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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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32/272

30:それってフォローになってるのかなあ

祝☆30!いつも見てくださっている皆様のおかげです!

誠にありがとうございます!


「7割ですって?」


執務室の上質な机の書類に視線を落としていた女は手を止めて報告者を見上げると、女神の如き美貌に怒りを滲ませて顰めた。


「その農民が嘘を言っているのではなくて?」


農民が生活苦を税のせいにすることはよくある話だ。

だが目の前の獣人の男は首を振る。


「・・・・・・調べさせましたが、シノア子爵領カサヤ村の税は2割だそうです」

「?それが正しいのでは?」


美女は繊手に握られたペンを一度おいてからじっくりと目の前の男を見据える。

彼が嘘を言うとは思えないが、嘘を掴まされる可能性もある。とは言え、考えなしの発言をしてこちらの手を煩わせるような性格ではない。

何かしらの裏が取れての発言だと気づいて、瞬いて続きを促す。


「ですが、3年前に代替わり成された子爵はロージニアでも随分と羽振りがよろしいようで」

「なるほど、不正に収入がある可能性がある。それが重税だと考えたわけね」

「はい。閣下はどうお考えですか」


じっくりと考える。

手を出しても良いが、周囲の貴族の出方も考えなくてはならない。シノア子爵ペーハケク家は隣接するヨウハ侯爵ガデュ家の腰巾着だ。下手な横やりは侯爵の気を相当損ねる。


「・・・・・・それが本当の話ならば、王家への反逆に等しい。けど」


その先の言葉は出てこない。それはそうだろう。

貴族にとって市民や農民、商人に代表される“平民”などよくできた家畜程度にしか思っていない。彼らが苦しんでいると訴え出たところで鼻で笑われて終了なのだ。

7割もの作物を持っていかれては普通には生活できない。子どもを売るか、親を捨てるか、兵士になる道もあるし、魔法使いか狩人がいれば何とか持ちこたえられるだろう。

だがその生活も何年と持つものではない。7割。この数字は極めて高い。100ある内の70が持っていかれる。残った僅か30で家族が暮らし、種籾すら残らないような生活を送らなくてはならない。到底未来は明るくはなく、農民は縊り殺される。その現実は人道に悖るし、合理性とはかけ離れた行動だった。

では王家に直訴すればどうか。これも難しい。まずノイバシッセ家も当主が変わりたてで権力がさほどない。故に当主が直訴などと言う暴挙に出れば家中がそれを止めに来るだろう。ガデュ家との確執を深める必要ないと。他領の事など放って置けと。それに、おいそれと王都に行くわけにもいかないのだ。

エジェワーディ侯爵家は領土から離れれば離れるほどに立場が悪い。


「けど、手は出せないですか」


男は冷たい声でそう言った。

大して女はそれに対してひと睨みをきかせる。


「貴方は平民に近すぎる。だから分からないのよ」

「相手はヒトですよ。同じ、ヒトです。何故、子爵を説得できないのですか」


女は貴族の機微を悟れと窘めても、男はそれを不和の元だと切って捨てる。

彼だって分かっているはずだ。今手を出せば、ガデュ家は完全に敵対するだろう。そうなれば今度は円王国が出てくる。

状況が悪いのだ。


「・・・・・・せめて人を送りましょう。事実確認をするべきです」


男の言葉は尤もだと女は頷いた。


「そうねマリス。出来る事から始めましょう」

「ありがとうございます。母上」




「何よそのトカゲ」


イナンナの尖った声にカークは顔をそちらに向けて笑った。

オニキスへの愛おしさがこみあげてその表情を作ったのだが、イナンナは若干引いたような仕草をする。


「可愛いだろ?オニキスって言うんだ。オニキス、彼女はイナンナだ。今日から一緒の部屋だからな」

「きゅ」


短く鳴く姿にイナンナははっとしたような顔を見せて両手で口を覆う。


「可愛い!!欲しい!!」

「いや、あげないからな?俺の家族に迎えたんだ」


カークの言葉を聞いてイナンナは胡乱気な目を向ける。


「は?トカゲを家族に迎えるってどういう意味?あんた頭おかしいの??」

「・・・・・・どう言われようと、オニキスは家族同然なんだ」


カークはひとり嘆息する。人権意識の無いこの世界では立場や権力の無いヒトですら家畜と同意義であり、家族と言うには相手が“下等”だと見下すことが多い。それにいちいち反応していては疲れるだけだし、家族云々はカークの思い込みと覚悟の話だ。イナンナには関係ない。

心配そうに見上げてくるオニキスの頭を優しく撫でるとカークは手に持っていた毛布を部屋の隅にたたんで置く。


「さ、此処がお前の寝床だからな」

「・・・・・・ぎゅあ」


うわ、嫌そう。

カークだっていやだ。同じ立場なら床に毛布(ぼろ布)を置いただけの場所を寝床とは言われたくないだろう。

だがしかし、カークにもオニキスにも選択権は無く、カークはしゃがんでオニキスを説得することにした。


「仕方ないんだ。はっきり言ってルリのおかげで部屋に入れて貰えただけでもラッキーなんだよ」


ルリが視界の隅で得気に胸を一瞬張ったような気がした。

ルリが可愛くてよかったと思う。おかげで宿屋の亭主はルリに対して何かと甘い。

実際、カークが何とかオニキスを部屋に入れて貰えるように頼んでもダメの一点張りだったのに、ルリが頭を下げた途端に手のひらを返した。宿屋の亭主にちょっとムカついた。


「爪があんまり伸びてないから床は早々傷つけないだろうけど、さすがにベッドには乗れない。壊しちゃうからな」

「ぐぎゃ」


苦々しい声だ。無理矢理嫌いな物を喰わされたような、苦い声。顔も若干顰められているように見える。

可愛くない声を出されても可愛いなあと思えるカークは末期だ。

説得する言葉を探しあぐねているとルリが助太刀に現れる。


「・・・・・・カーク、思うに位置が悪いのではないでしょうか」

「位置?」


ルリはそう言って畳まれたぼろ布を持ち上げるとカークとルリのベッドの間に置く。

すると、オニキスはご機嫌になってその寝床に座る。


「おお!ありがとう、ルリ。そうか、場所が悪かったのか、ごめんなオニキス」


よしよしと顎のあたりをなでるとオニキスは許す様にくるくると喉を鳴らす。

すると、背後でイナンナが突然咳払いをする。

振り返るとそわそわと落ちつきのないイナンナと目があう。


「か、可愛いわね!オニキスちゃん!?な、な、撫でてあげてもいいけど!」

「どうする?オニキス」


オニキスは何か心得たようにイナンナの足元にする寄ると小さく愛想よく鳴いた。

その行動にイナンナは感動したように瞳を潤ませて愛らしい頭をおそるおそると撫でる。

指が触れた瞬間にオニキスはねだる様にイナンナの掌に自身の頭を擦り付けて見せる。

おお、可愛い。


「可愛い!可愛い!カークが嫌になったら私の所にいつでも来たらいいわ!」

「きゅぅう」


2割り増しくらいに可愛いので多分愛想を振りまいているのだろう。意外と強かだ。


「じゃあ、明日も早いから俺達は寝るぞ」

「はい、カーク」


朝食を終えて部屋に戻って支度をしている最中にイナンナは名残惜し気にオニキスの頭を撫でて出発したのを見送ってからオニキスを置いてカーク達も出発した。

今日は西の鐘のある迷宮に行く日だ。あまりにも格上の迷宮であるために先に鍛冶屋に向かっていた。ルリの防具を買うためだ。

ラナンティアの店に行く手前にある大きな鍛冶屋に入るとそこには数多の武器と防具が飾られていた。

カウンターの向こうに立っていた店員はカークの身なりを見てがっかりしたような声をだす。


「・・・・・・何しに来ただん」

「彼女の防具が欲しいんですが、何かありますか」

「あーあるにゃあ、ある。ちょっと待っとりん」


数分待つと店員の男は箱いっぱいに防具を入れてカウンターのこちら側に置いて行く。

それを5度繰り返して、疲れたようなため息を零すとその箱を指す。


「この箱は、銀貨40枚でお買い得だに、買えるら?こっちの箱は金貨2枚だで、見るだけ見ときん」

「箱で1セットなんですか?」

「いや、ひとつの値段。防具は高いもんでね」


ルリを振り返ると困惑した顔を見せている。それを気にせずカークは質問する。


「軽めの方が良いか?重い防具がいいか?」

「え、でも、私は」

「ルリ。頼むから防具をつけてくれ。俺の為に」


正直ルリが薄着でうろつくこと自体がカークにとって耐えがたい。その上危険の多い冒険に出ているのだ、不安しか残らない。

カークは別に最悪死んでも蘇る。だが、ルリは違う。そこで、終わりなのだ。


「・・・・・・でしたら、軽い方が好みです」

「んじゃあ、こっちだわ。こん箱」


ずりずりと箱が二つ押しだされる。中を見ると革の防具や謎の金属で出来た鎖帷子などがある。状態の良い上質な物が入っている箱から白い革製のベストの様な鎧を取り出してルリに見せる。


「いい革だし、作りもしっかりしてる。良い防具だ」

「お、見る目あるじゃんか。儂が作ったでね、そりゃいい防具だわ。ねえ?」

「ああ、そうなんですか、凄い腕ですね」


金貨2枚でこのクオリティなら凄いというレベルではない。見る目の無いカークから見ても相当なお買い得と言える。堅牢な作りで魔法がかかっているのか傷ひとつなく見た目よりも軽く感じる。


「でしたら、それがいいです」

「冒険用の手袋もここで買おう。今あるのは解体用だけだから」

「持ってくるわ。兄さんはいいだかん。防具買っときんよ」

「男用もあるんですか?」

「あるある」


そう言ってカウンターの奥の大きく空いたアーチを越えてそうこのような場所で喚きながら何か探すと奥から何人か現れて口々に何か言っていたがそれも怒鳴って追い返して箱を持ってくる。


「あー!!うるさくてかなわんわ!儂は儂の好きにするつっとるじゃんねえ!?」


怒鳴りながらどんと置かれた箱をカークは素早く覗いた。火の粉が降りかかったら叶わない。

もうひとつの箱を店員の男が持ってくる頃には2人分の手袋を身繕っていた。

それが置かれた途端にのめり込むようにカークは中を見る。

いい防具だ。黒い革のベストの鎧を取り出してカークはそれを差し出す。


「これください」

「本当に目が良いじゃん。うちの弟子共にも見習わせたいわ・・・・・・」


そうぶつぶつと言って店員は防具と手袋を受け取るとついていた革製のタグをカウンターから取り出したハサミで切り、こちらに渡す。


「兄さん見る目確かで気分いいもんでね、まけとくわ。金貨5枚で良いでね」

「はい、ありがとうございます!」


頭を下げてから金貨を渡すと店員はちょっと驚いた様子だったが気を取り直して聞く。


「防具はここで着けてきん。足りんかったり、デカかったりしたら、こっちで直すもんで」

「はい」


着けてみたところ2人とも問題はなかった。丁度いい。


「お、いいじゃん。んじゃあ、今後ともヘパイストスの鍛冶屋をよろし頼むに」


店員は多分愛想よく笑ったつもりだったのだろうが何処か恐ろしく獰猛に見える。子どもが見たら泣くだろうという感想を押しこんでカークは愛想笑いを浮かべて頭を下げてから店を後にした。




待ち合わせしたギルドの前に行くとエメディリルがぽつんと立っていた。今日はあの茶髪の男もシャルローゼもいないらしい。


「待たせたか?すまない」

「ん?いや、暇つぶししてたからいいよ」


ちょっと人だかりができていたように見えたのは気のせいじゃないらしい。周りに目を向けると怯えるような目と驚いた目が向けられる。

カークは深く考えるのを止めた。


「・・・・・・じゃあ、行こうか」

「ん!行こうか」


幾らかの注目を浴びながらカーク達は出発した。

道中には特に起こったことは無かった。たまに雑談をしてエメディリルの感覚のずれを感じながら道を行く。

西門から出て森に向かう道は途中までは街道に石畳が敷かれている。

途中までとはいえこれは便利だ。道に迷わないし、魔物が突然襲ってくる確率も減る。

30分ほど歩くと大きな柱が見える。

柱はねじ曲がった杖の様な形をしており、羊飼いの持つ杖のように、杖の弧を描く先端の真ん中に鐘が付いていた。

あの迷宮だ。カークは人知れずつばを飲み込む。

あの男の弟がいるという迷宮を前にしてカークは恐怖で足が竦みそうだった。何とか叱咤して先を進む。さらに数分歩いてその柱いや巨大な杖の足元に着くと大きな水晶とその周りを浮かぶ小さな水晶が魔法陣の真ん中で浮かんでいた。カーク達の他には2組いるだけの静かな迷宮だ。

自分たちの順番が来て小さな水晶のひとつに3人が触れるとぱっと景色が変わる。不思議な体験だ。


「じゃあ、うん。2人とも一応気を付けてね」


呑気にそう言われて苦笑した。確かにこの中で一番強いのはエメディリルだ。だがおんぶにだっこと言うつもりは無い。


「出来ることはやるよ」

「おお、いい意気だね」


そう笑って最初の扉を開けた。




後悔先に立たずという言葉がある。その言葉を噛み締めて曲がり角で身を小さくしているカークは剣を握りしめて呻いた。


「・・・・・・C級はいつもあんな魔物を相手にしてたのか」


出てくるのはぼろぼろの装備を纏う骸骨兵や巨大な狼、トロールにオーガもいた。ゴブリンやコボルトばかり相手にしていたカークは涙声で悲鳴を押し殺す。


「あんなに強いなんて聞いてない!」


エメディリルの一方的な殲滅で事なきを得ているが随分と数が多い。基本的に5匹単位で襲いかかってくるので、エメディリルはめんどくさそうにハンマーを振り回していた。

そうハンマー。エメディリルは剣士ではなかった。もしかしたら戦士だったのか。

そのハンマーは1.5mもありそうな長い柄のハンマーでエメディリルが持つにはデカすぎるが、軽々とそれを振り回して魔物を殲滅するので多分、魔法がかかっているのだろう。

あの細腕であれを振り回せるとは思えない。


「終わったよ。次に行こうか」

「あ、うん」


カークは顔を引き攣らせた。思ったよりもエメディリルは強い。

トロールの群れを難なく処理して息ひとつ乱れていない。


「この迷宮は四角い部屋とそれを繋ぐ通路が連なった迷路だけど、強い魔物は滅多に出てこないし、そんなに怯えなくていいよ」


エメディリルは気楽に言うが、カークにとっては格上だ。顔を引き攣らせながら、頷く。


「わ、分かったよ」

「迷路系は強い魔物が少数出てくるか、弱い魔物が多数出てくるかくらいだし、この迷宮は弱い魔物しか出てこない。A級向けの迷宮だとさすがに僕も楽できないよ」

「A級の迷宮に行くことがあるのか?」


ぎょっとして聞くと事も無げにエメディリルは頷く。


「たまにね。迷宮でしか出ない素材もあるから」

「・・・・・・A級冒険者だったのか」


思わずつぶやくとエメディリルはその美貌に笑みを象り振り返る。


「いいや?僕はC級さ」

「でも、A級の迷宮に行ける実力があるんだろ?」

「・・・・・・B級以上はね、昇格に条件があるんだ」


それは知らなかった。カークは耳を大きくして聞く。


「B級以上は有事の際にリーダーとして動くことがある。それだけの実力と能力を求められるんだけど、僕にはそれが無いからね」

「ああ、なるほど」

「ええ?ひどいなあ。嘘でもそんなことないって言ってよ」


納得だ。エメディリルは人の上に立つだけの能力はない。単体としては強いが集団を率いることは不得手だろう。それは彼の性格を加味すれば仕方がない。

冒険者は実力主義だがそれだけで上に上がれるほど甘くもないのも事実だ。力押しで解決できる事なんて限られてくる。短い付き合いだがエメディリルはまさに力押しで解決しようとするタイプだと断言できる。それでは恐ろしくてB級以上には上げられないだろう。賢明な判断だ。


「集団に縛られるの、嫌だろ?仕方ないさ」

「・・・・・・まあ、そうだけどさ」


渋々とエメディリルは唇と尖らせる。それを見てカークは苦笑した。




エメディリル:赤みがかった金色の髪、エメラルドの様な緑の瞳。どこからどう見ても絶世の美少女だが男。自由奔放で他者に縛られるのは基本的に嫌い。友達は現在カークだけ。クラス構成は聖職者系で戦士じゃない。義兄のラナンティアに頭が上がらない。

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