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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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45:竜との対峙


素直に怖かった。

カークは粘つく空気のなかで破壊され燃やされた家屋を通り抜けて彼らの背を追いかける。

魔物の死体もヒトの死体も積みあがるその道はおぞましく、そして、カークの心に傷を残していく。

カークの実力などたかが知れている。彼らを救うことは出来なかった。けど、それでも、黒煙を上げる中でカークは涙ぐんだ。

――命が失われた

何故、魔物たちが堅牢な城壁のある街を襲ったのかは分からない。だが事実として、なにか酷く切羽詰まった顔をしていたようにも思えた連中は逃げまどう住人を殺して回った。

カークが悲しみに呻き声を上げるのと目の前を走っていた2人が立ち止まるのは同時だった。

顔を上げると火の爆ぜる音の響く中でその竜はこちらを見ていた。

3つの月の光を反射し真っ白な輝きを見せる鱗は竜が身じろぐ度にシャリと金属音を漏らし、爛々と輝く緑の瞳は此方を睥睨していた。

カークは人知れず、顔を引き攣らせる。

思っていたよりもずっとでかい。その竜は魔獣ティラノサウルスが可愛らしいトカゲに思えるほどの大きさで、どちらかというと大きな角を生やし鱗を纏ったサーベルタイガーのようだった。


「――――キィイィジャァアアァアア!」


こちらを見た竜は咆哮した。

咆哮は空気を揺らし、音が圧となってカーク達を襲う。

それに加えて上空から呼応するように咆哮が続く。


「グイギイイイ!」


思わず上空を見上げた。ここからでは遠いが、街の上を旋回していた竜がこちらにむって来ている。

この白い竜ですらカークは膝が笑うほど恐ろしいと感じているのに、もう一匹となるとはっきり言って気絶しかねない。

だが、やるしかない。背後には城門の内側にはもっとたくさんのヒトが怯えているのだから。

カークは青ざめながら、ルレアに声を掛けた。


「・・・・・・魔量(MP)を回復するものありますか」

「私は自分の分だけしか・・・・・・ヴェノ様はお持ちですか」


ルレアにそう言われて空を見上げていたヴェノは無言でポーチから小さな袋を取り出し、それをカーク投げてよこした。


「苦いぞ」


ぶっきらぼうにそう言われ、カークは頭を下げる。


「ありがとうございます」


袋を開けて中を見ると、薬のにおいが立ち込め黒い錠剤が詰まっていた。

一粒手に取って口に放り込む。この道中で何度か魔法を使ったからだ。

確かに苦い。苦いというか渋いというか・・・・・・味覚がおかしくなりそうな味がする。

カークが薬の苦さに苦悶の表情を浮かべているととうとう、あの飛竜が降り立ってきた。

到着するのを待っていたわけではなく、単純に攻めあぐねていただけなのだが、飛竜は此方を見て獰猛に笑う。


「ほうほうほう。虫にしては勇猛じゃないか?私とコイツを一緒に相手したいとは」

「・・・・・・レフェニエッテのプクィカ、バユルオイのトゥシジに属する方とお見受けする。ここはお引き取り願えないだろうか」


ヴェノの怒りを抑えた冷たい声に2匹の竜は嗤う。


「虫を潰すのに、混ざりものの貴様の許可がいるのか?分を弁えろ。混血の分際で私に意見をするなど恥を知れっ!」


怒りよりも嘲る色の濃い声にヴェノは怒りで最早顔色を失い、白茶けていた。


「さあ、さあ、さあ、無様に死んでくれよ、虫ども」

ルレアに風を切る速度で飛び掛かる白い鱗の竜が限界まで近づく前にカークはどうにかしてその間に飛び込み、叫ぶ。

「【時虹公のこぶし】!!」


225の魔量を消費して放たれた不可視の一撃は風のように動く白い鱗の竜に叩きつけられた。

消費魔量1に付き8の損傷を与えるこの魔法でカークは全力を尽くした。損傷値は1800。竜族の平均体力(HP)など知らないが為にカークは次を打つために袋の錠剤を慌てて取り出し10粒を噛み砕く。

口の中が苦すぎてすぐにでも吐き戻しそうな中で何とか気力で飲み込むと失われた力が取り戻されるような感覚を覚える。そして、衝撃から立ち直った白い鱗の竜が血を吐きながらぎょろりとカークを睨む。

その視線は万物を死に至らしめることが出来るのではないのかと言うほど苛烈で灼熱をもって鋭かった。

息を呑み、小さく悲鳴を漏らしながらカークは何とか立ち続ける。


「貴様ぁ・・・・・・取るに足らない虫の分際で、どういうことだ!?」

「よそ見をしないでください」


唸り、怒る白い鱗の竜の頭上には既にルレアが飛び上がり、剣を振り下ろしていた。

ルレアの尋常ではないあれ程までの力を入れ振り下ろされたその一撃は鱗に阻まれかすり傷ひとつ負わせることは出来ず、剣が僅かに刃こぼれしたようにすら見えた。目の前の光景にカークは顔を引き攣らせ集中した。

今、すべきことはひとつだ。

背後でヴェノが赤い鱗の竜と戦っている間にこいつを倒さなきゃならない。

悩んだり、怯えている暇など無いのだ。


「【時虹公のこぶし】」


平坦な、声だったように思えた。カークは他人事のようにそう思い、不可視の一撃が竜の角を砕き、白い鱗を引きはがした上、右前腕を引きちぎって右後脚をも噛み砕く。

ばらばらと舞い上がった白の鱗が美しく炎を反射し、傲慢な月を反射する。


「――――ッギャアア!!!!いだい!痛い!!痛いいぃぃいいぃい!!!」


生き物の宿命として、獣のようにヒトのように血を吹き零しもだえ苦しむ。無残に引きちぎられた腕も脚も何処にもなくただ付け根の肉の合間に筋線維や骨が見え隠れする。無理矢理に引きはがされた鱗はその下の皮下を肉を見せてらてらと輝いて見える。

獲物を睨む大きな瞳から涙を止めどなく零し、鋭い牙の並ぶ口からは悲鳴が溢れる。

どくどくと赤い新鮮な血が土にこぼれていき、それを見て、カークは胸にある思いが湧き上がる。

――楽しい

――そうだ!楽しいだろ!!

背筋が凍る。あの声だ。あいつの声だ。“時虹公”の無残を強いる声がする。

違う。今の気持ちは自分の気持ちじゃない。そんな感情はない。この竜を見て思ったのは痛そうだとそれだけだったはずだ。

なのに、どうして。カークは歪んだように笑うのか。

暗闇でルレアには良く見えていなかったのだろう。カークの心情の変化を大して気にも留めず、彼女は悶え苦しむ竜を横目に口を開く。


「カークさん!あちらの竜も、お願いします!」

「・・・・・・ぁ・・・・・・ああ」


カークは生唾を飲み込んで、ヴェノの元へと走った。




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ガンガン狂え〜!SAN20とかなれ〜!
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