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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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69:街道を歩く


街道に沿って森を歩き、早四時間。

カークは意外にも自分が疲れていない事に驚きつつも背後を振り返る。

ルリもオニキスも汗ひとつかいていない。

ここまでは順当な旅の出だしと言えたが、やはり厄介事は飛び込んでくる。

黒い装束に身を包んだ、ハイ・コボルト。

連中は手に手に剣を持ち、8匹で飛び出し一斉に襲い掛かって来た。

とは言え、ほとんどがノアの速度の元で一刀両断。敵にすらならなかった。

2匹を4人で倒してそれから剣から血を払い、鞘に戻す時にルリが不意に口を開く。


「剣を変えたんですか?」

「うん。カノカノスで竜を撃退して、その鱗でヴェノテシア様が剣を作ってくれたんだ」


それを聞き咎めたのはレラだ。


「竜を撃退したのは本当か」

「うん?だからこの依頼が来たんだろ?」


カークの疑問にレラは嫌な顔をしてそっぽを向く。つまり、カークの実力を疑っているレラはあまりこの依頼には乗り気じゃないと言う事か。

対して、ノアは気にした風もない。


「ヴェノテシア様が作ってくれたなら相当な業物に仕上がっただろ?見せろ」

「はい」


興味津々と目を輝かせて手を差し出すノアに鞘ごと差し出すと、彼は剣を抜き、白く燐光を放つ刀身をまじまじと見つめる。


「何の魔法だ?重いから軽量じゃないな頑強か、鋭利。属性付与は違うな」


ぶつぶつと何か言いながら剣を具に見つめ、それから何かを見つけて苦笑した。


「あー・・・・・・俺が見ていい物じゃないな。おら、返す」

「え!?なに、何があったんですか!?気になるんですけど!」

「気にすんな、その内分かるさ」


そうは言われても気になるものは気になる。

ノアの真似をして剣を見ても何もわからない。綺麗で切れ味のいい剣と言うだけだ。

いや、言われてみれば樋に金の線が見えなくもないか。

目を凝らしていると苦笑したゼトの声がかかった。


「すみません、先に進みませんか」

「あ、こちらこそ、すみません」


剣を腰に戻し、ハイ・コボルトの死体を街道の隅に寄せて先に進む。

森はいつまでも続くかのように思えたが、少し小高い所を通る時にこの森があと少しで終わる事に気づいた。


「森の切れ目辺りが国境だ。正確には緩衝地帯だな」


ノアの言葉に広がる緑を何処か眩しく見つめた。

国を離れるだなんて考えたこともなかった。イナンナが聞いたらどう思うだろうか。

昨晩、陽王国をしばらく離れると説明しようとしたが、彼女は疲れているのか直ぐに寝てしまって何も言うことが出来なかった。


(後で怒るだろうか)


それは考えても仕方がない。お互いチームが違うのだから。

数時間で、あっさりと国境を越え花竜帝国側の緩衝地帯の草原まで到達する。

振り返れば少し高い森山と線のように続く街道が見えた。どこにもロージニアは見えない。

早くも寂しさを感じ、苦笑して先に進む。

30日も歩かなくてはならないのだ。寂しがるのは後の方が良い。

街道と言っても人とすれ違うのは稀だ。実際、獣や魔獣なんかが飛び出すことはあっても言葉の通じる相手はそうそう通りかからない。


「街道と言うともっと賑やかなのを想像していました」


カークが正直に打ち明けると、きょとんとした顔でゼトが振り返る。


「ロージニアとヴェンセ間は賑やかな方ですよ。宿場町はひとつありますし、一日に数度はひととすれ違いますから」

「え?ああ、そうなんですか」


不思議な質問に思われただろうか。だが、カークにとっては不思議に思われることの方が不思議である。

商人の荷馬車が行きかい人の往来が盛んで、物流も流れているのを想像していた。

考えても見れば前世の世界では整備された道路があったし車や列車と言う交通機関が発達していた。それに伴い人口も爆発的に増え、往来も盛んだったのか。


「ああ、そうか。空間魔法か」


思わずつぶやく。

空間魔法と言うものがあれば何十台もの荷馬車を引く必要がないし、そこに掛かるリスクや経費を削減できる。

空間魔法のポーチをもつ数人の安全さえ守れれば高価な荷馬車を守る必要も荷馬車を引く馬を守る必要もない。

必然的に通る人数は少なくなるわけだ。


「空間魔法の収納って最大でどこまでできるんですか?」


誰にともなく聞くと答えてくれたのはゼトだった。

彼は顎に手を当てて、歩きながら答える。


「私が知る限りでは32000kgです。先々帝が先方に無理に作って頂いたので、花竜帝国ではひとつしかありません」


32tとはこれまたでかい。

唐突に背後からレラが焦った悲鳴にも似た声を上げる。


「ゼト!それはっ!」

「え、あ、すみません!勘違いでした、忘れてください皆さん!」


慌てて発言を訂正するゼトに首を傾げながらカークは何処か安堵した。

32tもの荷物もひとりで運べるとしたら軍事転用など容易だろうし、商人たちがこぞって奪い合うだろう。そんな桁違いな存在はない方が良い。


「本当は3000kgですよ。そんな大きなバッグがあったら困りますものね」

ゼトの窺うような声にカークは笑って返した。

「確かに、悪い人の手にはわたって欲しくはないですね」


その言葉を聞いてゼトもまた安堵したように胸をなでおろした。




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