56:ご飯美味しかった
「竜の鱗の加工ってそんな簡単なのか?」
カークの質問にルレアは微妙な顔で答えた。
侯爵は「ゆっくりしていてくれ」と言い残して部屋から出て行ったし気兼ねせずカークは食事に戻った。
「場所と専門の知識や経験、それから加工の専門技能が必要ね」
「・・・・・・ヴェノ様はそれを持ってるって事か?いや、城下に職人が?」
「ヴェノ様がその技能をお持ちよ。竜狩りの専門家でもあるし」
地位のある人物だと思っていたが、まさかそれ程すさまじい人物だとは思わず、カークは目を泳がせた。
「手ずから作って下さる・・・・・・って俺、大丈夫かな?」
「ヴェノ様が作ると仰ったのだから作れるし、気にしない方が良いと思うわ。謙虚が過ぎると嫌味になるし」
確かにとカークは頷き、満腹になったのでパンの入った籠をテーブルの隅に追いやる。
「ヴェノ様って何者なんだ?侯爵閣下とも仲がよさそうだったし」
「それは、私の口からは言えない。ヴェノ様は立場のある方だもの」
「ふーん」
まあ、色々大変で下手に情報が流れると面倒だということかもしれない。
カークはソファから立つと窓の外を眺めた。
明るい陽射し、外円の高い城壁の向こう側は見えないが何処か活気があるように感じる。
「・・・・・・覗いてこようかな」
「動ける?」
「うん。これで戦闘は無理だけど、歩く分には問題ないよ」
それを聞いたルレアはひとつ笑って、頷いた。
「貴方の服の準備をしてくるわ」
「は?いや、俺はこのままで」
「あら、そう?じゃあ、いいわ・・・・・・行きましょうか」
「一緒に行くのか?城から出て大丈夫か?」
相手は侯爵令嬢だ。慎重にそう聞くも彼女は一切気にした風もなく微笑む。
「問題ないわ。行きましょう」
ショズヘネラは瓦礫を荷車に乗せ、瓦礫がどかされた道を歩き、瓦礫を一か所に集めていた。
この瓦礫は使えそうにないものだ。再利用が出来ない瓦礫は魔法使いが砕いて土にしてしまうという。
ヒトは色々な魔法が使えるのだなと感心しながら瓦礫をせっせと運び続けている。
竜である自分はヒトよりも多く働けるし、力も強い。
彼らは直ぐにショズヘネラを頼るようになり、それでも頼りきりになることは無い。
修繕の魔法が使えるものは家具などを修繕して回り、より魔力のあるものは道を舗装して回った。
瓦礫がどかされたあちこちで新しく家が建ち始め、人々の顔にもいくらかの笑顔が戻りつつある。
「・・・・・・逞しいな」
荷車を傾け瓦礫を落すとそうひとりごちる。
「俯いてばかりじゃいられませんからね」
それを聞いていた一人の男がそう答えた。
男は、警備隊長だった。何処か警戒しながらもショズヘネラの独り言に反応したのだ。
ショズヘネラは男を見て、それから目を逸らした。
「・・・・・・」
咎めるような、男の目が恐ろしかった。
罵声を浴びせられても、それは仕方のない事だ。けど、酷く恐ろしかったのだ。
「・・・・・・誰でも、やり直せます。その気持ちがあるなら、やり直せるんです」
男の静かな声にショズヘネラはぽつりと涙をひとつ零す。
自分でも、何故、涙が零れたかは分からない。
「私は貴女がどこの誰かは知りませんし、詮索もしません。けど、覚えておいてください。大切なのは過去を悔いるなら現在を大切に生きる事です」
男はそう言って、去って行った。
何を言われたのだろか。それは彼の悔いのひとつかもしれない。
ショズヘネラは涙を拭い、深呼吸をして荷車を再び押した。
「ショズヘネラもニティスクアナもしっかり頑張ってるなあ」
彼女たちはひときわ目立つ外見をしているために遠目からでも分かる。
城門から出て瓦礫が撤去されつつある場所を歩き、カークは呟く。
それに引き換え、カークは寝込んで食事をただ貪るクズのような生活をしていた。心が折れそうだ。
突然がっくりと肩を落としたカークに何かを察したルレアは慌てて畑の方を見せる。
「ほ、ほら、魔獣が畑を耕してるわ!」
「・・・・・・カノカノスは魔獣を飼っているのか?凄いな」
「いえ。飼ってません」
「んん?じゃあ、あれは?」
「さあ?」
ええ?ルレアも知らないのか。なんだか不安だなあ。と思いながら歩いているとこちらに気づいたニティスクアナが上品に微笑み頭を下げた。
話していた男が驚いてこちらも丁寧に頭を下げた。
「レウェク。あの魔獣は?」
「こちらのニティスクアナさんが使役している魔獣です」
「ああ、なるほど」
ニティスクアナの魔獣であれば納得だ。
馬のような魔獣と牛のような魔獣がそれぞれ数頭、農具を引いて畑を耕している。
「力も強いですし、簡単には疲労しません。ある程度であれば、民を守る事も可能です」
「理想的だ。ありがとう、ニティスクアナ」
思わず頷き礼を告げると恐縮したようにニティスクアナは頭を下げた。
「勿体無いお言葉です」
「ああ、いや、そんなつもりで言ったわけじゃ・・・・・・ショズヘネラは?」
その名前が出ると彼女は一瞬困ったような顔を見せる。
何かあっただろうか。
「彼女は・・・・・・少し、思いつめている様子です。殆どの被害は私の責。なのに異様に気にしていて・・・・・・」
ニティスクアナの言葉にレウェクが反応し何かいいそうだったがルレアがそれを制した。
「彼女たちについては何も言いません。貴方も何も言わないように」
「は・・・・・・畏まりました」
そのやり取りを見て、カークは、息を吐く。
これは、カークの責でもある。
「ちょっと会って来るよ。ニティスクアナもあまり根を詰め過ぎない様に。無理をしても良いことは無い」
「はい。お言葉をしかと、胸に刻んでおきます」
「じゃあ、2人とも」
手を振りルレアとカークが去る背中を少し眩しそうに眺めて、ニティスクアナは微笑んだ。
「続きをお願いします。レウェクさん」
「あ、はい」




