グールと一口に言っても様々だ。アンデッドではあるが、ヒトは食わないものもいるしヒトしか食わないものもいる。竜に忠誠を誓う者もいれば、他の種族を拒絶する者もいる。
“グールの王”というのは存在しえない。それは“ヒトの王”を探すのと同じで徒労に終わるだろう。
何処かのグールの国の王であれば話は分かる。確かに会えるだろう。
しかしながら、彼ははっきりと、言ったのだ。
――会わねばならない御方がいる。グールの王。納骨堂の神。墓所の主。あの御方に慈悲を乞わねば
それ程畏怖する存在に彼は果たして会えたのだろうか?
カークは曖昧な表情をして青空を見上げた。
宿場街は思ったより賑わっていた。
夕方ごろに魔法の明かりが灯り、主要な道は明るく照らされていき家からも明かりが零れている。
ロージニアに行くにもトヴェンセに行くにもこの街を通らなくてはならない関係上、この宿場街は必然的に栄えているのだろう。
ノアは街の外壁にいる兵士に声を掛けて一分足らずで後ろのカーク達を呼び寄せた。
「中に入っていいぞ。宿はこっちで決めてあるから」
言われるがままについて行くと通されたのは普通の宿屋だった。
いや、この世界の基準で言えば優れた宿屋だ。ただ、明らかに貴族としか思えないノア達が宿泊するには違和感のある宿でもあったが、カークはそれを飲みこんだ。
文句を言っても仕方がない。
「宿代はこっちで支払うから。明日の朝までゆっくり休め。はい、解散!」
と言われて三人部屋のカギを手渡される。とりあえず、部屋を見に行こうとルリとオニキスと一緒に3階まで上がり、部屋を確認する。
入った部屋は清潔だった。埃っぽくなく、土の匂いもしない。内装は落ち着いており、なんと、そう、なんということか!ベッドが置いてある!
「マットレスだ!!」
カークは思わずベッドに駆け寄りそこに座る。心地よい反発。地面では味わえないこの柔らかな心地は良い夢を見させてくれるだろう。
心地よい空間にカークがひとりうっとりとしているとルリが何処か冷めた声で問う。
「食事はどうしますか」
「あ、ごめん。食べようか」
一瞬で我に返り照れながら宿屋の1階に行く。大抵の宿屋は酒場が併設されているというか、酒場の上に宿屋が出来るものだからだ。
何かここ特有の良いものを食べたいなあと思いながら席に着いた。




