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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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24:謎々

訓練場から遠ざかっていく小さな背中たちを見ていると声がかかる。

いや、観客たちは引っ切り無しに声を掛けてくる。

さっきの戦いを見ていた者は一様に健闘したカークに対して賞賛を送り、肩や背中を叩いて行く。

しかしその中でひときわ目立つ容姿の男がカークの前に現れにこりと笑った。


「やあ、久しぶり。少し話せる?」


膝裏まで伸びる儚くも凛々と煌く桃色の華やかな髪。そこから伸びる人間にしては長くエルフにしては短い尖った耳。甘く光る優しい赤の瞳。誰もが羨む白皙の国を傾けかねない美貌を湛える顔。

高貴ですらあるマントを羽織ったクェルムは小首を傾げて驚いて反応しないこちらを見ている。慌ててカークは口を動かす。


「お、お久しぶりです。クェルムさん」

「あはは、気軽に話してと言ったじゃないか」


そう言われて引きつりながらも口調を砕けたものにした。


「久しぶり・・・・・・な、何の用?」

「いい戦いぶりだった・・・・・・よかったら外でゆっくり話そう。良い酒場を見つけたんだ」

「ルリ・・・・・・仲間も一緒でいいか?」

「こちらも仲間がいるからね。勿論いいとも」


その言葉を待っていたかのように涼やかな黒髪と冷たく光る赤い瞳が特徴的な不愛想な大男が野次馬たちを掻き分けて現れた。

ルリもポニーテールを揺らしてカークの側に現れると、2人を見てきょとんとしてからカークを見た。


「・・・・・・ルリ。この人はクェルムでこの人がアレス。2人とも彼女は仲間のルリ」


おのおのがよろしくと声を掛け合い、それが落ち着くとクェルムが騒がしい周りに苦笑を漏らす。


「いや、人気だね」

「俺がというよりは彼女が強かったから、所感を聞きたいんじゃないかな」


カークの言葉にクェルムとアレスがそろって苦みのある曖昧な顔を見せる。

どうしたのかと問う前にクェルムが口を開く。


「彼女・・・・・・いや、ああ・・・・・・うーん、まあ、あのひと・・・・・・は強いからね」


なんというか微妙な物言いだった。何かを隠しているような違和感。

それを問い詰めるよりも早くクェルムは気を取り直して人懐っこい笑みを浮かべると出口を指す。


「じゃあ、行こうか」


野次馬たちを掻き分けながら4人はギルドから必死になって出て行った。




酒場というには上品だが、ありがたいことに上流階級が立ち寄る程の品位は無い。

良い事があった時に特別立ち寄ろうかと考えるような、気安いが美味しい飯を食える場所だった。

果実水を飲みボロネーゼに舌鼓を打つカークを2人は見咎めたりはしなかった。

まあ、兎に角賑やかとは言いづらい食事の後で、カークは思い出したことを口にする。


「そう、そういえば、クェルムを探している人に会ったよ」

「・・・・・・どんな人?」

薫風(くんぷう)ともいえる長い緑髪でひとりはひとつ結びでもうひとりがふたつ結びだった。ああ、あと赤い髪の仲間がもう1人と黒い髪の上司っぽい人が1人の4人組」


クェルムは隣に座るアレスに目を向けた。アレスは首を振ったのでクェルムは小さく肩を竦めたのだ。


「クェルムたちの事は話してないけど、大丈夫だった?」

「うん?うんうん、大丈夫。むしろありがたい」

「よかった。彼らも悪い人には見えなかったから、実は少し悩んでたんだ」


カークがそう言うと、クェルムは苦笑した。


「・・・・・・もしよかったら、そう言う人たちには何も言わないでいてくれるとありがたいね」

「わかった。そうする」


間髪入れずにそう答えると、アレスが片眉を上げてその固く閉ざされていた口を珍しく開けた。


「言わないでいると何かお前の利益になるのか」

「言うと俺の利益になるのか?」


素朴な疑問だ。

確かにクェルムたちと親しい訳ではない。とはいえ、やすやすと売り渡すほど薄情でもないのだ。それを悟ったのか、アレスは自嘲するように鼻でひとつ笑い、首を振った。


「つまらんことを言った」


許せと小さく言うのでカークは気にせずに微笑んで見せる。


「いいかな?私は君に聞きたいことがあるんだ」

「いいですよ。俺に答えられることなら」


気安くそういって果実水を口に含む。


「泥・・・・・・エルデン・グライプになったというのは本当?」

「本当。今日も迷宮で死んだ」


重くならないように気軽に言ったがルリが隣で身じろぐので、悪い事を言ったかと思った。

彼女はカークが死ぬことを良く思っていない。人が死ぬのを快く思う様な人物だとは思っていないし、勿論、カークだって死にたくて死んでいるわけではないが、実力不足で死んでしまう事だってある。それを彼女は己の力が不足しているせいだと自責するのだからたまらない。

正直な話、ルリにはそれとなく、耐えられないなら別々に行動しようと提案したことがあるが、どうにも聞き入れてはもらえなかった。


「どうやって泥になったんだい?」

「どうやってというのは」


特別な事は何もしていない。ただ、野盗に襲われ死んだだけ。

それとも死因が聞きたいのか。

カークは思わず目を細めて冷たくクェルムを見据えた。

彼はその視線を真っ直ぐに受け止めて苦笑する。


「・・・・・・君にとって気分の良い話じゃないのは分かる。けど、話して欲しいんだ」

「何故ですか?正直言って我々はそこまで仲がいいとは言い難いでしょう。話す義理もないかと思われます」


冷たく突き放すように言ってもクェルムは引き下がらなかった。


「分かった。ただとは言わない・・・・・・望む金額を此方から出そう」

「必要ありません」


自分でも驚くほど言葉は酷く鋭利だった。

勿論金は欲しい。しかし、今ここでカークはクェルムに話をすることに何故だが抵抗があったのだ。例えば自分の心臓を差し出してしまうような感覚。

確かに“野盗に襲われた”だけだ。それを話すことは何の困難もない。

カークには決心がつかなかった。クェルムに話すことは正しいのだろうか。


「・・・・・・・・・・・・分かった。正直に話そう・・・・・・知り合いがエルデン・グライプになったんだ・・・・・・それで、些細な情報でも集めて回っている・・・・・・だから君の話を聞かせて欲しいんだ」


懇願するような目を向けられカークは思いなおす。

自分は何故、クェルムに攻撃的な感情を抱いたのかも知らないで。


「・・・・・・貴方たちに会ったその日、あの森で野盗に殺されました」

すんなりとそう言うと彼は一瞬考えるように天井に目を向けて、こちらを見返す。


「死因は?」

「心臓を一突き・・・・・・刺殺です」


それを聞いてクェルムとアレスは目を合わせて首を振る。

何のことか分からずに困惑しふたりをみくらべた。


「どうかしたんですか」

「いや・・・・・・エルデン・グライプになる法則を探しているんだ。2,000年近く前から発生し始

めたのは周知の事実だろう。けど、そうなる種族も人数も曖昧なんだ」


カークは今聞いてはいけない事を聞いた気がして耳を塞ぐべきか真剣に悩んで結局は先を聞くことにした。


「歴史を紐解くと竜、トロール、巨人、大狼、ゴブリン、オーク、人間にエルフ、ドワーフとまるで節操がない。ウサギや豚がエルデン・グライプになったという話もあるけど、それは空想の話かもしれない。要するに、全くの手探りで神話を紐解いているのさ」

「知り合いが泥になったというのは分かりましたが、紐解く必要はないのでは」


素朴な疑問である。彼らがそうしたいというのであればそうしたらいいが、果たして、カークには意味が分からなかったのだ。彼は無礼な言葉に優しく微笑む。


「・・・・・・必要があるのさ。どうにかして解明したいんだ」


何故だと聞けたらよかったのだろうか。

何も知らなければ不老不死は魅力的に映るから、それが理由かもしれない。

しかしただの知的好奇心には見えない。


「ところで、8芒星の位置は?」

「俺は左胸です。そちらは?」

「右肩口だ」


アレスは言葉少なにそう言う。

思いつめたような雰囲気を出す彼らがエルデン・グライプに憧れている様子でもない。

何故、知りたいのだろうか。果実水を飲むルリを見てひらりと思い出す。

そうだった、俺は“異常”にあっている。


「関係ないかもしれませんが、泥になってからある迷宮に行って“水獄の君”という方に会いました。何かご存じですか」


この言葉に反応を示したのはルリだった。創造主の話だ。もしかしたら、彼女にとって都合が悪いかもしれない。それに思い至ったが、こちらを見たルリの反応は別の物だった。


「あの御方のご謦咳(けいがい)に接するというのは、極めて稀です。彼らがその栄光に与るとは思いません」

「いや、いや、ルリ。会って欲しいというよりは異常を共有したいんだよ」

「異常、ですか?」


苦笑を漏らして、カークはクェルムに向きなおる。

ルリはあの男を悪くは思っていないようだった。勿論、カークがただ単に苦手意識を持っているだけなのだろうが、それでも、あれを異常と認識できないのは少し不味いかもしれない。

だが、今の問題はそこではない。


「そのお知り合いの方をその迷宮に連れて行ってみてください。泥、エルデン・グライプがトリガーで、もしかしたら何か起きるかも。浅い階層で会いましたから貴方方の実力であれば、30階まで行ったとしても大した苦労はないかと思います」


示した迷宮の位置を聞いたクェルムとアレスは何とも言えない顔を見せる。


「初心者用の迷宮?特別な歴史は無かったけど、君が言うのだから、行ってみるよ」


にこりと微笑む顔に会釈を返す。アレスは仏頂面で頭を軽く下げただけだ。

カークは気にしない。正直言ってアレスにニッコリ笑われる方が恐ろしい程だ。

ふと、頭の後ろでざばんと何かが水から上がる音が響いた。

思わず振り返っても何もない。酒場の景色が映るだけだ。

そして顔をクェルムの方に戻した時にやっと異常を知覚した。




真っ白な壁、真っ白な床、真っ白なテーブル、真っ白な椅子。天井だけが抜けているように海を見せてくれた。




何が起こったのか分からず、驚愕のあまりに席を立ち辺りを見渡す。

煩い心臓と荒い息を整えて状況を理解するより早く目の前の異常の元凶ともいえる相手をみつけた。


「お前が望むなら彼らに姿を見せることも吝かではないよ。まあ確定で現わせるわけじゃないけど」

「なにっ?・・・・・・なに、が?」


困惑するカークに向かって大きな口の大男はにっこりと笑う。


「夢だよ。君の夢。君って夢に深く沈むタイプなんだね」


そう言われて、カークは力なく席に着く。あまりにも心臓に悪い。

そうか、さっきの事を夢に見ていたのか。


「表に姿を現すのは、難しいと聞きました」

「あの仔から聞いたね?確かに“表”は近頃難しいね。でも、此処は表じゃないし、お前の夢だ。なおさら簡単だよ」


何を言っているんだろうかと胡乱気な目を向けても仕方ない。


「それは、俺の方から断ることは出来ないんですか」

「あはは!面白いね!出来ないよ・・・・・・いや、うーん。僕と同じ位の神性を持てば可能かな?弟は拒絶できているし・・・・・・お前じゃあそれも難しいね」


残念だと思いながら疲れて肩を落とす。

大きな口の男は気にした風もなく口を動かした。


「昔は僕が夢に出たら人間は泣いて喜んだものだけどなあ。まあ、お前とは繋がったから、早く慣れてね」


聞き捨てならない言葉を聞いた。カークは悪意を吐き出す様にそれを反芻する。


「繋がったとは?」

「文字通りだけど?いやいや!見てくれて助かったよ。外の人間と接するのは久しぶりで、新鮮だ。精神力の弱い人間じゃ、狂気に陥って直ぐ“終わる”からね」


不穏な言葉を聞いた気がする。この会話を終わらせることは可能だろうか。

いや、きっと、絶対にこの男が満足しない限り、夢から出られないという確信がある。

カークは嘆息して、男を見る。


「・・・・・・何の御用ですか」

「お前、弟がいるだろう?」


先ほど整えたばかりの息を詰め、心臓が早鐘を打つ。

まさか、弟に何かするつもりなのか。

緊張と怒りから口がうまく回らない。必死になって口を動かした。


「弟は、弟に、家族に手を出すな!!」


怒声に男は肩を竦めて海色の髪を揺らしただけだ。まるで効果が無いらしい。


「そんな事しないさ。興味ないし・・・・・・言いたいのは、なんというか、さっきも言っただろ?弟には拒絶されているって」


夢の話か?カークは怒りを薄くして、それでも警戒しながら話を待った。


「弟に嫌われるのって辛いんだ。口もきいてくれないなんてひどいと思わないか?だから、」

だからの後に続く言葉を、カークは嫌な気分で聞いた。

「だから、お前に行ってきて欲しいんだ。僕の言葉を届けに」


咄嗟に拒否の言葉が出なかったのは、死への恐怖からだった。

あの少女が言う通りなら死は避けねばならない。いや、いい訳だ。ひたすらに目の前の男の底が見えず、恐ろしかったのだ。少しでも機嫌を損ねたくないという感情を思い出したのだ。

だからせめていい条件を引き出したかった。強欲が身を亡ぼすと分かっていてもだ。


「俺に何の得があるんですか?」

「得??」


全く不思議そうに首を傾げた。純粋な疑問だろうか?

カークはそこで思い至った。多分だが、この男は他者が傅くのが当然の生活を送っていたのではないだろうか。

言えば勝手にやってくれる相手しかいなかったから、相手に利点を伝えて交渉する事が出来ない。

不機嫌になれば即終了。と言う様な惨事になりかねないと再確認して、カークは嫌々ながらも口を開いた。


「例えば、ヒトは金を払って他人にモノを頼みます」

「うーん・・・・・・ああ、さっきの人間達に話しをしてあげるというのは?」

「・・・・・・確実じゃないとさっき言っていたじゃないですか」

「あれ、そうだっけ?言っちゃった?じゃあ、神性を授ける」


得気な顔を見せる男に向かってカークはここ一番で声を荒げた。


「それだけは本当に要らない!!!」

「えー?酷いなあ・・・・・・お前たちが喜びそうな金とかの物質的な物は正直な話、ちからが足りなくて無理なんだよね・・・・・・あ、そうか、繋がっているお前なら、能力が何かあげられるよ」


聞く価値があるだろうかと真剣に考えながら続きを促す。


「例えば?」

「例えばー・・・・・・魚が釣れやすくなるとか・・・・・・昔は結構喜ばれたけど」


カークの微妙な顔を見て男は咳払いをしてから続ける。


「た、例えば!魚群の位置が分かるとか!これも人気だった!」


昔はそれはそれは人気だっただろう。食糧事情だって芳しくないし、レーダーなんかないだろうし、今でも人気なんじゃなかろうか。ただし、それは漁師でありかつ近くに海があればの話だ。川でもいいかもしれないが、このロージニア付近の川は当然ロージニアの管轄であり、個人的な釣り程度であれば見逃してもらえるが、勝手な漁は罰則がある。カークは漁師ではなく、特殊能力としてもらうほどの能力を使っての漁は出来るはずもない。したがって、宝の持ち腐れである。


「もう少し・・・・・・なにか、役立つものを」

「えー!?うう、せめて少しでも信仰があれば・・・・・・いや、お前が信仰してくれたらいいんだ!ほら、僕は神なんだから信仰して!!」


無茶苦茶な事を言い出したその男を見ながらカークは呆れてため息を吐く。


「・・・・・・信仰するにもやっぱり対価が無いと」

「ええー!?人間って強欲だな!!」


不満気な顔を見せた男は口をへの字に曲げてから呻き、掌を額に当てて、ひとつ何か思いついた様子だ。


「僕の司教にするから信仰して。司祭でもいいけど司教の方が効率よく信仰が集められるし、お前の欲しがりそうな身体能力も向上するし、いいことずくめだ」

「信仰するから司教になれるのでは・・・・・・」

「細かい事ばっかり気にするなあ・・・・・・司教にしてあげないぞ」


どういう原理でそうなるのかは知らないが身体能力の向上は美味しい。1つでも上がればゴブリンに八つ裂きされる頻度を減らせるだろう。ルリが負い目を感じなくなるのは良い事だ。それに自分の記憶や精神が削れるなどという聞くだけで正気を失うような悍ましい事も減る。


「分かりました。司教になるには、どうしたら?」

「よし、はい、なった。信仰して」


ぱちんと指を鳴らした瞬間に身体か活力を得られるのかと思ったがそんなことは無かった。

まあ、疑っても仕方がない。なったとこの男が言うならなったのだろう。

目を瞑って、目の前の男をほめたたえた。凄いぞ!背が高くて羨ましい!顔も整っている!


「・・・・・・真剣に信仰してる?」


その言葉に目を開けて真っ直ぐに男を見る。


「司教にしていただき誠にありがとうございます」

「おお、よしよしその調子、その調子・・・・・・もうちょっと・・・・・・」


一体この男には何が見えているのか、全く分からないし分かろうとも思わないがとにかく何か信仰ポイントでもあるのかにこにことしながら視線を固定している。

傍から見ていると狂人のそれである。


「あールリを創造していただいたおかげで小生は・・・・・・えー神の偉大さに触れ、実に素晴らしき領域にあー足を踏み入れることが・・・・・・んー出来、ますますそのえー御威光を広めたく存じます」

「お!貯まった!!よくやった人間!」


男は立ち上がり、満面の笑みを此方に向ける。


「素晴らしい能力が付与できるぞ。欲しいだろう」

自信に満ちたその言葉にカークは期待から喉を鳴らす。

「ど、どんな能力ですか」


勿体なぶって男は言う。


「ふふふ・・・・・・魚を従わせる能力だ」

「要らないですね」


間髪入れずにカークはそう答えて肩を落とした。そもそも、期待したのが間違いだったのだ。神と人間では認識する世界が違う。つまり、価値観も違うのだ。

彼にとっては有用かもしれないが、カークには必要ない。


「何故だ?ダ■■も喜んで使っていた能力だ。それがあれば好きな時に海に属するものと話せるし呼べるぞ。暇なときに役立つ」


途中で聞き取れない言葉があったがそれは無視して“海の属するものを呼べる”という点に着目した。素晴らしい利点だろう。少なくとも海で遭難することは無い。だが、近辺に海は無い。カークはため息を零しかけて止めた。


「魚を食べることもあるので」

「気にしなければいい。僕だってお前たちと言葉が通じるが、気にしない」


(ん?つまり、こいつ人間を・・・・・・)


おっと?何か聞いてはいけない事を聞いた気がする。これは深く突っ込まないでおこう。でなければ冒涜的な情報で自身の精神が危うい。


「うーん・・・・・・陸生の生き物に関係する能力とかないですか」


もちろん最上級は身体能力をさらに向上させたり、敵を屠れる強い異能を授かる事だが、この男に期待してはいけないことはもうわかった。過度な期待は心が折れる。まあただの欲張りなのだが。


「陸は管轄外だからなあ・・・・・・正直、僕と話せるだけで感謝してくれてもいいんだけど?」

「・・・・・・まあ、司教になりましたし・・・・・・それに関しては前向きに検討します」

「そう、感謝して僕を崇めろ、神殿も作っていいぞ」

「神殿は無理ですね」

「司教になったのに、神殿もないのか?」


憤慨したような声を上げる男に苦笑いを向ける。


「なったのは今ですし、神殿はそんなに簡単に出来るものじゃないんですよ」


まず、土地がいるし、資材を買う金が要るし、それを設計する設計士がいるし、組み立てる労働者がいる。神殿何てでかいものを建てようとしたら、カークが何十年と働くひつようがあるだろう。あいにくこの男の為にそこまでする気はない。


「昔はひと眠りしたらできてたものだけどなあ」


そのひと眠り、何十年とかじゃないだろうか?

だが賢明にもカークは口に出さなかった。話しが進まなければ夢から出られない。


「魚を従わせる能力を賜りたく存じます」

「いいのか?良さが分かったか!ほら、あげた」


ぱちんと先ほどと同じ様な音が響いて見上げると男は満足気に頷き、席に着いた。


「じゃあ、伝言を頼んだ。また遊ぼうと伝えてくれ」

「はい。確かに承りました・・・・・・ところで、弟君はどちらに?」


それを聞いて男は目を閉じて首を傾げる。


「一番近い所は・・・・・・お前のいる街の西側の迷宮の・・・・・・ああ、これだ・・・・・・入口に鐘のある迷宮」

「分かりました。こちらでも調べてから伺います」


にこりと男は嗤う。


「お前なら絶対に入れるから、あの子も会わざるを得ない。しっかり、繋げてきてね」


ひらりひらりと手を振られると同時にカークの体が椅子ごと地面に沈み、ちゃぽんと音を立てて沈んでいくと、目が覚める。

朝日が眩しい、宿屋のベッドの上だった。


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