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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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39:シノア子爵ペーハケク


日の出とともに目を覚まし、カークは敷いていた布を丸めながら辺りを見渡した。

寝汚い者はいないようで、すんなりと起き上がって朝食の準備を始めていた。なんならカークは若干寝坊した様だ。

申し訳なく思いながら近くに居たマリスに話しかける。


「何か手伝うことはあるか」

「いや、こっちは大丈夫だ。朝食をとったらすぐに出発だし、お前は家族に挨拶して来ると良い・・・・・・冒険者なんだ、いつ会えるか分からないだろ」

「ええ、そうですよ。カークさん、家族とはしっかり挨拶を交わすべきです」


マリスとルレアにそう言われて、頭を下げる。


「すみません。お気遣いいただき、ありがとうございます」


彼らの親切に深く頭を下げるとその厚意に甘えて実家の戸を叩く。

直ぐに出てきたのは父だ。


「おはよう。どうした?」

「おはよう、父さん。朝食を食べたらすぐに出発するから、先に挨拶しておこうかと思って」

その言葉に、父は寂しそうにしながらもどこか嬉しそうに誇らしそうに微笑んだ。

「そうか、デュラと母さんにも挨拶しておきなさい」

「うん」


母は炊事をしていて弟もその手伝いをしていた。

ふたりに向け、カークは笑う。


「母さん、デュラ。朝食を食べたら俺達は出発するから、先に挨拶を」


弟は寂しさを隠そうともせず目を伏せ、食器を机に置く。その頭をあやすように優しく撫でながら母は微笑む。


「そうなの?ゆっくりはしてはいけないの・・・・・・ね?」

「兄ちゃん」

「また、帰って来るから」


そうは言っても、弟はたまらず涙ぐみながらカークに抱き着いた。


「気を付けてね」

「うん。父さんと母さんをしっかり守ってくれよ、デュラ」


元気づけるためにそう言うと弟は涙を拭い、力強く頷く。


「まかせて!」

「任せたぞ」


小さな背に手を回しその背をとんとんと叩くとカークは手を離し、弟から離れる。


「それじゃあ、また来るよ」

「ええ、いつでも帰ってらっしゃい」

「気をつけろよ」

「またね、兄ちゃん!」


家族の温かい言葉にはにかみながらカークは家を後にした。




朝食を食べ終え、ルレアが村長に挨拶を終えてから出発。だが、着くの夕方位だという。

2日連続での10時間耐久歩け歩け大会は辛いがこれも金のためだ。踏ん張ろう。

力強く息を吐き歩を進める。目的地は領主の住むホシヤ村だ。

中間地点で昼食を取る際にクローディアから酷く睨まれた以外にこれと言って何もなく日暮れすぎまで歩き、たどり着いたホシヤ村はカサヤ村よりは豊かに見えた。

土壁や見るからに立て付けの悪い扉などは同じだが、家の数が多く少し大きく見えるし、村の周りには獣やゴブリンが怯む程度の柵がしっかりと拵えてあるのが月明りで見て取れた。

そして奥まったところに場違いな屋敷が建ち、綺麗に整えられた庭園も見ることが出来た。

その屋敷があると分かるのは大きさもそうだが、ガラスの入った窓から魔法光の照明の光が零れ、ヒトが数人行きかうのが見えるからだ。

よくもまあ、この寒村の中で自分だけ腹を肥やそうと思えるものだ。

ただ、そう思ったのはカークだけだったかもしれない。というのも、ルリやオニキスは屋敷に対して無反応だったし、マリス達も屋敷に行く人を選ぶのに忙しそうだったからだ。

幾らか話し合う中でクローディアが怒っているのが見えた。


「そんなことをしては先方に無礼です!」

「連れて行かない方が無礼だろ?此処まで連れてきて、放置するのも何だしな」

「私はマリスの意見に賛成です。彼にもついてきてもらいましょう」

「ルレア様!あんなものを連れて行ってはルレア様の権威に関わります!!」


声を荒げるクローディアに対してルレアは冷たく言い放つ。


「“あんなもの”、ですか?同じヒトとして聞き捨てならない言葉ですね」


冷気すら漂うような声にクローディアはサッと顔を青ざめさせて頭を下げた。


「失言をお許しください」

「・・・・・・クローディア。貴女も疲れているのでしょう、ホレイショと一緒に行って先に休んでください」

「・・・・・・っ!は、はい・・・・・・」


項垂れながら去っていくクローディアとその前を歩くホレイショを見送り、マリスとルレアがカーク達に近づく。


「カーク。一緒に領主に会ってくれるか?」

「いやだ。会う意味がないだろ」


この瞬発力は褒められてしかるべきだとカークは自負した。

というか、当然だ。何故、一般農民もしくは冒険者に過ぎないカークが領主に会わなくてはならないのか。全く意味が分からない。


「分かった、金を払うから一緒に来てくれ」


金で解決しようとする姿勢は無駄がなくていいと思うがヒトとしても思う所もある。しかし、この問題の争点はそこじゃない。


「金の問題じゃない。それで先方が疎んじてカサヤ村を虐げたら責任を取ってくれるのか?無理だろ。俺にも無理だ」

「・・・・・・話がどう転んでもこっちから監査官を出す。それじゃダメか」


監査官?貴族は勿論、国家さえも監視する機関の人員をなぜ寒村に割けるのか。

なんか話がおかしいぞ。


「監査官を出せるのか」

「ああ、裏ともつながってないし賄賂を受け取る奴じゃない。信頼できる」


そんな凄い人物と知り合いとは驚いた。カークはその言を信じるか信じないかで悩み、結局マリスの人柄を信じた。


「・・・・・・分かった。だが、俺には礼儀はさっぱりだから、そのつもりでいてくれ」

「はは、こっちもそんな仰々しく行くつもりは無いさ、なあ」

「ええ、ちょっと話を聞きに来ただけですから」


そんな話をしていると屋敷の方から使用人らしき人物がやってくる。

ルレアの目の前に立つと彼は丁寧に腰を折り、口を開いた。


「ご主人様がお会いになられるとの事です。ただ、」


ただ、のあと彼は躊躇しながらも結局続ける。


「・・・・・・丁度いらっしゃった冒険者の方も一緒に、と」

「・・・・・・?何故ですか?我々は信頼できないと?」


害するつもりがあるとみなされたのか問うと彼は慌ててそれを否定する。


「いいえ。その、申し上げにくいのですが・・・・・・」


随分と歯切れが悪いな。カークがそう思っている間に決心がついたらしい。


「その冒険者の方が“面白そうだから”と仰られて・・・・・・説得はしたのですが」

「・・・・・・分かりました。聞かれて困る話でもありません、ご一緒しましょう」

「ありがとうござます。それではご主人様の元に案内させていただきます」


月明りのおかげで明るいがそれでもまだ暗い。その中を迷いなくすすむ彼の背中を5人で追い、玄関を抜けると絨毯の敷き詰められた廊下を進む。

重厚な扉の前に彼は立つと扉を数度叩く。


「お連れ致しました」

「おお、どうぞ」


扉がゆっくりと開き、カークは心臓が煩い中でも冷静さを保とうと深呼吸をしてマリスの後に続く。

ソファが対面に並ぶ来客室。その片側の中央に座った異様に目を細めて薄っぺらい笑みを浮かべる詐欺師みたいな男はルレアを見てますます笑みを深める。

居るはずの冒険者は確かにこちらを見ていた。

あまりにも美しすぎる人形のように整った不気味なほどの容姿。、無機質で冷たくも強欲に細められた瞳はカークを見てにんまりと猛獣のように笑う。


「やあやあ、カーク。不思議なところで会うねえ」


エメディリルの姿を見てカークは人目もはばからず盛大にため息を吐いた。




めんどくせえところにめんどくせえ奴がいる!!




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