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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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37:脅しはよくないぞ


説明はすんなりと終わり、ルリとオニキスは特に不快感を表すでもなく、付いてきてくれた。

騒動を聞きつけた冒険者と野次馬を掻き分けて宿屋にリュックを取りに戻り、幾らかの食料や衣服を持てるだけ買い込む。

誰だって家族にはいい顔をしたいものだ。

30分で北門に集合し、確認を取る。“蒼天の杯”のメンバーは既に到着しており、マリスもその中でルレアと話をしていた。

ルレアはカークに気づくと会釈をして、振り返ってチームメンバーの顔を見渡す。


「皆いるわね?」


カークもつられて見渡す。言ってもルリとオニキスがチームメンバーだ。簡単に済む。


「こっちは大丈夫だ」

「・・・・・・凄い荷物だが、カサヤ村はそんなに遠いのか?」


黒髪の男、ホレイショは胡乱気にそう言う。それに対してカークは苦笑で答えた。


「いいや。家族に土産を買ったんだ」


ホレイショはその言葉に幾らか口をぱくつかせたが、言葉にはならずに顔をそむける。

その態度に肩を竦めつつカークはルレアに言う。


「出発できる」

「それじゃあ行きましょう」


賑やかな北門から農村を抜けロージニアを離れる。

ロージニアからカサヤ村まで12時間くらい。結構歩くが、これは仕方がない。

何せ、カークは馬を持っていないのだ。“蒼天の杯”やマリスは持っているような空気で話をしていたが、その時にはっきりと伝えてある。

カークには馬を乗りこなせないと。

貸そうとしていたマリスもこの言葉に黙って歩いて行くことに了承してくれた。

その為に、頑張って12時間ほど、歩こうではないか。




休みを挟みながら日差しが頂点に上るよりも結構早く、ありていに言って昼前に中間地点に付いた。結構な速さだ。やはり、A級冒険者チームは基礎体力が違うのだろう。

カークはそれよりもオニキスを気にかけたが、平然とした顔で着いてきていたので、心配するのも野暮なのか失礼かもしれないなんて考えながらも、結局心配で声を掛けた。


「オニキス。無理してないか?大丈夫か?」


水ならあるぞ、そう言いながら革の水袋を差し出すがオニキスは機嫌よく首を振る。


「いいえ、今は大丈夫です」


白い頬が上気してピンク色に染まり、健康的だ。オニキスはここまでずっと好奇心旺盛であれは何かとしきりにカークに聞いていた。

ルリと一緒に謎の雑草の名前を考えたり、何故か生えている薬草類の名前を当てたり、草原の向こう側に見える大きな角を見てマリスが払い忘れてシャルローゼが立て替えた金を思い出したりしながら歩いてきた。

結構な距離だ。カークだって疲れている。マリスもルリも“蒼天の杯”の4人も疲れたそぶりを見せないので、ちょっと悲しいが。

それでも、オニキスは疲れていないという。

竜人と言う種族はよく分からないが、少なくとも見た目通りの体力ではなさそうだ。

僅かに汗ばむ頭を撫でているとマリスが話しかけてきた。


「例の魔法、アイツに使ったって?」


隣に座り、そう言われてカークは疲れた脳みそで何を言われたか必死に考えて数秒かかってやっと頷く。


「ああ、うん。使った・・・・・・殺さなくてよかった」

「おお!言うねえ」


軽快な笑い声をあげて、マリスはそう言うとカークの顔を覗き込む。


「・・・・・・魔法防御貫通なんてどうやったんだ?」

「は?」

「アイツは激情型だがかすり傷を負わせるのにも一苦労するほど、防御能力だけはA級チームでもトップクラスだ。そんな奴の魔法防御を貫通させて重傷にするなんて、F級どころか並大抵の冒険者に出来る事じゃない」


一息ついてマリスはニコリと笑う。悪戯をもくろんでいるような、いや、獲物を見据える狼の様な目だ。


「魔獣ティラノサウルスを“撃退できた”のがどれ程凄いのかお前、分かってなかったな?」

「いや、俺は・・・・・・魔法を使っただけで」


いや、これだとクソみたいな言い訳だ。自分が悪いんじゃなくて道具が悪いとでも言いたげではないか。

もごもごと口を動かしているとオニキスがおろおろしながらマリスに言う。


「カークは悪い人じゃありません」


オニキスがそう言うとマリスはちょっと困った様に笑う。


「・・・・・・詰っているわけじゃない。ただ、実力を勘違いしないようにして欲しいだけさ。カークは危うくA級冒険者を殺しかけた。たとえあっちが悪くても、ムカつく野郎だとしても、A級冒険者を喪う事は民にとっても領地にとっても国にとっても損失なんだ。それだけは覚えておいて欲しい」

「それは、全くその通りだ。俺も謝ってこよう」

「いや、いや・・・・・・それだけはやめてやれ。どれだけムカついても、プライドに塩を塗りたくって抉った後に熱湯をかけるような惨い真似だけはやめてやれ。後が怖い」

「確かに」


はっはっはなんて軽薄に笑いながらカークは肩の力を抜いた。




陽が沈み、3つの月が良く見えるようになる時刻。常に満月の赤い月。地球と同じように満ち欠けする青白い三日月と常に半月の月がこちらを照らす。

カサヤ村の民家が零すおぼろげな明かりを頼りに一行は到着した。

ここまで10時間くらいか。結構なハイスピードで歩かされたカークはぐったりとしながら、村長の家まで案内する。

扉の前にたち、ノックする。


「・・・・・・シメオンさん。カークです」


扉の向こうでどたどたと音がしたかと思うと立て付けの悪い扉から訝し気な見知った顔が出てくる。


「はあ?帰って来たのはいいが、こんな時間に・・・・・・なんだ?どうした?」


カークだけでなく後ろの一行も薄暗い中で見えたのだろう。シメオンは仰天したとばかりに目をかっぴらいてじろじろとよそ者を見ている。

こんな寒村ではよそ者は珍しい。珍しすぎて珍獣扱いだ。


「あー・・・・・・話があって・・・・・・それはこの人たちから聞いてください」


カークは歯切れ悪くそう言い、投げ出した。

ルレアは気負わずに前に進み出るとにこやかに言う。


「村長様。私、ルレア・フォーノ・ユグ・ガデュと申します。この度は夜分に突然の御訪問誠に申し

訳ございません。ですが、至急、お聞きしたいことがございます」


村長は進み出てきたルレアを引き攣った微妙な顔で見た。

さては美人で驚いたな?

下卑な想像をしつつもフェードアウトしようと徐々に後退し、撤退戦を始めたところでそれは途絶えた。

ぽんと優しく、カークの肩に手が乗せられたのだ。


「俺も、カークの家に泊めてくれるよな?」

「・・・・・・いやうち、そんな広くないぞ?正直、全員野宿だろ」


だが、マリスは気にした風もなくにこやかに言う。


「農村の家の構造は知ってる。一緒に空いてるスペースでごろ寝の準備も万端だ。さあ、家族と感動の対面を果たそう」


あ、クソ、コイツ面白がって着いてきた上に他人の家族構成まで首突っ込む気か。

渋い顔をしているとルリが何か言いたげな顔をして、それを制するようにマリスは声を落とす。


「エルデン・グライプだって言ってもいいんだぞ」


その言葉が脳みそに浸透して理解を要するのにたっぷり数十秒かかった。

『“エルデン・グライプ”は【死んで】初めてそうだと分かる』

死んだ、とどうして家族に言えようか。

カークは肩を落として家に案内することにした。



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