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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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54:贖罪にはたりないが


街の状況は昨日よりも良いと感じた。

だが、それはニティスクアナの主観であり、道行く人の表情が幾分か良いという程度の事だった。

街の大通りをルレアの背を追いかけるようにして走り、東門まで抜ける。

城門を超えると、そこは凄惨な殺戮の後だった。


「・・・・・・っ」


倒壊した家の前で泣き喚く者もいれば、項垂れる者もいる。

狼狽えるニティスクアナとショズヘネラを置いてルレアは周囲を見渡した。

一人の人物を見つけ出すとルレアは足を速める。


「レウェク」


レウェクと呼ばれた男性は振り返り、ルレアの姿を認めると頭を下げた。


「ルレアお嬢様。かようなところに・・・・・・ようやく内政にご興味を?」

「違います。この2人を頼みたいのです」

「・・・・・・昨晩現れた2人ですか。詳細をお聞きしても?」


レウェクの言葉にルレアは首を振る。


「断ります。黙って彼女たちを働かせてください」

「何とも傍若無人な御振舞で・・・・・・まあ、良いでしょう」


レウェクは何処か冷たく微笑むとニティスクアナとショズヘネラに向き直る。


書持騎官(オレリアーセ)のレウェク・ノリリ・ポグジャフです」

「ニティスクアナと申します」

「ショズヘネラだ」


足元から頭のてっぺんまでレウェクは見てから頷いて、傍らに立っていた男に言う。


「彼女たちの案内をしてきますので、此処は任せました」

「はい!」




倒壊した家屋を撤去するにも人手がいる。その中で彼女たちは非常に役に立った。

崩れた屋根を掘り起こし難なく柱を押しのけ、中にヒトがいるか確認する。


「誰かいるか!?」


ショズヘネラの声には誰も答えなかったように思えたが、微かに誰かの声がする。

小さな怯えた声。

鋭敏な聴覚で位置を正確に当ててそこを掘り起こすといたのは少年だった。

涙を両目いっぱいに溜めてこちらを見上げる姿の哀れな事よ。

だが、ショズヘネラは安堵した。もう虫の様な生き物だとは到底思えなかった事に。

少年は声もなく涙を零し、しゃくりを上げた。


「大丈夫だ。近くに大人たちが沢山いるから。そこにお前の家族もいるかもしれん」

「ひっく」


押し上げていた瓦礫を横に押しのけ少年を抱き上げるとショズヘネラは瓦礫の中を歩く。

少年は陽の光に、新鮮な空気に安堵し、泣き喚いた。

わんわんと大声で泣く少年を腕に抱きながら優しく背を撫でる。


「・・・・・・大丈夫。大丈夫だ。お前は強い」


声を掛けた時少年が、直ぐに声を上げなかったのは魔物や魔獣がこの街を襲ったからだ。

逃げ遅れた少年は息を殺し瓦礫に埋もれ、死を待っていた。

小さな少年に死の恐怖はどれほど重くのしかかっただろうか?

もしかしたら、少年の家族は死んでしまったかもしれない。だから、あそこまで少年は怯えていたのかもしれない。

ショズヘネラは人間の大人に少年を託すと呼ばれるまま次の倒壊した家屋に向かう。


「・・・・・・救うこともできるんだな」


偽善だ。いや、自分の失態を自分で埋めているだけだ。

胸が、苦しかった。幾多ものナイフが胸に突き刺さり八つ裂きにするかのようだった。

喉が詰まり苦しい。涙が無限に溢れでそうだった。それでも、立ち止まる訳にはいかない。

今、ショズヘネラに苦しいという資格はないのだから。




「なるほど、お聞きした限りでは畑を戻したり、開墾や地ならしなどの手伝いは出来ます」

ニティスクアナの言葉にレウェクは眉を顰めた。

「は?そう言う魔法をお持ちで?」

「いえ、魔獣を従わせておりますので、その下僕に働かせます。私は食料問題の解決法を考えようかと」

「魔獣は畑を耕せるのですか」


驚いたようなレウェクの声にニティスクアナは微笑み返す。


「まさか。出来ません」

「・・・・・・」


こいつは何を言っているんだろうかと言う顔を容赦なく見せてくるレウェクに対してニティスクアナは淡々と説明する。


「牛や馬に合わせた農具を扱える魔獣をお貸しできると言う事です。牛や馬よりも体力はありますし力も強い。問題なく畑を耕せるかと」

「ああ、なるほど」

「よろしければ、確認しますか?何匹必要かはそちらで決めてください」

「え?」


ニティスクアナはそう言いながらレウェクから離れ南東の森へと向かう。とはいってもまだまだ遠い。

森を眺めながらニティスクアナは右腕を天にかざし、それから、シャランと金属同士がぶつかるような澄んだ音色が辺りに響いたかと思うと勢いよく何かが走ってきている。

ぎょっとしたレウェクは咄嗟にニティスクアナの細い左腕を掴んで引っ張った。


「逃げましょう!何かが来ます」

「・・・・・・大丈夫です。私の下僕ですから」


美女に愛おし気に優しく微笑まれ、レウェクは顔を真っ赤に染めながら手を離した。

現れたのは角が上に伸びた毛深い立派な体躯の牛と狂暴な目をしたギザギザした歯が見え隠れする立派過ぎる馬だ。


「う、ん・・・・・・」


見るからに狂暴そうな2頭を前に消え入りそうな声にニティスクアナは危険がない事を証明するように2頭に近づいた。


「どちらも気性は穏やかな方です。使えなくなったら潰して食べていただいても構いません」

「え・・・・・・?ええ・・・・・・??」


困惑するレウェクに構わず話続けようとしたが不意にレウェクは手を上げた。


「襲ってきたりはしないんですか?」

「私が指示しない限りは襲いません」

「食べちゃっていいんですか」

「はい。彼らとはそう言う契約をすでに交わしています。その範疇ですので、食べていただいて構いませんが、狩りつくそうとはしないでください。それは契約違反になりますので」


的確な言葉に頷きながらレウェクは考え、考え、考えて、ニティスクアナが撫でる馬を一緒に撫でた。


「・・・・・・では、お言葉に甘えて数頭お借りします」


その言葉にニティスクアナは満足気に微笑んだ。




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