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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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40:詐欺師みたいなやつだな


「・・・・・・おや、お知り合いで?」


青白い顔の下手な詐欺師のような男は悠々とソファに座りながらエメディリルを向いて言う。

エメディリルはにんまりと笑って頷くのだ。


「そう、そうなんだ。友達さ」

「左様ですか」


咳ばらいをひとつすると男は立ち上がり、薄っぺらい笑みでルレアとマリスにお辞儀をする。


「ようこそ我が家へ。随分と突然の御来訪ですな」

「突然の訪問、誠に申し訳ございません、閣下。ただ、至急お聞きしたいことがございまして」


ルレアの言葉に男は右手を上げ優雅さよりも胡散臭く、罠でも用意してるとしか思えない手つきでソファを示して見せた。


「お2人とも座ってお話ししましょう」

「ありがとうございます」


あ、俺はその輪に入れて貰えないんだな。

カークは手持無沙汰にドアの前に立っていたが執事らしき人物に邪魔そうな目を向けられ、横にずれた。

見るからに金の無い農民の冒険者ではそりゃ相手にはされない。なんだかみじめに思いながらも天井の綺麗な梁を見ていたらエメディリルが寄って来た。

誰もが羨むハリ艶の良い白い肌。ぷるりとふくらむ艶やかなピンクの唇。長く伸びる赤みがかった金の髪。

ああ、相変わらず外見は美少女だ。


「噂ホント?」

「何の噂だよ」


悪戯っぽい笑みは見惚れるほど美しく悪魔的で、明らかに悪だくみしている顔だ。

エメディリルはそんな笑顔で言う。


「A級冒険者を魔法でやっつけたって話。やるじゃーん」

「・・・・・・昨日の朝の話だぞ。なんで知ってんだよ」


計算が合わない。カーク達はロージニアからここまで合計20時間以上歩いた。

噂を聞いてここに来るにはエメディリルは相当な速度でここまで来たか、何らかの手段で情報を仕入れていることになる。


「今日の昼に聞いたけど・・・・・・なんで?」


きょとんとした顔で言われてカークは肩の力を抜いた。そうだ、コイツは常識がずれているんだった。

高速でここまで移動した手段を聞いても仕方がない。カークはエメディリルを見下ろす。


「あと、声を落とせ。あっちで話してんだから」


対面で並べられたソファで話している方を指しカークは言う。なにより執事の顔がだんだん怖くなっている気がするし。

対してエメディリルは不機嫌そうに頬を膨らませる。


「えー?僕優先でしょ普通!まあいいや、それよりさ、どんな魔法使ったの?後で見せてよ」

「いや、見せられるような魔法じゃないんだ」

「ん?どういう事?」

「対象に不可視の一撃を与えるって魔法で・・・・・・外からじゃ何が起こってるか分からない魔法なんだよ」


納得したのかエメディリルは頷く。


「なるほどねー。じゃあさ、あとで遊んでよ!」


彼の言う遊んでは手合わせの事だ。心の底からカークは嫌がった。


「いやもう夜だし・・・・・・」

「随分と盛り上がっている様子で何よりです」


下手な詐欺師のような男は此方を冷たく見て薄っぺらい笑みでそう言った。騒いでいることに対しての皮肉だ。

対してエメディリルは嬉しそうに笑う。


「うん!」


皮肉が通じなかったことに対して男は一瞬怯んだが、直ぐに持ち直して口を開いた。


「・・・・・・少し静かにしていていただけますか」


出て行けと言われなかっただけましだが、最終勧告であることは確かだ。カークは謝罪の気持ちを込めて頭を下げたが、エメディリルはそうはしなかった。

柳眉の眉根を寄せて煌びやかな緑の瞳を不快気に細める。


「なに?この僕に、意見する気?」


相手は貴族だぞ!コイツは何を言っているんだ!?

誰もが押し黙る冷たい空気の中でカークは慌ててエメディリルの小さな背を軽く叩いた。


「おい!あっちは大切な話をしているんだ。こっちが静かにするのは当たり前だろ!」

「はあ?そんなの僕には関係ないし」


子どもの癇癪にカークは息を吐く。


「じゃあ、部屋の外で待っていたらいい」


その言葉はやっとエメディリルに効いたらしい。眉間にしわを寄せつつも思案気に目を左右に泳がせる。


「カークも一緒?」

「俺はまだ話があるから、無理だ」

「うー・・・・・・分かった。静かにしてるよ・・・・・・」


唇を尖らせて渋面を作ってもなおその顔は美しい。

素直に話を受け入れた少年の頭をぽんぽんと撫でて、カークは笑う。


「よし、偉いぞ」


頭を撫でられたエメディリルは微妙な顔をしてそれを受け入れた。




あのエメディリルをいなすとはやはり侮れないな。

そんな事を思いながらマリスは2人に向けていた顔を目の前の子爵に戻す。


「――度を越した重税を止めていただきたいと言う話は分かっていただけたかと思います」


対して、子爵は嘲笑う。


「農民の戯言ですよ。それ程の重税をかしていると本気でお思いなのですか?」

「実際に帳簿を見せて貰ってきました。確かに、7割徴収されていますよね」


ルレアの言葉は的確だ。村長が保管している年毎の作物収穫量と税を記した帳簿にははっきり7割が持っていかれたと記されていたし、その前の年は5割だった。

しっかりとした証拠があるにもかかわらず、子爵は余裕のある態度を崩さない。


「その農村が不正を行っているのでしょう。脱税を誤魔化す為に行っているに違いありません」

「は?」


ルレアの声に子爵は肩を竦める。


「収穫された作物を少なく報告し、さも7割もの税を取られたと言って村長や村人が懐にしまっているのです。よくある手法ですよ」


マリスは一旦目を閉じた。あまりにも醜いその男を見たくはなかったのだ。

あの寒村をみて、どうして、彼らが脱税をしているといえようか?

暮らしぶりを見ても到底、不正を行っているとは思えない。この村もそうだがカサヤ村の彼らは土壁と土の床の家に住み、部屋は2部屋だけ。ベッドと言えるものはなく、箱に藁を詰めただけのものの上で寝ている。食事だって質素だ。薄い味のスープに具材は僅かな豆と麦だけ。狩人が森で恵を得ればもう少し良いものを食べられると言うが、基本的にはそれだけなのだ。

なのに、この男は豪勢な屋敷に住み、寝食を満足にとり、彼らが不正に富を得ていると言い切った。

怒りがこみ上げる。この男もまた、平民をヒトと見ていないのだ。都合の良い家畜と同等だと断じている。


「それとも、貴族より農民如きの言葉を信じると?ああ、ルレア殿。お父上が聞いたらなんと仰ることか」


一瞬の沈黙の後、声を出したのは扉の側で黙っていた男だった。


「ふざけるなよ」


目を向けるとカークは怒りに顔を真っ赤に染めて拳を握っていた。





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